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ナポリの長い長い年末年始

 祝い事というのは、いつあっても良いものだ。が、それが毎日続くとさすがに心身ともに歓喜の飽和状態に陥るというもの。
 ナポリの実家の年末年始は、まるでマラソン・フェスタとも言える長丁場。これを精神力・体力さらに胃の健康ともに100%で乗り切るのは容易ではない。
 24日 クリスマス・イヴの晩餐
 25日 クリスマスの大パーティー
 26日 サント・ステーファノの祝い(亡き叔父の聖人名オノマスティコの祝い)
 27日 ルカの妹の誕生日
  30日 ルカの従妹の娘の誕生日
 31日 大晦日の晩餐
 1月1日 新年の大パーティー

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_6444148.jpg フェスタは、いつも遅い昼食から始まる。午後1時頃から、ちらほらと親戚が集まり始め、まずはアウグーリauguri(おめでとう)!とハグ、両頬にキスで一人一人、残らず挨拶をする。
 誰に挨拶し、まだしていない人はいないか。瞬時に見極め、遠くにいても素早く駆け寄り、この喜ばしく華やいだ瞬間にアウグーリ!としなければ、キッチンなどでああ、まだ挨拶していなかったわね、などとするのは、いとあさましなのである。
 そんな絶妙なタイミングも、結婚当初はよく分からず、溢れかえる親戚の渦の中でルカとはぐれ、右往左往していたのを思い出す。

 今年は意外とこじんまりと総勢16人の元旦ランチとなった。これまでの最高記録では、3年前の24~25人だったと記憶している。例年の大混乱に比べれば、今年は実にゆったりと落ち着いたランチであった。

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_6451244.jpgナポリの長い長い年末年始_f0133814_6453532.jpg
 メニューは毎年、ほぼ変わらない。プリモ:前日にルカの母が作ったラヴィオリのラグー・ソース掛け、セコンド1:ナスのチーズ挟みフリットにトマトソースを掛けてオーヴン焼きにしたもの、セコンド2:ペペローニ(ピーマン)の皮を焼き剥きして、牛のシチュー肉、オリーヴ、松の実などと合わせたもの。

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_6461564.jpg ワインは自家製。ナポリ郊外にある義母の実家の町では、周辺住民が共同でブドウを購入し、各家庭でワイン作りをする習慣が残っている。
 今年はまだ若く甘い状態でクリスマスを迎えてしまったので、味には賛否両論。もう少し休ませれば糖分が発酵し、ワインらしくなるのだそうだ。
 風邪気味で甘味を欲していたこともあるだろうが、微発泡でブドウジュースのようなワインは、ランブルスコに似ていて、スススのスィ~ッと美味しく何杯でも飲めてしまった。でもその後は、ヴェールのメガネをかけているような視界が・・・。ボワ~~ン。

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_6464661.jpgナポリの長い長い年末年始_f0133814_6554542.jpg
 プリモ、セコンド、フルーツの後はドルチェと食後のリキュール。写真左は親戚のロザルバが作ったナポリの伝統菓子。丸いのがロココ(ロコ、最後にアクセント)、白いのがラッファイオーレだったか・・・。耳にもヴェールがかかっていたようだ・・・。右は義母のストリンゲッティstringhetti。リキュールも義母手作りのノチッロnocillo(胡桃のリキュール)、リモンチェッロなど。

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_647888.jpg そして、しばらくするとこんなものが。
 ズッカ・ディ・ホッカイドー!zucca di Hokkaido 親戚のマヌエラはそう叫んでテーブルに供した。そう、北海道のカボチャである。アラビア語を専攻し、合気道を習う彼女は、宮崎駿のファンで『未来少年コナン』の映像を全て持っている。自然食品に興味があり、梅干しと番茶が大好きという不思議なナポリっ子である。
 カボチャを切ってオーブン焼きしただけだが、甘くてホカホカ。イタリアのカボチャはシャリシャリ硬いので、何とも懐かしかった。まさか、こんな場でお目にかかるとは。

ナポリの長い長い年末年始_f0133814_6473399.jpgナポリの長い長い年末年始_f0133814_6483345.jpg
 カフェを飲んだ後は、お約束のカードゲームが始まる。カルタ・ナポレターナcarta napoletanaを使って、トレントゥーノtrentuno 31 というゲームが今日も始まった。
 3枚のカードの合計を早く31にした人が勝ち。ちなみに私の持ち札は、左が10、中が5、右が1で現在の合計は18。ルカも私もこういうゲームは苦手。いつもこの時間になると、ねずみのようにコソコソ逃げるのだが・・・、今年は人数が少なかったこともあり捕まってしまった。
 ちなみにこのナポリ式カード、ゲームによって数え方が変わるらしい。せっかく覚えたのに無駄だったか・・・。まぁ良い、来年はこれを逃げる言い訳にしよう。

 ナポリの実家では、こうして年末年始のフェスタを過ごす。ランチのパーティーと言えども、お開きになるのは夜の11時以降。他の場所でフェスタを終えた友人や親戚が、午後6時過ぎから次々に登場し、スプマンテの栓がポーンと抜かれ、パネットーネが振る舞われ、カードゲームはさらに興奮は一途をたどるのである。
 みんな元気だな、と感心しつつ見ていると、連日のフェスタで目の下にクマがくっきり。結構ボロボロな感じ。でも、家族と親戚が集まる1年で特別な時だから、多少の無理をしても一緒に盛り上がりたい!そういう気持ちがビッシビシ伝わってきた。
 いや、カードゲームへの気合だった・・・かな・・・。

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# by hyblaheraia | 2008-01-08 09:12 | ナポリの実家

ナポリの大晦日

 大晦日には108回鳴らされる除夜の鐘を音を聞き、静かに新年を迎える。仏教では、人間の心に108の煩悩があると言われているから・・・と説明すると、ナポリの家族はへぇ~という顔をした。
ナポリの大晦日_f0133814_4572398.jpgナポリの大晦日_f0133814_4591242.jpg
 それもそのはず。ナポリの大晦日はとんでもないほど騒がしい。
 日本の花火大会で見るような打ち上げ花火が、近所の其処彼処からひっきりなしに放たれるのだ。ヒュ~~~、ドンドン、パンパン、ビリビリッ!何が何だか分からない大音響とともに、火薬の燃えた臭いと、煙だらけの空気が漂い始める。そして時折、ドーンという鈍い地響きが起こる。腹に響くようなその轟は、ここは戦場かと思わせるほどだった。
 特に今年は凄かった。年々エスカレートしているのだな。こういう本格的な花火は、いったいどこで売っているんだろう。

ナポリの大晦日_f0133814_515093.jpgナポリの大晦日_f0133814_523248.jpg
 そんな大晦日、ルカの母は朝から夕方まで忙しい。朝の買い物を大量に済ませた後、キッチンでまずはストリンゲッティstringhettiを作る。ナポリの年末年始の定番菓子で、パスタのような生地を薄く延ばし、小さく切って揚げ、熱々の蜂蜜ソース(リモンチェッロ、マンダリンのリキュールなどが入る)をかけて冷ましたもの。周りに散らしたカラースプレーは小さな姪たちの大好物。これを小さな手で一つ一つ摘んでは、嬉しそうに食べている。
 バールで売られているストリンゲッティは小さなボールの積み重ねでできているが、ナポリの義母は昔からこの形。ドーナツ型に空洞を作るのにも、毎年このグラスが用いられる。完成したストリンゲッティが出番を待つのも、毎年、食器棚のこの場所。これを見ると、ああ今年も終わりだな、とつくづく思うのだ。
 
 さて、大晦日の仕事はまだ終わらない。翌日の大パーティーのための、ラヴィオリravioli作りがあるのだ。25日のクリスマスにも同じようにラヴィオリを作るので、この時期、二度、この作業をすることになる。完成したラヴィオリは、ブロード(自家製コンソメ・スープ)とトマトソースと、大抵、二味楽しむ。
ナポリの大晦日_f0133814_541037.jpgナポリの大晦日_f0133814_544364.jpgナポリの大晦日_f0133814_552821.jpg
ナポリの大晦日_f0133814_563648.jpgナポリの大晦日_f0133814_57914.jpgナポリの大晦日_f0133814_574262.jpg
ナポリの大晦日_f0133814_585429.jpgナポリの大晦日_f0133814_592829.jpgナポリの大晦日_f0133814_510248.jpg
 こうしてを込めて、を込めて、新年への願いを込めて、丁寧に作り上げていく。そのテンポの良さに、私はただ見ているだけ。

ナポリの大晦日_f0133814_511893.jpg そしてまだ作業は終わらない。
 次はこれ。既に皮をむき、冷凍しておいたナスを解凍し、大理石のキッチンテーブルに並べ、同じ形の物同士を合わせ、中にチーズのプローヴォラprovolaフィオール・ディ・ラッテfior di latteを挟む。
 去年、この作業ならと思って手伝ったのだが、重ねたナスがほとんどOKにならなかったので、チーズを切る係りに回った。
 ナスをきちんと合わせて、チーズも隠れるように。でないと、揚げたときに崩れるから。と、多少違うナスもぴったり同形に整え、チーズをナスのカーブに沿って切り、隅々に目を光らせながら手早く、見事なナス合わせをしていた。
 手伝いたくても、かえってお邪魔に。なので、味見係を率先して引き受ける。


 こうして忙しく大晦日を過ごすのは日本もイタリアも同じ。ただ、夜の空に響く音はか・な・り違う。そして元旦の迎え方も、さにあらず・・・。

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# by hyblaheraia | 2008-01-05 06:31 | ナポリの実家

家族10人でクリスマス

 日本では普通、クリスマスは恋人や友人と過ごすものだが、我が家では昔から家族全員でと決まっている。正月の朝ももちろん、全員でお雑煮とお節料理を食べなければ出かけてはならなかった。
 昔は土日もファミリータイズの日として家にいることが原則だった。特に何をするわけでもないけれど、午前中は家族で庭の草むしりなどをし、昼と夜には全員で食事をし、ただ家族がウロウロ、ワサワサ家にいなければいけない週末だった。
 大学時代、それが変っていると友人に言われるまでそんなに意識したことはなかった。今思えば大事な時間だった気がする。
家族10人でクリスマス_f0133814_2357279.jpg家族10人でクリスマス_f0133814_23582314.jpg
 今年は我々が結婚して初めて家族全員が揃うクリスマス。母の気の入れ方もいつもと違い、この通り。バルタン星人のような青い電飾が嬉しそうにグランドピアノのコーナーに張り付き、光ファイバーのクリスマス・ツリーとともにギラギラと。外から見えるように派手に!が今年の母のテーマなのだそうだ。派手すぎじゃない?
 クリスマス・プレゼントも日に日に増えていった。家族の人数分よりずっと多い!

家族10人でクリスマス_f0133814_23585920.jpg 両親、姉夫婦、弟カップル、二人の祖母(90歳と92歳)、そして我々の総勢10名のテーブルセッティングは大変。誰がどこに座るかでいろいろもめたり、グラスが端数だったり。
 テーブルクロスは私の希望で、汚れるのが分かっていて白にした。家族全員が揃うこのテーブルを晴れやかにしたかったからだが、やはりドロドロに・・・。

家族10人でクリスマス_f0133814_001137.jpg 我が家のクリスマスには必ずローストビーフが登場する。これは5kgの松坂牛の塊。1週間前から部位と量を細かく指定して予約する。当日は1時までに引き取りに行き、食する3時間前に周りに塩を揉み込み、紐を巻きつけ、オーブンに入れて弱火でじっくり焼く。

家族10人でクリスマス_f0133814_004276.jpg家族10人でクリスマス_f0133814_012565.jpg
 家族全員が揃ったら、いよいよシャンパンの用意。泡(あぶく)系が殊の外好きな我が家では、これが3本は必要。冷蔵庫にもまだ2本控えているので安心して飲む。
 ラグーザから持ってきたワイン、ウッティ・マユーリ(Utti)Majuriもデキャンタして、ローストビーフに備える。
家族10人でクリスマス_f0133814_023728.jpg アンティパストはサーモン、生ハム、ラグーザで作った自家製オリーヴなど。食べながらもプリモの準備などで立ったり座ったり。
 サーモンに添えたケッパーcapperiもラグーザ製。塩漬けのもので、半日くらい水に戻して料理に使う。

家族10人でクリスマス_f0133814_033080.jpg家族10人でクリスマス_f0133814_035981.jpg
 ポルチーニのリゾットを食べた後、いよいよローストビーフ。オーブンから出して30分ほど休ませてから切る。そうでないと熱過ぎてきれいに切れない。
 このローストビーフ切り係りは大役。薄く均等に切るのは意外と難しいのだ。今年はルカが担当し、拍手喝采の中見事に10枚切り分けた。ブラーヴォ!
家族10人でクリスマス_f0133814_055477.jpg 次々とシチリア・ワインが空き、何をどんな順番で飲んだのかほとんど覚えていないがとにかく楽しく、美味しかった。
 食事が一通り済んで、大プレゼント交換会が催され大いに盛り上がり、コーヒーとチョコレートへ。姉が持ってきたこのチョコレート、東京では有名なのだそう。フランスものだったと思うが、名前は忘れてしまった。上質のチョコレートで、箱も美しく、たくさん食べたらもったいない気がしてしまった。

家族10人でクリスマス_f0133814_0630100.jpg 食器を片づけて一息ついたらなんだかまた泡系が飲みたくなってしまた。
 弟の彼女が持ってきてくれたこの一本を空け、フルーツとともにスルスルッと。ボトルにはこのシャンパン会社のどなたかかのサインと我々の名前が入っていた。ステキなプレゼント、ありがとう!!
 グラスは前に母と旅行した時にムラーノ島で買ったもの。花のようなフォルムと薄い金色が二人とも気に入っている。ほろ酔いの父が既に二脚割ってしまったが、そんなことも予想して10脚買ってあったのでヤレヤレ。

 何はともあれ、こうして2007年のクリスマスは日本の家族と和気あいあいと過ごした。
 クリスマスは家族全員で。この決まり、やっぱりいいな。

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# by hyblaheraia | 2008-01-01 01:50 | 一時帰国

心に映るもの

 心が違うとこうも違って見えるものだろうか。大学入学を祝って祖母が歌舞伎座に連れて行ってくれたのは16年前のこと。これから音楽を専門に勉強するのだから日本と西洋の文化の違いを知っておいて欲しい、という粋な誘いにより、一等席で《義経千本桜》などを鑑賞した。

心に映るもの_f0133814_1412893.jpg しかしあの時は、実は少々退屈していた。台詞に肯きながら目を輝かす祖母の横で、昼食休憩の時間を今か今かと待ちながら。
 それがどうだろう。自らの意思で赴いた今回は、歌舞伎の世界に徹頭徹尾興奮し、拍手喝采ととともに思わず黄色い声が出そうになった。
 歌舞伎はまさにエンターテインメント、大衆芸能、ただ感情のままに素直に楽しんで良いものなのだろう。艶やかな舞台と軽やかな動きに魅了され、心臓を突くような音響効果にハラハラさせられた。
 張りつめた空気の中で幽玄の世界が開かれる能とは対極にある世界だった。

心に映るもの_f0133814_1421111.jpg 今回は一幕見《紅葉狩》を鑑賞した。年末とあって、一幕見の入口には長蛇の列。呑気にチケット発売15分前に行ったら、立ち見になってしまった。
 それでも4階は舞台までそう遠くはない。花道が見えないのが残念だったが、オーチャード・ホールの最上階でオペラを観るよりずっと近い。お弁当の匂いが強烈に立ち込めているのも、なんだか親しみが感じられる。
 隣の年配女性とおしゃべりしたり、上演中度々オペラグラスを貸していただいたり、一人で出かけたのに想像以上にエキサイトし、立ち見席を後にする時、ああ楽しかった!と思わず歓声を漏らした。

心に映るもの_f0133814_1433222.jpg心に映るもの_f0133814_145094.jpg
 遊園地で遊んだ子供のように興奮して帰宅すると、北海道の友人から新鮮なホタテウニタラコが届いていた。このウニ船が3艘、さらにこの巨大ホタテ5つ入りの皿が5皿!、天然のタラコがどっさり。ホタテもウニもタラコもラグーザにはない。久し振りに見るその姿に心底見とれ、写真を撮っていたら父に、何しているんだ!遊んでないで早く!と怒られた。まぁまぁ、いいじゃないか、これも美味しく食する行動の一つ。
心に映るもの_f0133814_1501570.jpg 焙り用にホタテの貝も入っていて、日本酒を注いで焙った。
 日本酒とホタテのエキスがぐつぐつと煮え、潮の香りが漂う。ぷりぷりの食感に透き通った海の味。ああ、こんな味をラグーザ人にも教えてあげたい。
 キースト・エ・ブオーノ!Chisto e' buono!(これは美味しい!)と言うに違いない。

心に映るもの_f0133814_1515194.jpg 取れたて新鮮なので刺身ももちろん。貝好きの私にこの生ホタテと紐はたまらなかった。海の優しい味と貝のとろけるような甘さ、コリコリ感。肝は再び日本酒を注いで焙るとムチムチに。
 ルカも魚介好き、このホタテにはうなる。90歳と92歳の祖母たちもニコニコ。母も弟も絶賛。そして焙りから刺身の下ろしまで誰よりも興奮した父。
 食べ終わると親指も高速スピードで回っていた。

 歌舞伎に興奮し、海の幸を堪能し、今日一日の出来事の余韻に浸りつつ思った。曇った鏡に何も映らないように、心も磨いておかなければ、様々なものが心に留まることはないのだろう。歌舞伎の面白さが心に映るのに16年かかってしまったが、それでも通り過ぎた美を拾ってきたような気がして嬉しかった。
 だから、ラグーザの学生たちに今は伝わらないことがあってもいいだろう。彼らの心の鏡の準備ができたら、きっと振り返る時が来るはずだから。ラグーザの自然とともに、それまで何年でも静かに待っていたい。そしていつか、日本文化を通して互いの心を映し合いたい。

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# by hyblaheraia | 2007-12-31 07:50 | 一時帰国

魂の対話 -能舞台の神秘-

 初めて能に触れた17年前、舞台で繰り広げられる抽象世界から、得体の知れない魂の威力を感じた。その記憶が生々しく蘇り、あの時以上に震撼した。
 ここに再び戻って来たことが嬉しく思えた。時間はかかったが、気付かずに通り過ぎるより良いだろう。「ないよりは遅い方がまし Meglio tardi che mai.」イタリアではそういう言い方がある。

魂の対話 -能舞台の神秘-_f0133814_22444151.jpg 観世能楽堂は大いに変わっていた。ロビーには人がごった返し、能楽専門書店と土産物店が開かれていた。弁当を広げながら狂言を見る習慣はなくなり、何より立ち見が出るほどの盛況ぶりに心底驚いた。そして嬉しかった。
 年齢層はもちろん高め(50代以上?)で、全体で4時間かかる公演中に居眠りするご老人も見受けられたが、それも微笑ましい光景だ。
 そしてこの熟年層の熱気に負けず、若者も増えている。やはり野村萬斉等の功績や、能楽の世界がよりオープンになり、初心者向けのサイトや本が充実し始めたことと関係があるのだろう。
 太郎冠者:いやはや、良いことじゃ、良いことじゃ。
 Hybla冠者:なかなか(その通り)。

魂の対話 -能舞台の神秘-_f0133814_2245927.jpg魂の対話 -能舞台の神秘-_f0133814_22445365.jpg
梅若研能会 12月公演
 能 松風(まつかぜ)
 狂言 地蔵舞(じぞうまい)
 能 山姥(やまんば)
 帰国中に名作の組み合わせに出会える幸運。下勉強をして行ったので、『松風』の叙情的な場面を自由に感じることができた。
 大鼓方と小鼓方の裏返る声が浜辺のうねる風ならば、能管の厳しい響きは姉妹の霊の叫びだろうか。面の奥から発せられる籠もった声は、地唄の生の声と対照され、現世と黄泉の国との隔たりを感じさせる。面に松風と村雨(むらさめ)姉妹の性格の違いが見え、思わず息を呑む。在原行平(ありわらのゆきひら)の形見である烏帽子(えぼし)と長絹(ちょうけん)を手にした松風の、何かを見据えるあの覚悟の目。高度に抽象化された世界でのあらゆる所作とその意味を追う。
 心を無にして舞台に預けたら、受け止めきれないほどの魂の迸り(ほとばしり)が返ってきた。「信じて飛べ」中沢新一の言葉はこういうことだったのだろうか。宗教でなくても、信じて飛ぶのは能もオペラも同じだ。

魂の対話 -能舞台の神秘-_f0133814_22452091.jpg魂の対話 -能舞台の神秘-_f0133814_22453248.jpg
 『松風』で想像以上の衝撃を受けたので、休憩時間にロビーの書店で『山姥』の謡本縮刷版(B7)を買った。これを見ながら今度はより言葉に集中した。台詞の繰り返しと強弱、よどみない流れと溜めの部分、子音のぶつけ方などが手に取るように理解できる。
 隣の女性は、紙が茶色く焼けて端が折れ、使い込まれた謡本を時折見ていた。他にも謡本持参の観客が多数いた。オペラの字幕のようなものかな。

 こうして短い帰国中に、忘れていた美に立ち返り、心に深い栄養を与えている。今は無心でその美に触れようとしているから、舞台から凄まじいエネルギーを与えられる。年を深めた将来は、舞台の出来事に人生経験を重ねて、より柔軟に対話できるようになるだろうか。
 そんな魂の対話の神秘を、ラグーザで日本語を学ぶ生徒たちに伝えたい。まだ遅くはないはずだ。

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# by hyblaheraia | 2007-12-17 01:50 | 一時帰国


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


by hyblaheraia

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2013年11月、共著出版



2009年4月、共著出版



1999年3月、共著出版


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