ラグーザと音楽学 -ブログ200回記念-

ブログ200回を記念して

 17~18世紀イタリアのカンタータを研究する音楽学者という隠れた肩書を持ちつつ、ここラグーザの大学では日本語と日本文化を教えている。二足の草鞋を履く今の生活は私に新たな知見と視野を与えてくれて、何とも心地良く楽しい!そしてこのブログを通じて、そんなラグーザ生活を綴り、皆さまと対話できることに限りない悦びを感じている。
 今日は自己紹介を兼ねて、私が普段どんな地味な研究をしているかをお伝えしてみようと思う。

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 フィレンツェ国立古文書館所蔵、17世紀イタリアの聖職者・作曲家アントーニオ・チェスティ(Antonio Cesti, 1623-1669)の手紙(1656年)。

 生まれて初めてチェスティの自筆史料を手にした日のことは忘れられない。17世紀のおびただしい手紙の迫力とカビ臭さに負けそうになりながら、良く知るあの署名を見つけた時の感動・・・。彼の筆致を見つめながら対話する時間、それが永遠であれば。ああ、チェスティ。


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 その後向かったピサ国立古文書館では、1649年代のチェスティの書簡内容と紙の透かしを調査。左は手紙の束、右は昔の封筒。紙を三つ折りにして蝋で封をしたもの。

f0133814_7463673.jpgf0133814_7465830.jpgf0133814_7471568.jpg 当時の紙には、紙を作った会社の透かし模様がほぼ必ず入っている。
 重要史料なのでトレーシングペーパーでの写しは認められず、手紙を窓の光に透かして見て、模様をスケッチしてきた。
f0133814_7493566.jpgf0133814_7495326.jpgf0133814_750131.jpg 獅子、羊、鷲、羽付き獣などの意味深なお絵描。
 母が見た瞬間、何これ?!と言ったのがおかしかった。透かし模様は作品の年代特定の重要な鍵を握っているノデス!


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 1665年3月11日、インスブルックにてInspruck 11 Marzo 1665
 殿下にDi V.S.Sereni:ma
 慎ましく忠実な僕 アントーニオ・チェスティDevotiss:mo et obb(ligatissimo) servo. Antonio Cesti
 と署名されている手紙。インスブルックが、インスルックと書かれていたのが笑える。これをコピーして学会発表や試験の時のお守りにした。

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(ヴァチカン図書館所蔵、チェスティのカンタータ《その夜は静まり返りEra la notte e muto》)

 17世紀に書かれたチェスティのカンタータの手稿譜(手書きの楽譜)。こういう楽譜を求めて、定期的にイタリア各地の図書館を巡る生活を8年ぐらいしてきた。
 これは清書譜なので問題ないけれど、インク染みや虫食いで読譜困難なものも中にはある。さらに歌詞もやっかい。昔の書き方に慣れるには数年かかったものの、筆跡観察大好き人間!いくら見ていても飽きない。

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(モデナ、エステ家図書館所蔵、チェスティのカンタータ《あの高い塔の上から-皇帝ネロ-Sopra un'eccelsa torre -Il Nerone-》)

 チェスティの自筆譜発見か!と、この手稿譜を見るたび密かに燃えたものだ。写譜していたなら起きないであろうミスが多々あるけれど、これだけでは特定できない。
 このエステ家図書館で生涯初の手稿譜調査をした。目の前に置かれた楽譜を開く前に、思わず匂いを嗅いだのは動物的反応だったな、と思い出す。


f0133814_11431022.jpg 音楽学と全く関係のないラグーザに来て、初めは随分途方に暮れたけれど、シチリアの歴史と文化に共感できるのも、これまでの研究があったからだと思う。

 常識に縛られず可能性を試し、先の見えない作業も地道に忍耐強く進めていくこと。その途中で迷いがあっても、自分を信じてとにかく進み続けること。無駄なような作業にも、実は大事なプロセスがあること。
 そんなことをチェスティとの12年の付き合いから学んだ。
 そして今もまだ、彼と同時代人の音楽から多くを教えられている。

 ブログ200回記念。今更ながら自己紹介を綴ってみました。ラグーザと音楽学という不思議な取り合わせで、これからも楽しくブログを続けていきたいと思います!


写真と音楽のコラボ、番外編:
 マグダレーナ・コジェナーが歌うJ.S.バッハのカンタータBWV30《来たれ、汝ら、責め苛まれし罪人ら》より第5曲、「喜べ、贖われし群れよ」。筆写譜に着いたインクのシミからヒントを得た楽しい想像の物語。そのストーリーは・・・?
 音楽学は音楽の考古学のようなもので、作曲家の活動や作品を様々な方法で謎解きするものだと私は思う。筆跡研究、史料研究の素晴らしさをバッハから学び、今の私があることを忘れず頑張ろう!

これからもどうぞよろしく・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-05-03 12:01 | ブログ・・・周年とゲーム


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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2013年11月、共著出版



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