ヴェネツィアは外国

 嵐の如く現れ、嵐の如く去っていった豪飲豪食一家の後は、静けさが戻り・・・
と言いたいところだが、ルカの学会発表のため我々は慌しくヴェネツィアへ向かった。
 両親との北イタリア旅行で5日前にヴェネツィアから帰ったばかりだったが、今回は旅行気分どころではない。世界で5本の指に入る心配性のルカが学会で発表をするのだから大変だ。側にいる私もその緊張をもろに浴び、まるで酸素の薄い水槽にいる金魚2匹のようだった。

f0133814_013112.jpg 毎年イタリア各都市を回りながら開催される伊日研究学会Associazione Italiana per gli Studi Giapponesi(AISTUGIA)が、今年はヴェネツィアで行われた。
 ルカはここで、与謝野晶子の『君死にたもうことなかれ』における平和主義に関する発表をした。
 イタリアの学会はこういうポスターが美しくていつも感心する。私の所属する日本の学会は事務的な感じで、学者の硬さが滲み出ている。

 それにしても疲れた。ラグーザを早朝6時起きで出発し、ホテルに着いたのは午後8時。同じイタリアなのに14時間の距離。我々にとっては実家のナポリも、ヴェネツィアも、もはや日本に行くのと同じくらい遠い遠い外国なのだ。

f0133814_021283.jpg 翌朝、ルカは発表会場の確認に行くと言う。しかし、世界で10本の指に入るほど方向音痴なルカを一人で行かせるわけにはいかない。保護者同伴と相成る。
 これはヴェネツィア、カ・フォスカリ大学 東アジア研究学部の入り口。

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 中に入ると、木の張り天上と赤レンガの組み合わせが美しいヴェネツィア的な空間が広がる。こんなところで日本や中国の文化が勉強されているとは・・・、と感心しつつ、ラグーザ大学を見た人が同じようなことを言っていることを思い出した。
 階段を上がる途中で、イタリア人のグループの女性と肩がぶつかり、ア、スミマセン!階段を急ぐ若者が、シツレイシマス。おぉ、なんという感動的な異文化の接触!

f0133814_041624.jpg 発表会場は2つ。そのうちここは、普段大学の授業で使われる教室らしく、日本と中国の本が壁の本棚にぎっちりと詰まっていた。
 赤いカーテンと大きな窓の後ろには、ヴェネツィアの小運河が流れている。発表中にアコーディオンの陽気なメロディーとゴンドリエーレの歌声が聴こえてきたりして、和やかな雰囲気がなかなか良かった。
 私の属する学会はもっと意地悪な雰囲気。

f0133814_045362.jpg イタリア人はカフェがないと生きていかれない。学会の休憩時間には、こうしてカフェブレイク会場に人が押し寄せる。カフェ、デカフェ、紅茶、ソフトドリンク、水、そして色採り採りのドルチェ、さらに小腹が空いた人のためにサラティーニ(塩味の小さいパイなど)も用意されていた。
 会員でもないのに、ここでおやつをつまみ、いろいろな人の会話にふむふむと耳を傾けていた。

f0133814_052988.jpg ルカの発表は緊張気味だったが素晴らしかった。彼の日本語と詩歌の理解力にはいつも感服させられる。
 与謝野晶子の詩歌は、寄っては返す波のように言葉の意味が重なり合い、読めば読むほど煙に巻かれるような感覚に私などは陥るのだが、それをまず直感的に読み取り、その後、一つ一つ丁寧に解釈し、同時代の他作品との比較を通して彼の論を展開する。社会的側面からの鋭い読みがルカの論文の際立つ点である。
 とにかくお疲れ様。一番集中すべき時期に、家族が来てゴ迷惑ヲオカケシマシタ。ホテル近所のパスティッチェリーア(菓子店)で味見済みの良質菓子を、部屋のミニバーに隠しておいた。頑張った後の、リラックスしたルカと食べるお菓子は最高だった。

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 他の先生方と晩ご飯を食べた後、まだまだ飲み足りない様子のルカとワインバーへ。発表後にぱーっと飲みたい気持ちは良く分かる!飲まんね飲まんね(長崎の友人から習った)!と赤ワインを1本、ヴェネツィアのクッキーとともに楽しんだ。
 店内はこんなロマンティックな雰囲気。なんだか恋人時代を思い出してしまった。

 さて発表翌日、ルカは他の発表を聞きに学会へ。私は予てから行きたかったモンテヴェルディの墓参りにフラーリ教会へ。

f0133814_1264665.jpg クラウディオ・モンテヴェルディ(Caludio Monteverdi,1567-1643)は、ルネサンスから初期バロックへの移行期に数々の傑作を残したイタリアを代表する作曲家。彼の作品に何度心を救われ、いかに多くのことを教えられただろうか。
 尊敬する作曲家の墓がフラーリ教会にあると知ったのは、隣の古文書館で彼の自筆の手紙と同時代の作曲家の楽譜を調査し終えて帰国した時だった。その無念さと言ったら・・・。
 今日こそ、その日!敬虔な気持ちで教会に入る。ウォークマンで《倫理的宗教的な森Selva morale spirituale》(1641)を聴きながら、ゆっくりとゆくりと。観光客が一心に見つめるティツィアーノVecellio Tiziano1490-1576の《聖母被昇天》は私の目には入らない。彼の墓を探して、探して・・・。

f0133814_1333149.jpg 係員に尋ねようと思っていたところだった。
 遠くから楽譜立てが目に入り、体中の細胞液がうごめくような感覚とともに、無心でそこに向かった。

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 ああ、我が師、モンテヴェルディ。彼のメロディーが頭の中に響き渡り、目に熱いものが溢れた。その胸像を見つめ、感謝の気持を伝えた。
 献花をしたい。一度、外に出てまた入り直そう。と思っていたところに、ルカから電話。今どこ?、フラーリ教会でモンテヴェルディのお墓参り・・・。あ~そう。じゃあそこに行くから。説明せずとも私にとって大事な時間であることが分かる。
 10分後、奇跡的にルカも教会に到着(何度も人に聞いたそう)。マエストロ、こちらがルカです。初めまして、ルカです。夫婦共々ご挨拶。
 一人で寂しく史料調査をしていた頃を思い出しながら、これからはルカがいる、イタリアに家族がいると心強く思った。さらにルカの学会発表に感化されつつ、音楽学の研究を続けねば、どんな形でもいいから続けたい、と思いを新たにしたヴェネツィア滞在だった。

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by hyblaheraia | 2007-10-09 02:57 | 大学・研究


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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