行商の叫び声

 ウ・ポモローリ、チプッドゥ、ピーラ、プーマ~~!ア・メランツァーナ、イククッツィ、ピエルスィキ~~~~!!(U pomorori, cipuddu, pira, puma! A melanzana, icucuzzi, piersichi!)
f0133814_6284299.jpg ラグーザ弁でトマト、玉葱、洋梨、りんご!ナス、ズッキーニ、桃!と叫んでいるのは、私の贔屓(ひいき)にする行商の八百屋、ラッファエーレ(Sig. Raffaele Mezzasalma)だ。
 3大テノール顔負けのリリコ・スピントで、今日仕入れた旬の野菜と果物を叫び歌いながら、毎週火、木、金、土の朝11時半頃に我が家の近くを軽トラックで移動する。
 愛車は緑色の幌のついた軽トラック。そこに人参、ズッキーニ、ナス、ピーマン、玉葱、インゲン、赤インゲン(ボルロッティ)、地元の長ズッキーニ、ソース用トマト(丸形)、サラダ用トマト(細長)、りんご、桃、ネクタリン、すもも、白ぶどう、レモン、バナナ、塩、にんにく、上段にはイタリアンパセリ、テネルーム(地元の長ズッキーニの蔓)、サラダ菜、ロメイン・レタスなどが所狭しと積まれている。

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 レタスやパセリ、バナナなどは1個単位で売られるが、その他は計りに乗せ、分銅を使ってキロ単位で売る。値段はいたって良心的。そして新鮮さが売りだ。特別な買い物をしない限り、大抵は2~3ユーロほどで済む。欲しい野菜はあらかじめ予約もできるので、私は6月にシチリアの野生オレガノoriganoを予約し、自宅で乾燥させ、手もみする。今年はまだ干したままだが、そろそろ始めよう。

 ラッファエーレの行商の叫び声は旋律的である。音楽学的に解釈するならば、モルデント(装飾音型)で始まり、2度音程を重ねながら5度上昇し最後に1オクターヴ一気に下降するというもの(ラ♯シドーシ、レ♭ード、ミ♭ーレ、ミ~ミ!)。2回目のフレーズは少々レチタティーヴォ的になり、最後に彼の声量が爆発する(ドドレ♭ード、レレミ♭ーレ、ミ~ミー!)。
 お祖父さんの代から3代に渡ってメッツァサルマ家はこの歌い方を守ってきた。一家のブランドとも言えるこのメロディーが聴こえると、どこからともなくシニョーラたちが財布を手に現れる。ラグーザ弁で和気藹々と買い物をしていると、時に「ラッフィエーッ!(南の訛り)人参とレタスをちょうだい~!」と叫ぶ声が降ってくる。見上げると、足の悪い老女がバルコニーから身を乗り出し注文している。「はい、ただ今!・・・・・・シニョーラ・トゥンミノ、2.5ユーロです!」と彼が言うなり、その金額の入った編み籠が紐でするすると下ろされ、そこに注文の野菜が入れられる。重い時は持ち上げられないので、ラッファエーレが玄関先に置いておくこともある。こういう買い物の仕方は、イタリアでももはや田舎でしか見られないそうだ。

f0133814_8181287.jpg 彼の心の行き届いた商売振りは見ていて本当に気持ちがいい。老人の買い物には必ず手を引いて玄関先まで送り届け、車椅子の老女が住む2階の家には、階段を上がって御用聞きをする。もちろん頼まれた品物を、再び2階まできちんと届ける。
 地元の老人たちは一代目の時からこの八百屋を贔屓にし、ラッファエーレを子供の時から知っている。だから一人暮らしでも安心して御用聞きを頼めるのである。こうした商人と客との家族のような付き合いは、行商文化ならではだろう。
(写真:野菜を家まで届けるラッファエーレ。当のお婆さん[右]はまだおしゃべりをしている。)

 シチリアでは行商をヴァンニャトゥーリvanniaturiと呼ぶ。八百屋ばかりでなく魚屋包丁研ぎ屋葬式の告知屋などもいたそうだ。この辺ではパン屋玉葱売り(春のみ)、ジャガイモとソラマメ売り(春のみ)、ホウキ売り絨毯売り洗剤売りなども通る。毎朝10時半に来るパン屋のおじさんは、もはや声が出ないのか、2度のクラクションで合図をするので少々残念でもある。
 行商人の間では、通り道と時間帯に関して商売のテリトリーが厳格に定められている。同業者がばったり出くわすことは絶対になく、突然、売る場所が変わるということもない。客の方は彼らの通る時間とルートを熟知しているので、それに合わせて午前中を過ごす。パン屋が来る時間には、玄関前で待つ老人もいる。こういう風景を見ていると、ラグーザの穏やかな生活には常に変わらぬ行商が不可欠だということを実感する。

 しかし最近は行商に陰りがさしかかり始めている。ラグーザ郊外に巨大なショッピング・モールが相次いで立てられ、今も建設ラッシュは止まらない。こうした大店舗の出現で、昔ながらの個人商店が打撃を受けるのは当然だが、それ以上に店を持たない行商人たちは次第に居場所を失っていくことになる。
 ラッファエーレの声が今日も石畳の静かな町並みに響いている。今は廃れ行くシチリア行商文化の最後の灯火にならないことを、心から願うばかりだ。
ラッファエーレの歌を聴いてみる♪(2007年春録音分)

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by hyblaheraia | 2007-07-19 09:13 | 伝統・技術


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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