幾重もの山を越え 後編 -モンテ・ラーチ~ラグーザ-

 ラグーザの美しさが凝縮されている山、モンテ・ラーチ(Monte Raci、ラーチ山)。春にはアーモンドの木々が溢れるほどの白い花を咲かせ、のんびりと草を食べる牛や羊が平和でノスタルジックな雰囲気を作り出す。夏にはイチジクやサボテンの赤い実がたわわに実り、全ての植物が生命の温存を図る冬が去った後は、再び様々な息吹が溢れ出す。

f0133814_141156.jpg だが、その美しさは単に四季の移り変わりによるのではない。この山に刻まれたシチリアの悠久の歴史が、自然の景観に真の命を与えているのだ。
 モンテ・ラーチのふもとには、紀元前6世紀のギリシア時代のネクロポリスがある。ラグーザ海岸西部のカマリーナ(Camarina)から、次第に内陸に移住してきたギリシア人たちの墓場であったそこには、壷や皿、土偶、首飾りなどの生活道具のミニチュア品が亡骸とともに葬られていた。
 ラグーザ新市街のイブレオ考古学博物館(Museo Archeologico Ibleo di Ragusa)
には、それらの出土品が展示されている。その中で、女神デメートラ(Demetra)の赤い素焼き(テッラコッタ)の土偶が含まれているのが印象的だった。大地の実りや五穀豊穣を司るデメートラは、コレ(Kore, Core)とともにシチリアの古い女神信仰の一つを物語る存在である。古代ギリシア人は、日々の農耕を守った女神を棺にそっと置き、亡き人が死後も豊かに暮らせるよう願ったのだろう。


f0133814_14315.jpg モンテ・ラーチを左に大きく回り込むと、これまで越えてきた山々が背後に連なる。長距離バスからは見えなかったが、新石器時代以来の歴史を有す町、キアラモンテ・グルフィ(Chiaramonte Gulfi)を通ってきた。
 毎年、数々の金賞に輝くイブレオ高原DOP(伝統製法による製品)のオリーヴオイルは、ここで作られている。小ぶりで硬めのオリーヴ果実の、若々しい青さとコクが衝撃的に後を引き、当たり前だがオリーヴオイルはオリーヴでできているということを実感させられる。パンニョッタ(pagnotta、セモリナ粉で作る地元パン)にさっと一かけし、その上にシチリアの野生オレガノをひとつまみ。オリーヴオイルの最も素朴にして最も贅沢な食し方、ファッチャ・ディ・ヴェッチャ(faccia di veccia、「老女の顔」の意)を今日も食べたくなった。


f0133814_16394633.jpg この辺りの斜面では、ナスカの地上絵のような不思議な石垣が目に付く。
 ムーロ・ア・セッコ(muro a secco、「乾いた壁」の意)と呼ばれるこの石垣は、土地を耕した時に出てくる石を槌で叩き割り、整形し、セメント類を一切使わずにこつこつと積み上げて作られる。熟練した技術と途方もない時間を要するこの壁を、ある年配職人は、完璧なものではなく、多少いびつで素朴なものこそ美しいというラグーザ人の美意識と誇りの集大成だと言っていた。なるほど、地元のフォカッチャもシチリア・レースも、手間暇かけたものの良さは、全てこの一言で説明できる。
f0133814_1641480.jpg この石垣によって、農民同士の土地の境界が明確になり、種類の異なる野菜栽培も可能になる。また栽培物のダメージの広がりを食い止め、家畜を守る柵としても機能する。手間はかかるが、なんとも合理的な石垣である。


f0133814_16542262.jpg 眼下に隣町、コーミソ(Comiso)が広がる。空気が澄んでいれば、さらに先の町ヴィットーリア(Vittoria)と地中海の水平線が見える。

 この景色の独占を許された山、モンテ・ラーチは、太古の人々の願いと葬られた人々の魂、繰り返された多民族の戦い、そして農民たちの知恵と大自然の厳しさをも、何世紀にもわたって見続けてきたのだろう。

 こうして豊かな景色を眺めつつ、幾重もの山を越えてきた。シチリアの歴史と文化と精神を感じさせる国道514号の道のり、ぜひじっくりと味わってほしい。


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by hyblaheraia | 2007-05-21 08:34 | 自然


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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