野鳥と心が通じる日

 東京に住んでいた頃は、知っている鳥と言えばスズメ、ハト、カラス、ニワトリ(それも食用、チキン)くらいで、改まって鳥のことを考える機会などなかった。それがラグーザに住み始めてからというもの、ゴシキヒワ、クロウタドリ、アオガラ、オオツバメ、カササギ、シマフクロウ、コウモリ、の存在を知り、飛び方や聞こえてくるさえずりで、「誰」なのか分かるまでになった。鳥だけでなく、雲の動き、光の強弱、風のそよぎ、土の色の変化、季節と星の関係など、私を取り巻くあらゆるものにも敏感になった。そして現在の家に引っ越してからは、バルコニーからの野鳥観察が毎日の楽しみになった。デジカメでの撮影だけでなく、さえずりの録音もする。

f0133814_16401594.jpg クロウタドリ Turdus Merla(写真左)は、その名の通り歌い方のバリエーションでは他の野鳥を凌駕する存在である。のどの辺りの羽を鋭く立て「クリクリクリー、クリクリクリー」とぜんまいを巻くような声を出すかと思えば、体を伸ばし、羽を下向きに軽く広げて「ディ・ディキディキ・ディ・ディキディキ・ディー」と泣いたりもする。その姿はペンギンにどこか似ている。高い声で「フィーーゥ」、甘い声で「ピュ~~」と泣く時はその愛らしさにメロメロになる。雛たちが遊ぶときは、少しつぶれた声で「エエエ、エエエ」、とじゃれあい、やんちゃぶりを見せる。
 観察していると、どうも彼らの間ではその年ごとに流行のメロディーがあることが分かってきた。去年はロックのようなリズムで「ウウアー/ウウアー/ウア・ウア・ウア・ウア/ウ・アウアウー」(2拍子)、と歌うのが流行っていたが、あれはきっと近所から聴こえてくるバンドの練習を真似ていたに違いない。
 こうしてバード・ウォッチングだけでなくバード・ヒアリングの楽しみも知った。

 引っ越してから知った鳥もいる。
 イタリア語ではチンチャレッラ Cinciarellaと呼ばれるその鳥は、体長10センチ程と小さく、背と頭が鮮やかな青、胴体は黄色、腹に黒い線、顔は白く、目にはアイライナーのような黒い線がすっと引かれている。あまりの鮮やかさに、最初はどこかで飼われているカナリアが逃げてきたのかと思ったほどである。f0133814_1603322.jpg
 日本名はアオガラ。スズメ目シジュウカラ科の鳥で、ヨーロッパとアフリカ北部に生息し、番い(つがい)で暮らす。高所を好む彼らは、高台に建つ家々の、さらにそこより高いアンテナの上に留まっていることが多い。だから急な坂道のほぼ頂上に位置する4階の我が家では、チンチャレッラたちの姿を毎日目にすることができる。


 先日こんなことがあった。さえずりが普段より近くに聴こえたので、デジカメを手にバルコニーに出てみると、f0133814_1614949.jpg我が家のアンテナで歌っていた一羽のチンチャレッラが、私に驚いて向かい宅に飛んで行ってしまった。 「ピッコリーノ(ちびちゃん)、どうして行っちゃうの?こっちにおいでおいで」、と話しかけると、呼びかけに応えるようにこちらに戻ってきて、恐がることもなくアンテナの上でかわいらしい歌を聞かせてくれた。
 ほんの数十秒の出来事であったが、野鳥とこれほど間近にいて、言葉を交わし、心が通じ(たつもりで)、言いようのない悦びに満たされた。この2枚はその時の写真。
 右は我々がまさに見詰め合っている瞬間。


 ところで鳥類と人間の間には、色彩の感じ方に違いがあるそうだ。人間の目の網膜には赤、緑、青(RGB)を感知する視細胞があるが、鳥類にはさらに紫外線の一種を感知するそれが加わる。例えば、人間には黒一色に見えるカラスも、彼らの間では違って見えるらしい。そして我々にはオスメス同じに見えるチンチャレッラも、彼らの間では、冠羽(かんう、かんむりばね、頭の部分)の近紫外線反射率で、その違いが感知されている。
 とすると、あの日、心が通じ合ったチンチャレッラは、私の頭の近紫外線反射から何を感知したのだろうか?おそらくイタリア人とは異なる反射をするのだろう、私は。

 チンチャレッラが歌っている間、私は感嘆の声を上げながら目尻を垂らして見つめていた。バルコニーから家に入ると、夫に「誰と話してたの?」と聞かれ、「チンチャレッラと」と答える自分がおかしかった。
 アッシジの聖フランチェスコのように、鳥と会話ができるようになる日はそう遠くはないかもしれない。

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by hyblaheraia | 2007-05-04 01:59 | 野鳥・昆虫・動物


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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