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ランペドゥーサ -難民の怒り-

 それは起こるべくして起こったとしか言いようがない。劣悪な滞在環境と不当な扱い、希望の見えない状況でただひたすら入国許可を待つ彼らの、忍耐と精神の限界が尽きたのだ。

ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_155720.jpg 今朝、ランペドゥーサの難民一時保護施設、Cie(Centro di identificazione ed espulsione身元確認・国外退去センター)で大規模な火災が発生した。
 チュニジアからの難民300名が、同朋107名の本国強制送還について抗議行動を起こしたためである。

 実は、ランペドゥーサでは先月から緊張状態が続いていた。
 1月24日には、不当に拘束され続ける難民たちが施設を脱出。他都市への自由な移動と家族を呼び寄せる権利を主張して、大規模な抗議運動を起こした。翌25日は市民側も動いた。ランペドゥーサに第二の難民保護施設を建設し、イタリア中の難民を全て移送する政府の計画に対し、市長を先頭に市民が猛烈な反対運動を展開したのである。

ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_214477.jpgランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_221366.jpg
 「この島はアルカトラズではない!Questa non è Alcatraz」そういう声が聞こえてきた。
 もはや来るところまで来たのだ。東京の実家からイタリアのネット版ニュースを追っていた。


ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_229034.jpg ランペドゥーサの保護施設は、一般人はおろか報道陣にも硬く閉ざされ、中身を窺い知ることはできない。しかしそこにエスプレッソ紙L'espressoガッティ記者Fabrizio Gattiが難民を装って潜入し、体験した一部始終を暴露したことがあった(写真参照)。
 記者によると、ベッド数800床の施設内には常時1600~1700人が押し込められ、ベッドのない人々はスポンジ状のマットレスを敷き、シーツもまともな毛布もなく寒さに震えている。トイレも水道も大多数が故障し、施設内は汚物と排泄の異臭が充満しており、食事は地面に直接並べて取り、薬もない。イタリア語の分からない人々に対して警官の暴力も執拗な嫌がらせもある。
 彼の記事には、非人道的な有様の一部始終が記されている。


ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_6343689.jpg しかし、何の理由があって難民を不当に扱うのだろう。彼らの安全は「難民の地位に関する条約」(1951)によって国際的に保障され、生命に危険のある本国への送還を禁じているはずである。
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)のサイトから難民定義を抄訳すると、難民とは、

 人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある者。
 あるいは十分に理由のある恐怖を有するために、国外にいて自国の保護を受けることができない者。
 またはそのような恐怖を有するために自国の保護を受けることを望まない者。
 およびこれらの事件の結果として自国に帰ることができない者。
 またはそのような恐怖を有するために自国に帰ることを望まない者。
とある。


ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_8101881.jpg ランペドゥーサにいるのは、内戦や紛争、政治的迫害、人権侵害から逃れるためにアフリカ大陸を移動し、チュニジアから粗末なボートに乗ってヨーロッパを目指してきた人々である。男性ばかりではなく、女性も子供も、妊婦も乳児もいる。それだけ事態は切迫しているということだ。

 もし我々日本人にも同様の危険が及び、船でロシアへ逃げねばならなくなったとしたらどうだろうか。辿りついたロシアの難民収容所で不当に8か月も拘束され、最終的には危険な本国に強制送還されることになったらどうするだろうか。
 想像しにくいことではあるが、自分の身に置き換えて考えると問題の重大さが深く刺し込んでくる。


ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_8343972.jpg シチリアから遠く離れたイタリア市民は、ランペドゥーサの難民問題をどう感じているのだろう。最初の脱走事件の翌日に、首相ベルルスコーニはこう言った。
 彼らは自由にビールを飲みに行ってもいいんだ sono liberi di andare a prendersi una birra」
 軽率な一言にまたか、と失望した。重大な事態を軽く見せかけるための、お決まりのパフォーマンスだ。右派の政治家たちも「ランペドゥーサは4つ星ホテルだ」などと言っている。
 ならば、ぜひ泊まりに行ったらいい。


ランペドゥーサ -難民の怒り-_f0133814_8174235.jpg イタリアでは最近、難民・移民への強硬策が相次いでいる。
 2月5日には、不法移民を医師が通報する義務を定めた法案が上院で可決した(下院で再審議あり)。以前は医療倫理に基づき、通報を禁じていた法律が逆のものになりつつある。もちろん医師会やキリスト教団体から強い反発が上がっているが。

 また、マローニ内務省は「不法移民問題に対して善良者である必要はない。が、断固とした悪者でなければならない。」

 「簡単に入れるから彼ら(難民)はやって来て、誰も彼らを追い出さないのだ。まさにそのために、態度を変えることにした。」などと発言して物議を呼んだ。
 こういう無責任な発言は、ナイーヴな国民にも影響するのだ。イタリア人は仕事も家もないのに、ランペドゥーサはでは4つ星ホテルで毎日食事付きだ、と信じているシチリア人も結構いる。


 これから暖かくなるとボート難民がランペドゥーサに次々入って来るだろう。統計によると、チュニジア~シチリア間の海峡では、1988年以来12,566人が死亡し、4,646人が行方不明となっている。命がけの逃避を物語る数である。
 増え続ける難民と、最低半年はかかる滞在許可証、それに伴う不法滞在、不法労働、及び労働の搾取。
 シチリアに暮らす一外国人として、この問題とどう向き会って行けばよいのか、日々模索している。

(写真はレプッブリカ紙、エスプレッソ紙等から転載)

追伸:去年8月からずっと伝えたかったアフリカからの難民問題。今日の暴動ニュースで一気にまとめました。

難民の権利について考えさせられます・・・。     
by hyblaheraia | 2009-02-19 08:44 | 政治・社会


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