ラグーザに流れるもの

　インフルエンザがよくなりかけていた節分の日。黄色の小鬼に恵方巻を催促され、家にある具材で何とか作り、盛り上がっていたところ、その日の夕方から激しい腹痛と猛烈な吐き気、下痢に襲われる。数日後、ホームドクターに往診に来てもらうが原因不明、救急病院に行ったり、救急車で別の病院に搬送されたり、かくかくしかじかあって12日間、病院のベッドが空くのを自宅で点滴をしながら、ひたすら待ち、ようやく入院。

　ところが空きを待ちすぎて、入院したころに今度はすい炎を併発。退院後は2ヶ月もの間、自宅で静養。年末年始のナポリのマラソンフェスタでふくふくだった時から7キロも体重が落ち、痩せ痩せになったけれど、体力と気力も少しずつ回復し4月末から大学に復帰。

　大学復帰初日、皆に笑顔で迎えられ、係員に「今日は誕生日かい？」と言われ何のことか分からず教室に入ると、机に大きな大きな花束が！
　元気なオレンジ色いっぱいの、ずっしりと重い花束。みなさん、お久しぶりです。元気でしたか。私はもうだいじょうぶです。きれいなお花をありがとう。とてもうれしいです。。。。。　涙が出てしまった。

　一生忘れ得ない思い出。こんな素敵な日、何かせずにはいられなかった。中庭に出て皆でワーワーはしゃぎながら記念撮影。大学中の人々に見られ、超目立ってしまったけれど嬉しかった。

　ベッドで苦しみながら、私このまま死んじゃうのかな、と思ったことが嘘のようにラグーザの青い空に軽やかに吸い込まれて行った日。私、復活！これからやることが山積みだ。さあ、頑張ろう！

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皆様、そんなこんなでずっと更新していませんでしたが、もう大丈夫です。今年の復活祭は、私自身の復活祭でもありました。お知らせしたいことがたくさんありますので、これからじゃんじゃん更新します！

更新していないにもかかわらず、たくさんの方が見に来て下さっていたことを今知りました。本当にありがとうございます！お知らせ、楽しみにしていてください！！

　穏やかに晴れ上がったある1月の朝。旧市街イブラに降りるバスは道路工事で不通のため、歩いて大学へ。
　こんな澄み切った空と背中を押す温かい太陽を浴びていると、鳥と一緒に青さに吸い込まれていく心地になる。
　10数年前から、ここを通る時はいつも同じ。ただ、階段を下りる足腰は、やや疲れ気味。
青さをバックに、青さを見上げるのもいつも変わらない。その力強さを感じ、授かりながら、前へ進み、

V字の谷の切り込みに思わず振り向かされ、身体ごとその深みに持って行かれそうになることも、

はたと気付いて、谷底の一家の変わりない生活に安堵し、
あの丘の向こうの丸い平地に視線を向ける一連の心の動きも、十数年前から変わらない。

この変わらない月日の中で、唯一私の周りで変わったことは、

私が最初に教えた学生の一人がTAとして授業の補佐に入ったこと。私が最初に教えた学生がママ友として幼稚園やバレエ教室で一緒になったこと。それ以外は、いつもの風景に、いつもの厳しさと優しさが舞い降りて来る。

このラグーザの大学に日本語を学びに来る学生たちの、秘めた好奇心もまた変わらない。彼らと一緒に学び、ふざけ合える時間が戻ったことに限りない嬉しさを感じている。

：：：：：追伸：：：：：

皆様ご無沙汰しております。ずっと更新できずにおりましたが、家族みな元気です！昨年からまた大学で教えていて、毎日バッタバタです。でも今やスマホもあるし、写真が簡単！スマホからのブログアップも勉強しなければ。

またブログを通じておしゃべりできたら嬉しいです！

　リディアが幼稚園に行っていて、我々二人だけのある日のランチのこと。冷蔵庫にあるものでパスタを作ろうということになり、ひき肉と野菜数種を炒めていたら、想像する味の世界が別の方へ膨らんでいき、思わず一言。　ああパンナ（生クリーム）があればなぁ…。　それを聞いたルカが始めたのは、
ガガガーッ、ガガー。牛乳に油を細く垂らしながらハンドミキサーで混ぜる、手作り生クリーム！本当にできるのか半信半疑だったけれど、みるみるうちに牛乳にとろみが付き、

この通り！これは完全に生クリーム。ついでに舐めて、なめクリーム！

　早速、パスタの具に投入。　このトロ～リとした垂れ方が嬉しい！本当に本当に生クリームだわ！

　出来上がりはこの通り、味も満足。ほんのり甘くて濃厚な生クリームが野菜のうま味をぎゅっと閉じ込めて、小さい筒のパスタとよく絡むこと！

　美味しいね！凄いね！と嬉しがってチーズを削り入れると、さらに濃厚な味に。

　

　ガーガー生クリーム、簡単に作れることが分かってしまったので、これからの料理が楽しみでもあり、恐くもあり…。

　それにしても論文を書いている間にこんなことをネット検索していたとは…。

　2か月の東京滞在から戻って来ると、シチリアにはまだ夏を思わせる太陽が照り付けていて、


空にはただ、ただ青が色濃く塗られていた。この何もなさにほっとし、ゆったりとした人々の時間と仕事の感覚に安堵する。

　はからずも、週末は慣れ親しんだ教区教会の、ロザリアの聖母祭りと重なっていた。ドラムの音に思わず家族3人、家から飛び出し、プロチェッシオーネ（キリスト教の宗教行列）の列に連なる。まるでその教区の昔からの住人のように。

　悲哀とコミカルさが混じり合った、不思議な魅力のシチリアのブラスバンドに心をくすぐられるのは毎年のこと。

ああ、この音、静かな熱気、喜ばしい空気、そして久しぶりに会う友人たち。長い東京滞在から戻ってきて、こんなふうに思うとは思わなかった。自分たちの居場所としてのシチリアを。

追伸：長い間、更新していませんでしたが、時々見に来てくださった皆さん、ありがとうございました。またブログを再開しますので、楽しくお話できたらと思います！

　復活祭の長い休みの間に思いつき、のんびりと時間をかけて作った「空の見えるキッチン」。最初から設計図やイメージがあった訳ではなく、作りながらひらめき、改良し、またアイディアが湧くという、自由かつ流動的な方法で、最近形になったばかり。

　材料は段ボールやお菓子の箱、包装紙など。カッターや鋏を使う作業は私が一任、デザインの詳細は優柔不断な母に代わってリディアの一言で決まったもの多し。例えば、オーヴンの取っ手は黄色かオレンジにしようとしたら、No, no, ブルーがいいの！と。後ろの壁に貼り付ける包装紙で迷っていたら、たくさんの色にして！と希望。こうしてブルーを基調にした、タイル風の仕上がりになり、さらに、

オーヴンの使い方も指示。リディアがコレクションしている牛乳のふたをオーヴン下段にポイポイ投げ込み、これは火なの！と。グリル部分にするつもりだったけれど、火がパチパチ音を立てるのもいいものだ。　

　そして窓。キッチンから見える景色を考えていたら、ラグーザの空はあまりに魅力的で一つに絞れず、いろいろな空に取り換えられる窓にしてみたくなった。リディアと一緒に空の絵を描き、

天気の良い日は、いつも見ている向こうの丘とその上を流れる青い空を。


夕方には赤く染まる西の空を。

突然の悪天候に見舞われたときは、激しく叩き付ける雨を。

でもリディアは雨があまり好きではない。雨とにらめっこしながら、料理に勤しむ。

さかな雲が泳ぐ穏やかな昼間の空や、水の中の生物 Fifilaglis（フィフィラーグリス、リディア命名）が訪ねてくる日もあったり。

そして長い一日が終わり、寝る時間には、月夜の空にお休みなさい。

　山の町ラグーザの、刻々と変わる空模様を肌で感じながら、野菜を洗ったり、切ったり、食事に招待してくれたり。普段のおままごとにこれまでとは違う時間と、空気と、風がふわりと入って来た。

　立体的な空間と時間を認識することで、自分のスペースの概念もまた生まれたよう。外から帰ってきて手を洗いましょう、と言うと、ルカを連れて手を洗いに行ったり、ルーコラを洗うのを手伝って、と言うと、ちょっと待ってて！とルーコラをわしづかみにして洗って来るなど、リディアの生活の場の一部となりつつある。

　最近は、星の輝く夜空を描こうと言っている。季節が変われば、また違う空と景色を描きたくなるだろう。もう少し大きくなったら、私が手伝わなくても、新しく見つけた空を一人で描くのではないかな。実家のある東京やナポリの空も。

　キッチンの窓と空は、リディアの目と心そのものなのかもしれない。新たに加わる空の絵とともに成長を見守るルカと私の目も心も、そこに注がれている。

追伸：リディアに「フリーゴ（冷蔵庫）は？」と問われる毎日。最後の写真のドラえもんが乗っている箱が冷蔵庫になる予定。