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ラグーザで歌舞伎の実技 -隈取り編-

 センセイ、歌舞伎のtrucco(化粧)をやりたいです。
 ええ?!化粧って、あの真っ白で赤線のすごいやつ?!学生の意外な希望により、本当にやることになった。一時帰国中に歌舞伎のDVDや本は集めたけれど、まさか隈取りとは・・・。

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 急遽、ピエロ用の舞台化粧を探し、筆やらパフやら用意した。隈取りの仕方もネットで勉強し、基礎的な順番を知った。まずは白塗りをし、色を使う時は赤、青、黒の順に。必ず上方部を先に、次第に下方部へ
 この手順を教え、隈取り8種のカラーコピーを机に2枚置いただけなのに、この通り。想像力豊かにテキパキと作業を進めるな学生たち。ブラヴィッスィモ!
 あの~みなさん、本当は歌舞伎役者は自分で隈取りをするんですよー。ええ、まじ?!鏡があればできるさ!いろいろな答えが返ってきた。

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 隅取りが完成し、乾くのを待つ間も、はやる気持ちを抑えきれない様子。にわか拍子木(すりこぎ棒なんですが・・・)でカンカンと。あるいは激しく見得を切る。よぉっ、デッカイ!
 左:景清の隈 右:不動明王の隈

f0133814_135845.jpg 結局、7人も隈取りをした。全員の顔が完成した頃には、大学が閉まる時間に。
 みなさ~ん、片付けましょう!早く、早く!
 なんか、幼稚園の先生みたい・・・。

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 最後に、若衆3人の見得。左から景清の隈の青ヴァージョン、不動明王の隈時平(しへい)の隈
 この日のために鬘を用意したセバスティアーノ君。Parrucca(鬘)はどうしたらいいですか?と聞かれ、白いプラスティック紐を使う方法を勧めたら、農業用品店で野菜を束ねる紐を見つけ、こうやって作ってきた。素晴らしい!

 みんなでジャルディーノ(庭園)に行って、お爺さんたちを驚かせちゃおうか?!
 ワルワル教師はそんなことを言ってみたら、エーイ!行こう行こう!ということに。
歌舞伎の授業は、まだまだつづく・・・。

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by hyblaheraia | 2008-01-21 02:38 | 大学・研究 | Comments(6)

歌舞伎の実技 -見得と六方編-

 目をつぶっても見えてくる。夢の中でも見得を切り、六方を飛んでいる。ラグーザの学生と歌舞伎の世界を全身全霊で表現し、腹の底から大いに笑った。我が人生で忘れ得ぬ日となるだろう。

f0133814_6453860.jpg 土曜日は全学年で見得と六方、隈取りをやりましょう。その予告に、予想以上の学生が集まった。しかも私より早く。おお、熱気が既に!

 まずは持参した旅芸人道具の披露。擦りこぎ棒2本は拍子木の代わり。大学時代にかじった龍笛(雅楽)、そのほか甚平、半被、浴衣、白塗りの化粧道具、などなどボストンバッグから次々と出す。
 そして歌舞伎の掛声屋号の背景について説明。オペラのブラーヴォ!と同じですよ。な~るほど、という顔をしていた。

f0133814_6155661.jpg さて不動の見得石投げの見得を実際にやってみる。
 よぉ~っ!と掛声をかけると、みな一斉によぉ~っと見得を切りまくり、ノリノリ!目も寄ってる!
 そしていよいよ飛び六方。人数が多かったので2グループに分けて飛んでみる。

 タカタカタカタカ・・・下座音楽(効果音)も口真似で。右手をゆっくり、たっぷりと後方へ。

f0133814_6163342.jpg よぉ~っ、トン!で右足を踏み出し、
チャン、チャン、チャンチャンチャン・・・・・・、右手の平を7回、音に合わせて返しながら上へ。

f0133814_617577.jpg ピーヒャ~、で右、左、右、左とリズミカルに、そしてダイナミックに!
 これはもう飛んでいるところ。

 六方とは、東西南北さらに天と地を意味するそうだ。あらゆる方向に、荒々しく飛ぶからだろう。

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 こちらは第2グループ。もうこの頃には皆汗だく。第1グループの女の子は、先生、汗をかいたら隅取りはできませんか?と聞きにくるほど。大丈夫、大丈夫。
 身体のそり具合がいいですな。ダンスか何かをやっているのかな。

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 さて、皆汗をかいたので休憩を入れることに。その間、浴衣を持参したアンナさんとアネェーゼさんに着付け教室を。
 この浴衣は、日本のホスト・ファミリーからのプレゼントだそう。下駄には桜の花が描かれていて、女の子たちの注目の的だった。足袋がないので、靴下の先をぐ~っと延ばしてから履いていた。ほほう!感心!
f0133814_16114139.jpg 3人ともそこに並んで!写真撮らせて!
 という声に従い、ポーズ。

 前にはカメラマンが15人ほどのズラリと並び、ちょっとしたモデル気分。ちなみに左2人はスニーカーを履いている。
 いいのいいの、雰囲気が大事。


f0133814_6255744.jpg 休憩後は、隅取りタイム。
 隅取りしたい人は?と尋ねると、Si'!と次々手が挙がる。化粧道具、足りるかな・・・。

 白塗のファンデーションなどはラグーザで購入。学生から隅取りの希望が出た時はどうしようかと悩んだのだが、ああ!ピエロの化粧がある!と思い出した。

f0133814_6262750.jpg 皆が被っている黒い帽子は、実は水泳帽。水泳帽、ゴーグル(度付き)、競泳用水着2着は必ず手元にある。こんなことに使うことになるとは。
 
 皆、初めてのことなのに、テキパキ、シャキシャキ、。凄い!

 学生の隅取り、その出来栄えやいかに?!

 ・・・・・・つづく。

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by hyblaheraia | 2008-01-20 08:00 | 大学・研究 | Comments(0)

能との出会い

 Bellissimo!素晴らしい!思わず叫んだ。学生もワォ!ハハハ!、盛大な拍手で喜びあう。ラグーザ大学の学生が能舞台の神秘を会得した瞬間だった。
 今週から「日本伝統舞台研究Laboratorio di teatro giapponese」と題して、能・狂言・歌舞伎を西洋のオペラと比較する集中講義を行っている。各学年2回の講義で能・狂言・歌舞伎の概説と作品鑑賞をした後、全学年合同による3回の実技では実際に演じてみるというものである。

f0133814_201692.jpg 既に能・狂言の概説を終え、今日はいよいよ能の実技。

 まずは自宅から持参したミスプリントのA4紙を配り、蛇腹折りで扇子を作ってもらう。みな真剣な表情。もっとリラックスしていいですよ~。
 几帳面に折られたものや、次第に斜めに曲がっているものなど出来上がりはまちまち。こういうものには、性格が現れるみたい。

f0133814_21185097.jpg 次に、ビーチ用の井草シートを敷き、和装について簡単に説明。着物も足袋もないので、温泉でもらった足袋形の靴下と、偶然もっていた浴衣を使用。即席デス。
 学生にも着せ、歩いてもらう。着物の感覚や歩幅の狭さを体感して欲しかったからだ。
 濃い青紫色がとても良く似合うエレオノーラさん。携帯電話のカメラで写真を撮りまくる他の学生たち。こんなところは、日本もイタリアも同じだな。
 続いて、能の構エ、運ビ、型をやってみる。まずは運ビの練習。
 私が先頭になり、その後ろに学生が長い列になって教室の中をソロソロ、グルグル。パソコンの様子を見にきた係員は、この様子に驚き、扉の前で固まっていた。ふふふ。

f0133814_20171175.jpg 今度は扇子を手に、サシ込ミに挑戦。
 これは女性のサシ込ミ・・・のつもり。みんな神妙な面持ち。
 みなさんはお面をしています。着物を着ています。女の人です。歩幅passiは狭く、エネルギーを感じながら・・・。と、催眠術師のように唱える私。そして催眠にかかる学生たち。

 さらにシオリ(泣く)、モロジオリ(激しく泣く)、合掌笛を吹く琵琶を弾く、など前回勉強した型を一通りやってみる。少しずつ、幽玄の世界を理解し始める。

f0133814_2033553.jpg 次は何をしましょうか・・・と問いかけると、学生の一人が月を見る!と提案。ああ、そうだ。先週の授業内容をよく覚えていたな、と心底感心。嬉しかった。
 これが月ノ扇。月を見る型。目線がもっと上でないと。
 はい、みなさん月を見てください!

 こうして能の動きを実演したあと、今度は地謡に挑戦。《紅葉狩り》の冒頭部分:
 時雨を急ぐ紅葉狩、時雨を急ぐ紅葉狩
 深き山路を尋ねん
 
 ところが、マスターコンピュータがフリーズしてCDもDVDも使えなくなった。係員に調整してもらっている間、仕方がないので拙い謡いで一節ずつ教える。観世流のCDで猛練習した成果を、こんな形で披露することになるとは・・・。
 でも恥を捨てて謡ってみたら、学生も恥ずかしがらず大きな声で付いて来てくれた。ラグーザの山奥で、地謡が朗々と響く土曜の朝。こんなことラグーザ史始まって以来ではないかな。
 最後に10人ずつシテと地謡グループに分かれ、《紅葉狩》の冒頭部分をDVDのBGMをかけながら一緒に演じてみた。プロのようにはいかないけれど、生まれて初めて能の謡と舞を行った彼らは、充実感に満ちた素晴らしい顔をしていた。

 授業終了後もまだ興奮の余韻が残る教室・・・。
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 まだ踊り足りなかったのか、アルフレード君は突如、急の舞を舞い始める。どうやら前回の授業で診せた《道成寺》蛇体の鬼女の真似らしい(写真下の右が本物)。すると・・・

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 セバスティアーノ君が現れた。扇子を数珠に見立て、鬼女を成仏させる僧侶となって。一同、大笑い!
 興奮の冷めない番外授業。こんなふうに能を体で感じ、覚え、遊んでくれるとは、感激ニテ候!

f0133814_2031483.jpg 来週は歌舞伎の実技をやる予定だと話すと、隅取り(派手な化粧)をやりたい!とか、カツラはどうする?とか、絵の具なら持っているわよ!とか、またもや盛り上がった。
 いや~~~、楽しみですなー。
 最後はみんなで写真も一枚。アルフレード君、ちょっとテンション高すぎじゃない?

 ラグーザに住む幸せがまたここにも。でも、今日は一段と強く感じた。

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by hyblaheraia | 2008-01-13 23:22 | 大学・研究 | Comments(12)

心に映るもの

 心が違うとこうも違って見えるものだろうか。大学入学を祝って祖母が歌舞伎座に連れて行ってくれたのは16年前のこと。これから音楽を専門に勉強するのだから日本と西洋の文化の違いを知っておいて欲しい、という粋な誘いにより、一等席で《義経千本桜》などを鑑賞した。

f0133814_1412893.jpg しかしあの時は、実は少々退屈していた。台詞に肯きながら目を輝かす祖母の横で、昼食休憩の時間を今か今かと待ちながら。
 それがどうだろう。自らの意思で赴いた今回は、歌舞伎の世界に徹頭徹尾興奮し、拍手喝采ととともに思わず黄色い声が出そうになった。
 歌舞伎はまさにエンターテインメント、大衆芸能、ただ感情のままに素直に楽しんで良いものなのだろう。艶やかな舞台と軽やかな動きに魅了され、心臓を突くような音響効果にハラハラさせられた。
 張りつめた空気の中で幽玄の世界が開かれる能とは対極にある世界だった。

f0133814_1421111.jpg 今回は一幕見《紅葉狩》を鑑賞した。年末とあって、一幕見の入口には長蛇の列。呑気にチケット発売15分前に行ったら、立ち見になってしまった。
 それでも4階は舞台までそう遠くはない。花道が見えないのが残念だったが、オーチャード・ホールの最上階でオペラを観るよりずっと近い。お弁当の匂いが強烈に立ち込めているのも、なんだか親しみが感じられる。
 隣の年配女性とおしゃべりしたり、上演中度々オペラグラスを貸していただいたり、一人で出かけたのに想像以上にエキサイトし、立ち見席を後にする時、ああ楽しかった!と思わず歓声を漏らした。

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 遊園地で遊んだ子供のように興奮して帰宅すると、北海道の友人から新鮮なホタテウニタラコが届いていた。このウニ船が3艘、さらにこの巨大ホタテ5つ入りの皿が5皿!、天然のタラコがどっさり。ホタテもウニもタラコもラグーザにはない。久し振りに見るその姿に心底見とれ、写真を撮っていたら父に、何しているんだ!遊んでないで早く!と怒られた。まぁまぁ、いいじゃないか、これも美味しく食する行動の一つ。
f0133814_1501570.jpg 焙り用にホタテの貝も入っていて、日本酒を注いで焙った。
 日本酒とホタテのエキスがぐつぐつと煮え、潮の香りが漂う。ぷりぷりの食感に透き通った海の味。ああ、こんな味をラグーザ人にも教えてあげたい。
 キースト・エ・ブオーノ!Chisto e' buono!(これは美味しい!)と言うに違いない。

f0133814_1515194.jpg 取れたて新鮮なので刺身ももちろん。貝好きの私にこの生ホタテと紐はたまらなかった。海の優しい味と貝のとろけるような甘さ、コリコリ感。肝は再び日本酒を注いで焙るとムチムチに。
 ルカも魚介好き、このホタテにはうなる。90歳と92歳の祖母たちもニコニコ。母も弟も絶賛。そして焙りから刺身の下ろしまで誰よりも興奮した父。
 食べ終わると親指も高速スピードで回っていた。

 歌舞伎に興奮し、海の幸を堪能し、今日一日の出来事の余韻に浸りつつ思った。曇った鏡に何も映らないように、心も磨いておかなければ、様々なものが心に留まることはないのだろう。歌舞伎の面白さが心に映るのに16年かかってしまったが、それでも通り過ぎた美を拾ってきたような気がして嬉しかった。
 だから、ラグーザの学生たちに今は伝わらないことがあってもいいだろう。彼らの心の鏡の準備ができたら、きっと振り返る時が来るはずだから。ラグーザの自然とともに、それまで何年でも静かに待っていたい。そしていつか、日本文化を通して互いの心を映し合いたい。

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by hyblaheraia | 2007-12-31 07:50 | 一時帰国 | Comments(0)

魂の対話 -能舞台の神秘-

 初めて能に触れた17年前、舞台で繰り広げられる抽象世界から、得体の知れない魂の威力を感じた。その記憶が生々しく蘇り、あの時以上に震撼した。
 ここに再び戻って来たことが嬉しく思えた。時間はかかったが、気付かずに通り過ぎるより良いだろう。「ないよりは遅い方がまし Meglio tardi che mai.」イタリアではそういう言い方がある。

f0133814_22444151.jpg 観世能楽堂は大いに変わっていた。ロビーには人がごった返し、能楽専門書店と土産物店が開かれていた。弁当を広げながら狂言を見る習慣はなくなり、何より立ち見が出るほどの盛況ぶりに心底驚いた。そして嬉しかった。
 年齢層はもちろん高め(50代以上?)で、全体で4時間かかる公演中に居眠りするご老人も見受けられたが、それも微笑ましい光景だ。
 そしてこの熟年層の熱気に負けず、若者も増えている。やはり野村萬斉等の功績や、能楽の世界がよりオープンになり、初心者向けのサイトや本が充実し始めたことと関係があるのだろう。
 太郎冠者:いやはや、良いことじゃ、良いことじゃ。
 Hybla冠者:なかなか(その通り)。

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梅若研能会 12月公演
 能 松風(まつかぜ)
 狂言 地蔵舞(じぞうまい)
 能 山姥(やまんば)
 帰国中に名作の組み合わせに出会える幸運。下勉強をして行ったので、『松風』の叙情的な場面を自由に感じることができた。
 大鼓方と小鼓方の裏返る声が浜辺のうねる風ならば、能管の厳しい響きは姉妹の霊の叫びだろうか。面の奥から発せられる籠もった声は、地唄の生の声と対照され、現世と黄泉の国との隔たりを感じさせる。面に松風と村雨(むらさめ)姉妹の性格の違いが見え、思わず息を呑む。在原行平(ありわらのゆきひら)の形見である烏帽子(えぼし)と長絹(ちょうけん)を手にした松風の、何かを見据えるあの覚悟の目。高度に抽象化された世界でのあらゆる所作とその意味を追う。
 心を無にして舞台に預けたら、受け止めきれないほどの魂の迸り(ほとばしり)が返ってきた。「信じて飛べ」中沢新一の言葉はこういうことだったのだろうか。宗教でなくても、信じて飛ぶのは能もオペラも同じだ。

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 『松風』で想像以上の衝撃を受けたので、休憩時間にロビーの書店で『山姥』の謡本縮刷版(B7)を買った。これを見ながら今度はより言葉に集中した。台詞の繰り返しと強弱、よどみない流れと溜めの部分、子音のぶつけ方などが手に取るように理解できる。
 隣の女性は、紙が茶色く焼けて端が折れ、使い込まれた謡本を時折見ていた。他にも謡本持参の観客が多数いた。オペラの字幕のようなものかな。

 こうして短い帰国中に、忘れていた美に立ち返り、心に深い栄養を与えている。今は無心でその美に触れようとしているから、舞台から凄まじいエネルギーを与えられる。年を深めた将来は、舞台の出来事に人生経験を重ねて、より柔軟に対話できるようになるだろうか。
 そんな魂の対話の神秘を、ラグーザで日本語を学ぶ生徒たちに伝えたい。まだ遅くはないはずだ。

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by hyblaheraia | 2007-12-17 01:50 | 一時帰国 | Comments(6)

通り過ぎた美

 こんなにきれいだっただろうか。実家近くの何気ない景色に思う。公園の木々は天高く伸び、紅葉の茂みは風にさらさらと音を立て光を反射する。時折、雀や椋鳥(ムクドリ)が楽しげに戯れる姿が見え、烏の切なげな声が遠くに聞こえる。空は思いの外青く、個性的な雲が自己主張している。
 なかなかではないか。東京都心にも心和ませる風景がまだまだある。
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f0133814_16113887.jpg 久しぶりに見る赤い木々に懐かしさが込み上げてきた。いいですな、紅葉。ラグーザの木は紅葉しない。黄葉が精一杯だ。

 どこから写真を撮っても電線が入ってしまうのがやはり東京。この不思議な雲が撮りたかった。
 宇宙人用のチューブかな。シチリアの宇宙人が追いかけてきたのかもしれない?!あそこを通って帰れるかな。

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 さて、美しい秋の東京で、我々は家に籠もって勉強中。先日はパニック的な忙しさで、ランチに天丼の出前まで頼んでしまった(家族は外出中だったので)。その夜は二人で徹夜。こんな猛烈生活、いつまで続くのか・・・。
 お!こんな所に指Tが!あのシチリア宇宙人がチューブからやってきたのだ、きっと!お~い指T、ご飯粒つけてどこ行くの~?

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 今回私は能、狂言、歌舞伎に関する勉強をしている。ずっと欲しかった能楽の謡本も買った。これは観世流《紅葉狩》。他にも金剛流、宝生流の謡本もあり、お稽古用にカセットテープと教本のセットも存在することを知った。こうして日本伝統文化が一般に普及し、愛されることは喜ばしいことだ。
 在学時代にもっと勉強しておけば良かったと深く後悔。でも今からでも遅くない!

f0133814_16142463.jpg 夕方になるとヂヂヂヂヂヂ!ヂュリヂュリヂュリ!とムクドリ一家が大騒ぎする。5人家族だったのか。
 今年の春、近所の軒下には雛の巣があった。こんなに大きくなったのだな。親鳥が仲睦まじく朝から晩まで空を飛び回り、餌を与える姿を思い出す。

 東京にいた時は常に何かに追われ、季節の彩りの真横を過通りしていた気がする。
 ここには木も雲も鳥も常にあったのだ。ラグーザに暮らして、ようやくそれに気付く心のアンテナを得た気がする。そして日本を離れて、伝統芸能に奥義に触れたくなった。
 通り過ぎてしまった美を探して、逆戻りするのはなんだか心地良い。

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by hyblaheraia | 2007-12-16 00:20 | 一時帰国 | Comments(4)

早朝のサン・ジョルジョ広場で

 やってしまった。朝6時半に起き、8時半のバスでイブラに向かったと言うのに、今日は授業の日ではなかった。明日だった。手帳に書き違えてしまっていたのだ。
 大学の係員に気の毒そうに見られながら、せっかく早起きしたのでイブラの散歩でもしてきます、と笑顔で出てきた。こんな日があっても良いではないか。即興のメロディーを頭で歌いながらドゥオーモ広場へと向かう。今日はどんなドゥオーモが見られるだろうか。

f0133814_6121353.jpg ああ、こういう表情もあるのか。
 ヴェールのようにそよぐ筋雲の向こうに青空が透け、薄オレンジ色の母体が優美に浮かび上がっている。柔らかな朝陽を浴びて、いつになく優しい色合いを感じる。
 今日もこの間も、きっと今度もずっとこのまま美しいサン・ジョルジョ教会(Chiesa di S. Giorgio)。イブラに来るたび、その姿を見るのが楽しみなのだ。

 坂の上に建つこの教会、ファサードとクーポラは敢えて斜めに配置されている。坂の下から登って来たときに二つの建築物が見えるように意図されたからだ。さらに坂の上にあることで実際よりも雄大に見える。そういうドラマティックな演出は、やはりバロックの精神の現れ。ちなみにクーポラの高さは43メートル

f0133814_6124632.jpg これは真正面から見たサン・ジョルジョ教会。
 教会前のバール近くにゴミ箱が置いてある。その辺りに立つと、こうしてドゥオーモが覆い被さりそうな迫力で目の前にそびえ立つ。
 物議を醸したあのピエトラ・ペーチェ(pietra peceこの地域特有の黒い石)の修復も、なかなか上手くいったのではないか。最初はあまりに黒くて見るのが怖かったが、少しずつ馴染んできている。でも、色落ちが早すぎる気もするが。
 もしかすると今が一番いい時期かもしれない。フェンスのグレーとファサードの黒い部分はほぼ同じ色合いだ。

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 このフェンスは本当に美しい。鉄であることを感じさせない繊細さと軽やかなリズムがある。こうしてフェンス越しに見るドゥオーモもまた美しい。透かして見るものは、どうして直接見る時よりもはっとさせられるのだろう。
 そんなことを考えながら、17世紀の手書き楽譜の透かし調査をしていた頃を思い出していた。紙の製造地と製造年代からカンタータの作曲年代を推定しようと、数え切れないほどの楽譜と透かしを調査した。手紙と歌詞の筆跡比較もしたし、あらゆる方法を試みた。そうして12年も打ち込んだ研究なのだから、もう一度見直して自分の糧にしてみたい、と最近は考える。
 今までやってきたことが思い出され、その発想が何かにつながったとき、頑張っていることは何でも無駄にならない、といつも思う。あるピアニストも言っていた。努力は裏切らない、と。
 今日も天を仰ぐサン・ジョルジョ。一緒に仰いでみた。きっと、そんなことを教えてくれたのかもしれない。

f0133814_615275.jpg 振り向くと周りはこの通り。誰もいない。
 まだ9時前。薄い朝靄の中でゆっくり一人でドゥオーモと対話する時間。このバロック的な大舞台が私一人のものに。こんなのことは初めてだ。
 意外と皆さん朝が遅いのデスネ。なーんて偉そうに。

f0133814_617857.jpg ドゥオーモに入ろうと横の階段を登りながら見上げていると、こんなものに気がついた。
 いや、前から知っていたこのアングルだが、今日はいつもと全く違って見える。実にきっちりと四角が連続している。正面から見る湾曲と丸みをすっかり忘れさせるほどの角ばり。鏡の中に永遠に連続する鏡にように、ただただ四角の連鎖が天に向かって伸びている。

f0133814_6183013.jpg 少し下がってみると、天を突くようなフェンスの棘の連続。
 ほんの少しの角度の違いで、こうも印象が変わるとは。また新たなドゥオーモの楽しみが増えてしまった。
 ちょこちょこ立ち位置を変えては好きなポジションを探し、ここに決定。槍の先の硬さと風にそよぐ雲の柔らかさ、空の水色と教会の薄黄色、渦巻きのオブジェと四角い切り込み、こうした有機的なコントラストがこの教会の奥深い魅力を作っているのだろう。

f0133814_6193112.jpg ドゥオーモは朝早すぎて入れなかったので、ベンチに座ってその姿を見上げ、広場を見つめ、これからの生き方を何となく考えたり。
 
 イブラの懐に深く包まれ、サン・ジョルジョ教会から忘れかけていた大事なことを教えられた今朝。私の授業はなかったけれど、聖人の授業の日だったのかな。

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by hyblaheraia | 2007-10-27 09:06 | 生活 | Comments(7)

ヴェネツィアは外国

 嵐の如く現れ、嵐の如く去っていった豪飲豪食一家の後は、静けさが戻り・・・
と言いたいところだが、ルカの学会発表のため我々は慌しくヴェネツィアへ向かった。
 両親との北イタリア旅行で5日前にヴェネツィアから帰ったばかりだったが、今回は旅行気分どころではない。世界で5本の指に入る心配性のルカが学会で発表をするのだから大変だ。側にいる私もその緊張をもろに浴び、まるで酸素の薄い水槽にいる金魚2匹のようだった。

f0133814_013112.jpg 毎年イタリア各都市を回りながら開催される伊日研究学会Associazione Italiana per gli Studi Giapponesi(AISTUGIA)が、今年はヴェネツィアで行われた。
 ルカはここで、与謝野晶子の『君死にたもうことなかれ』における平和主義に関する発表をした。
 イタリアの学会はこういうポスターが美しくていつも感心する。私の所属する日本の学会は事務的な感じで、学者の硬さが滲み出ている。

 それにしても疲れた。ラグーザを早朝6時起きで出発し、ホテルに着いたのは午後8時。同じイタリアなのに14時間の距離。我々にとっては実家のナポリも、ヴェネツィアも、もはや日本に行くのと同じくらい遠い遠い外国なのだ。

f0133814_021283.jpg 翌朝、ルカは発表会場の確認に行くと言う。しかし、世界で10本の指に入るほど方向音痴なルカを一人で行かせるわけにはいかない。保護者同伴と相成る。
 これはヴェネツィア、カ・フォスカリ大学 東アジア研究学部の入り口。

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 中に入ると、木の張り天上と赤レンガの組み合わせが美しいヴェネツィア的な空間が広がる。こんなところで日本や中国の文化が勉強されているとは・・・、と感心しつつ、ラグーザ大学を見た人が同じようなことを言っていることを思い出した。
 階段を上がる途中で、イタリア人のグループの女性と肩がぶつかり、ア、スミマセン!階段を急ぐ若者が、シツレイシマス。おぉ、なんという感動的な異文化の接触!

f0133814_041624.jpg 発表会場は2つ。そのうちここは、普段大学の授業で使われる教室らしく、日本と中国の本が壁の本棚にぎっちりと詰まっていた。
 赤いカーテンと大きな窓の後ろには、ヴェネツィアの小運河が流れている。発表中にアコーディオンの陽気なメロディーとゴンドリエーレの歌声が聴こえてきたりして、和やかな雰囲気がなかなか良かった。
 私の属する学会はもっと意地悪な雰囲気。

f0133814_045362.jpg イタリア人はカフェがないと生きていかれない。学会の休憩時間には、こうしてカフェブレイク会場に人が押し寄せる。カフェ、デカフェ、紅茶、ソフトドリンク、水、そして色採り採りのドルチェ、さらに小腹が空いた人のためにサラティーニ(塩味の小さいパイなど)も用意されていた。
 会員でもないのに、ここでおやつをつまみ、いろいろな人の会話にふむふむと耳を傾けていた。

f0133814_052988.jpg ルカの発表は緊張気味だったが素晴らしかった。彼の日本語と詩歌の理解力にはいつも感服させられる。
 与謝野晶子の詩歌は、寄っては返す波のように言葉の意味が重なり合い、読めば読むほど煙に巻かれるような感覚に私などは陥るのだが、それをまず直感的に読み取り、その後、一つ一つ丁寧に解釈し、同時代の他作品との比較を通して彼の論を展開する。社会的側面からの鋭い読みがルカの論文の際立つ点である。
 とにかくお疲れ様。一番集中すべき時期に、家族が来てゴ迷惑ヲオカケシマシタ。ホテル近所のパスティッチェリーア(菓子店)で味見済みの良質菓子を、部屋のミニバーに隠しておいた。頑張った後の、リラックスしたルカと食べるお菓子は最高だった。

f0133814_0111512.jpgf0133814_0113983.jpg
 他の先生方と晩ご飯を食べた後、まだまだ飲み足りない様子のルカとワインバーへ。発表後にぱーっと飲みたい気持ちは良く分かる!飲まんね飲まんね(長崎の友人から習った)!と赤ワインを1本、ヴェネツィアのクッキーとともに楽しんだ。
 店内はこんなロマンティックな雰囲気。なんだか恋人時代を思い出してしまった。

 さて発表翌日、ルカは他の発表を聞きに学会へ。私は予てから行きたかったモンテヴェルディの墓参りにフラーリ教会へ。

f0133814_1264665.jpg クラウディオ・モンテヴェルディ(Caludio Monteverdi,1567-1643)は、ルネサンスから初期バロックへの移行期に数々の傑作を残したイタリアを代表する作曲家。彼の作品に何度心を救われ、いかに多くのことを教えられただろうか。
 尊敬する作曲家の墓がフラーリ教会にあると知ったのは、隣の古文書館で彼の自筆の手紙と同時代の作曲家の楽譜を調査し終えて帰国した時だった。その無念さと言ったら・・・。
 今日こそ、その日!敬虔な気持ちで教会に入る。ウォークマンで《倫理的宗教的な森Selva morale spirituale》(1641)を聴きながら、ゆっくりとゆくりと。観光客が一心に見つめるティツィアーノVecellio Tiziano1490-1576の《聖母被昇天》は私の目には入らない。彼の墓を探して、探して・・・。

f0133814_1333149.jpg 係員に尋ねようと思っていたところだった。
 遠くから楽譜立てが目に入り、体中の細胞液がうごめくような感覚とともに、無心でそこに向かった。

f0133814_1321717.jpgf0133814_131130.jpg
 ああ、我が師、モンテヴェルディ。彼のメロディーが頭の中に響き渡り、目に熱いものが溢れた。その胸像を見つめ、感謝の気持を伝えた。
 献花をしたい。一度、外に出てまた入り直そう。と思っていたところに、ルカから電話。今どこ?、フラーリ教会でモンテヴェルディのお墓参り・・・。あ~そう。じゃあそこに行くから。説明せずとも私にとって大事な時間であることが分かる。
 10分後、奇跡的にルカも教会に到着(何度も人に聞いたそう)。マエストロ、こちらがルカです。初めまして、ルカです。夫婦共々ご挨拶。
 一人で寂しく史料調査をしていた頃を思い出しながら、これからはルカがいる、イタリアに家族がいると心強く思った。さらにルカの学会発表に感化されつつ、音楽学の研究を続けねば、どんな形でもいいから続けたい、と思いを新たにしたヴェネツィア滞在だった。

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by hyblaheraia | 2007-10-09 02:57 | 大学・研究 | Comments(18)


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