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ラグーザと音楽学 -ブログ200回記念-

ブログ200回を記念して

 17~18世紀イタリアのカンタータを研究する音楽学者という隠れた肩書を持ちつつ、ここラグーザの大学では日本語と日本文化を教えている。二足の草鞋を履く今の生活は私に新たな知見と視野を与えてくれて、何とも心地良く楽しい!そしてこのブログを通じて、そんなラグーザ生活を綴り、皆さまと対話できることに限りない悦びを感じている。
 今日は自己紹介を兼ねて、私が普段どんな地味な研究をしているかをお伝えしてみようと思う。

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 フィレンツェ国立古文書館所蔵、17世紀イタリアの聖職者・作曲家アントーニオ・チェスティ(Antonio Cesti, 1623-1669)の手紙(1656年)。

 生まれて初めてチェスティの自筆史料を手にした日のことは忘れられない。17世紀のおびただしい手紙の迫力とカビ臭さに負けそうになりながら、良く知るあの署名を見つけた時の感動・・・。彼の筆致を見つめながら対話する時間、それが永遠であれば。ああ、チェスティ。


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 その後向かったピサ国立古文書館では、1649年代のチェスティの書簡内容と紙の透かしを調査。左は手紙の束、右は昔の封筒。紙を三つ折りにして蝋で封をしたもの。

f0133814_7463673.jpgf0133814_7465830.jpgf0133814_7471568.jpg 当時の紙には、紙を作った会社の透かし模様がほぼ必ず入っている。
 重要史料なのでトレーシングペーパーでの写しは認められず、手紙を窓の光に透かして見て、模様をスケッチしてきた。
f0133814_7493566.jpgf0133814_7495326.jpgf0133814_750131.jpg 獅子、羊、鷲、羽付き獣などの意味深なお絵描。
 母が見た瞬間、何これ?!と言ったのがおかしかった。透かし模様は作品の年代特定の重要な鍵を握っているノデス!


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 1665年3月11日、インスブルックにてInspruck 11 Marzo 1665
 殿下にDi V.S.Sereni:ma
 慎ましく忠実な僕 アントーニオ・チェスティDevotiss:mo et obb(ligatissimo) servo. Antonio Cesti
 と署名されている手紙。インスブルックが、インスルックと書かれていたのが笑える。これをコピーして学会発表や試験の時のお守りにした。

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(ヴァチカン図書館所蔵、チェスティのカンタータ《その夜は静まり返りEra la notte e muto》)

 17世紀に書かれたチェスティのカンタータの手稿譜(手書きの楽譜)。こういう楽譜を求めて、定期的にイタリア各地の図書館を巡る生活を8年ぐらいしてきた。
 これは清書譜なので問題ないけれど、インク染みや虫食いで読譜困難なものも中にはある。さらに歌詞もやっかい。昔の書き方に慣れるには数年かかったものの、筆跡観察大好き人間!いくら見ていても飽きない。

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(モデナ、エステ家図書館所蔵、チェスティのカンタータ《あの高い塔の上から-皇帝ネロ-Sopra un'eccelsa torre -Il Nerone-》)

 チェスティの自筆譜発見か!と、この手稿譜を見るたび密かに燃えたものだ。写譜していたなら起きないであろうミスが多々あるけれど、これだけでは特定できない。
 このエステ家図書館で生涯初の手稿譜調査をした。目の前に置かれた楽譜を開く前に、思わず匂いを嗅いだのは動物的反応だったな、と思い出す。


f0133814_11431022.jpg 音楽学と全く関係のないラグーザに来て、初めは随分途方に暮れたけれど、シチリアの歴史と文化に共感できるのも、これまでの研究があったからだと思う。

 常識に縛られず可能性を試し、先の見えない作業も地道に忍耐強く進めていくこと。その途中で迷いがあっても、自分を信じてとにかく進み続けること。無駄なような作業にも、実は大事なプロセスがあること。
 そんなことをチェスティとの12年の付き合いから学んだ。
 そして今もまだ、彼と同時代人の音楽から多くを教えられている。

 ブログ200回記念。今更ながら自己紹介を綴ってみました。ラグーザと音楽学という不思議な取り合わせで、これからも楽しくブログを続けていきたいと思います!


写真と音楽のコラボ、番外編:
 マグダレーナ・コジェナーが歌うJ.S.バッハのカンタータBWV30《来たれ、汝ら、責め苛まれし罪人ら》より第5曲、「喜べ、贖われし群れよ」。筆写譜に着いたインクのシミからヒントを得た楽しい想像の物語。そのストーリーは・・・?
 音楽学は音楽の考古学のようなもので、作曲家の活動や作品を様々な方法で謎解きするものだと私は思う。筆跡研究、史料研究の素晴らしさをバッハから学び、今の私があることを忘れず頑張ろう!

これからもどうぞよろしく・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-05-03 12:01 | ブログ・・・周年とゲーム | Comments(24)

悲しき飛翔

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 空を縦横無尽に飛び交うアマツバメRondone
 カマ型の大きな翼を広げて天高く飛び、浮遊する虫を捕食し、空中で交尾を行い、飛びながら睡眠も取ると言われている。他の鳥のように地上に降り立つことはない。

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 春から夏にラグーザでは、夕方にになるとクロウタドリMerloの無邪気な歌を掻き消すほどの大群で現れ、耳に悲しい鳴き声をこだませる。
 空を見上げていると急降下してきて疾風のように目の前を横切り、そのまま路地を一気に抜け、再び空へと上昇する。なんて速い。

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 羽を休めることなく、絶え間なく上昇下降を繰り返し、時折、テッラコッタの瓦の隙間に長い両翼をばたつかせながら入っていく。

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 なぜなら、そこには巣があるからだ。猛スピードのまま空から降下する黒い影は、軒下に入る瞬間に鈍い音を立たせ、もがいている。悲しき飛翔。

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 しかしその直後に雛たちの声が聴こえてくる。軒下という守られた空間での給餌と束の間の安らぎを得て、潔く空へ帰っていく親鳥の飛翔には、スピードの衰えは微塵も感じられない。

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 5月になると巣から転落した仮死状態の雛を度々見かけることになる。雛同士でも巣の中で生き残り争いが行われていると聞く。

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 しかし巣から落ちた雛を、親鳥は巣に戻すことはない。厳しい野鳥の世界に人間ができることは、何もしないということだ。

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 向い宅の軒下から出てきた一羽のアマツバメの動きを追う。
 何度も旋回しながら、その輪は徐々に小さくなり、手を伸ばせば届くほどの距離まで接近した。あれは威嚇だったのかもしれない。
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 ああ、この優美な羽を広げ空を飛ぶだけなら、アマツバメの飛翔に違う音楽を感じただろう。

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 ルイージ・ロッシ(Luigi Rossi, c.1597-1653)作とされるカンタータ、《愛する人Mio ben
 レ・ド・シ・ラと幾度も繰り返されるバスに乗って、愛する人を失った悲しみが吐露され、17世紀イタリア・カンタータ特有の憂いを帯びた旋律が静かに紡がれていく。
 バロック時代の声楽曲では、激しい悲嘆を表現する際にこのような4度下降するバッソ・オスティナート(basso ostinato, 固執低音)がしばしば用いられた。

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 アマツバメの飛翔を見ていると、カンタータに聴く徹底的な自己犠牲と悲嘆陶酔を感じずにはいられない。ただ嘆くことで救われるというカンタータの精神があれば、体と羽を痛めて雛を守り育てる野生の宿命がある。
 バッソ・オスティナートの繰り返しを聴きながら、空と軒下の間を旋回し往復する彼らの飛翔を、今日も切ない気持で眺めている。

 ルイージ・ロッシのカンタータを聴きながら、アマツバメの飛翔を見つめ、
 ちょっと切ない気分に浸ってみてください。


 追伸:巣から落ちたツバメの雛を見つけたら?
 イタリア鳥類保護協会LIPUのサイトに基づく去年の記事に説明があります。パンとミルクはダメです!ミンチをあげてください!


ああ切ない・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-04-04 10:04 | 音の絵:写真と音楽のコラボ | Comments(2)

チェンバロの夢

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 Clavicembaloチェンバロ。一音一音が光のように輝きながらも、満ちてくる響きには憂いがあり、減衰する音同士のこすれ合いと、プレクトラムが戻る時の声にならない声が遣る瀬無い感傷をつのらせる。鍵盤のタッチはあくまでも軽く、鍵盤は手の甲に包まれ、力みが入れば音の艶が逃げてしまう風のような楽器。
 ああ、あの音と感触。チェンバロが弾きたい。

 最近、暖かくなってきたせいか無性に鍵盤に触れたくなってきた。と言っても、電子キーボードでチェンバロの音質を出すという雰囲気だけのまがい物なのだけれど。
 史料調査に持って行くためにこの軽量キーボードを買った頃は、本物のチェンバロをレンタルしていたから、ただ音を鳴らすための道具くらいにしか考えていなかった。今では、これが私の唯一の楽器。
 生の楽器ならすぐに音が出せるのに(要調律)、これはいろいろと準備が面倒。


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 実はここはキッチン。テーブルをきれいに片付け、キーボードと譜面台と椅子を配置したら、変圧器とスピーカーをキーボードに繋ぎ、3点それぞれコンセントに繋ぎ、それぞれ電源を入れて、チェンバロの音を選ぶ。その間、約7~8分。コードを触ると指が汚れるので洗ったり、楽譜を本棚から集めてきたりすると10分はかかる。
 それでもキッチン・チェンバロの準備ができれば、あとは自分の世界。ローロー歌いながら、次第にヴォリュームも大きくなり、自己陶酔するのみなのである。

f0133814_8314055.jpg イタリアに来てから練習しているのはこれらの作品。
 
前左:アレッサンドロ・スカルラッティの《トッカータ》

前右:その息子ドメーニコ・スカルラッティのソナタ集

後左:J.S.バッハ《アンナ・マクダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集》からの抜粋

後右:フランソワ・クープラン《クラヴサン奏法》

 中でも特に、アレッサンドロ・スカルラッティ(父の方)とクープランにはまっている。
 スカルラッティの鍵盤作品はとにかく斬新根源的で、勢いがあり、音楽はこうあるべきだと思わせる旋律に溢れている。彼のカンタータとは全く違う趣で驚いた。
 そしてクープランはもう、どう表現して良いか。まず楽譜を見てたじろぐ。リズム割がぱっと見えないくらい五線の中を自由にたゆたっている。恐る恐る音を辿っていくと、それは限りなく素直な旋律で、典雅な装飾付点音符が彩りを添えながら、なんと自然に呼吸をしていることか。楽譜というものは、流れ出す音楽を客観的に書き留めた記号にすぎない、ということを深く感じながら彼の語法に酔い痴れる。
 
 ああ、これを本物のチェンバロで弾いてみたい。
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 いつもうっとり眺めて視聴音源を聴き比べているサイトより。芸術品のような楽器。

 ラグーザでチェンバロは夢だとしても、せめてクラシックのコンサートくらい何かあってもいいものに。ここは年に8回ほど、市後援による小規模コンサートしかない。考えてみればコンサートホールさえないではないか。数年前、近所の教会でピアノのリサイタルを聴いたときは、寒くて凍えそうだった。ピアニストはさぞ弾きにくかっただろう(見事な演奏だった)。

 ソーセージとリコッタの祭りには資金を出すけれど、文化的な催しには関心がほとんどないラグーザ市に一言申したい。
 チェンバロを一台買いましょう。・・・却下されること請け合い。

 ラグーザに音楽を・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-03-24 11:47 | 大学・研究 | Comments(8)

カターニア大学構内

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 アラブの影響が色濃く刻まれる島、シチリア。地名、苗字、菓子にそれを感じるように、カターニア大学の中庭を見る度にまたそれを思う。
 この異国情緒あふれる天蓋には格子型、螺旋型、丸玉の連続、葉の模様、藁を束ねたような三段式の小柱が隠されている。それらが自由なリズムを織り成しながら、壁には黄色の花びらと青緑の蔓のタイルが輝き、円形が幾つも繰り抜かれたアーチは独特の個性を主張する。そうして全てが、あの円錐形の鋭い切り込みとともに空へ空へと伸びていく様子は、いつ見ても爽快感を覚える。

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 校舎に入ると大理石の空間が天地左右に広がる。石の冷たさが学問の厳しさを伝えるようで心が引き締まる。
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 中庭と回廊部分はいつも光に満ちている。こんなところで思索にふければ、さぞいいアイディアが生まれるだろう。
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 エトネア通りVia Etnea。その名の通り、奥には雪をかぶったエトナ山が見えている。広場中心部には大学事務局が堂々とそびえる。圧倒される大きさだ。
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 その広場の石畳にこんなものを見つけた。
 S.P.Q.C.の文字とカターニア市の紋章である象が彫り込まれている。ラテン語のSenatus Populus que Romanus 「ローマの元老院と市民」を模倣したものだろう。最後のCはCataniaカターニアを意味する。
 二つの影は、何でもカメラに収めたがる私をイライラして待つルカと、カメラを構えてモンスターのような形をしている私。

 能と歌舞伎の授業の報告書提出のため、2時間半かけてラグーザからやってきたのに、大学での手続きはわずか10分で終了。あっけなさすぎてガクッ。報告書、ちゃんと読んでくださいよ~。 

本校は大きい・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-02-28 03:29 | シチリア他の町 | Comments(4)

カターニア大学

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 カターニア大学Universita' degli studi di Catania
 1434年創設、シチリアで最も歴史の古い知の殿堂。農学、建築、経済、薬学、法学、工学、文学、医学、教育、数物理、政治、の多学部を擁する総合大学。
 その校舎は美術品のように美しい。

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 正門をくぐると遺跡に出迎えられる。ローマ時代の住居跡だろうか。
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 ここにも遺跡、ふと横をみると壁には三角錐の白いレリーフが一直線に。
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 遺跡に下りるスロープにはびっちりと敷き詰められた石。見上げると彫刻装飾のバルコニー。

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 正門に向かって戻り、振り向けばこの壮麗なパラッツォが朝の柔らかな光に溶け込むように建っている。
 グレーの部分はエトナ山の溶岩石だろう。そこに白い石の装飾が浮かび上がり、優美な印象を与えている。これが大学校舎とはとても思えない。
 中に入るとそこは・・・。

 ・・・つづく

これが大学・・・?!。
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by hyblaheraia | 2008-02-27 10:11 | シチリア他の町 | Comments(2)

大都市ナポリの風景

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 ナポリを見てから死ね Vedi Napoli e poi muori
 青いナポリ湾の向こうになだらかに肩を落とすヴェズーヴィオ火山を見ていると、あの名言が頭をよぎる。誰の言葉なのだろう。
 生粋のナポリっ子であるルカを、この景色の中でみるといつもと違って見える。大都会ナポリの中心部を隅々まで知りつくし、目的地まで脇目もせずに直進する姿は、極度の方向音痴であることを忘れさせる。学生時代ここで何をした、という話を聞きながら町を歩くのは楽しい。

f0133814_963992.jpgf0133814_8572266.jpg 頼もしく思いながらナポリ国立図書館に向かったが、急に歩みが遅くなる。
 ここに来るといつも分からなくなっちゃうんだよ~、と入口を探して迷子に。普段通りに戻ってちょっと笑う。
 迷った所には豪奢で威厳に満ちた眺めがあった。ナポリ王国以来の歴史の力がそこかしこから感じられる。
 パラッツォ・レアーレ(王宮)の一角にある図書館は、それだけでスケールが違う。蔵書も近代的なシステムも、広さも、天井まで届くアンティークな本棚も、どれもラグーザにはないものだ。
 二人とも自分の調査に勤しみ、良い収穫を得た。素晴らしい図書館だった。

f0133814_9161071.jpgf0133814_917294.jpg 図書館での調査が済んだら、目抜き通りを歩きながらモンテ・サント駅に向かう。
 ナポリ名物プルチネッラコルノの土産物があちらこちらに。この赤唐辛子のようなコルノは、厄除けのお守りだが自分で買ってはいけない。人から贈られないと効果がないと言われる。
 結婚前は互いに別々に飛行機に乗ることが多かったので、7センチくらいの巨大なコルノを贈り合った。今でも大事に化粧ポーチに入れて持ち歩いている。

f0133814_9173311.jpgf0133814_918062.jpg トレド通り、通称ヴィア・ローマの途中にある美しいガッレリーア。
 こういう建物を見ているだけで、外国にいる気がしてくる。シチリアにはないなぁ、こういうの。

f0133814_9183041.jpgf0133814_9185217.jpg 駅に向かいつつ、左の角を必ず見る。ナポリの下町の風景が細い路地裏に存在している。ソフィア・ローレンが映画《昨日、今日、明日Ieri, oggi, domani》でアメリカ煙草を売るシーンを思い出す。彼女もナポリっ子、ナポリ語のしゃべりがカッコ良かった。
 右を向くと、おしゃれなブティックが並ぶ。チョコレートの老舗、ゲイ・オーディンもここにある。
 この対比に目がくらむ。

f0133814_9191552.jpgf0133814_9193796.jpg しばらく歩くと辻音楽師がいた。不思議な形をした楽器を抱え、リュートとマンドリンとチェンバロを混ぜたような軽やかで懐かしい音をつま弾きながら、東欧の言葉と思しき歌を歌っていた。ボリショイ・オペラで活躍するテノール、と言われても疑わなかっただろう。
 うっとりとさせる演奏に次々とコインが投げられる。私もお礼に。


 いつも突然やって来ては慌ただしく帰るばかりのナポリ。これからはゆっくり滞在して、ルカが生まれ育ったこの町を一緒に歩き、国立図書館で互いに切磋琢磨し、家族との時間を大切にしたいな、と思う一日だった。
 ・・・お菓子編につづく

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by hyblaheraia | 2008-02-16 10:40 | ナポリの実家 | Comments(0)

心を熱くするもの

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 違う空気を吸いたかった。長年の塵や埃を払い落し、着古した服を脱ぎ棄て、何か新しいことをやってみたかった。決してこれまでの積み重ねを葬り去るのではなく、それをバネに空高く跳躍し、吸ったことのない空気を深く呼吸してみたかったのだ。

f0133814_8325215.jpg ここラグーザに来てそれが叶った。シチリアの複雑な歴史も、考古学的な遺構も、エキゾティックな食文化も、宗教祭事の熱さも、未知のものを渇望して止まない心身を滝壺のように打った。その一つ一つに共感し、興味を広げられるのは、あのバネがあるからだと感じていた。だからどこかで安心していたのかもしれない。
 しかしパラディーゾで享楽にふけっている間に、世界は一変していた。

 自然に囲まれ、素朴な人々から誠実に生きることの大切さを学び、それを都合良く解釈していたのかもしれない。
 戦わないことが、誠実に生きるということではない。

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 全てはそのためにあった。それをしている自分が自分であり、それをしていなければ魂は無いに等しかった。それを通じて自分というものが育まれてきた。
 そうして自分を熱くするものについて、人々に語り、言葉を費やしてきたあの真剣な日々を忘れてはいけない。

 届いたばかりの箱には私の音楽が詰まっている。それはあの頃と同じように、憂いをもって心の襞(ひだ)に深く響いてくる。どこに住もうと、何をしていようと、これだけは変わらない。
 持ち得る全てを音楽に捧げ、あの響きを誠実な言葉で伝えたい。
 溶岩色の空を見るとき、溶けるようなオンレジ色が心を熱くする。

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by hyblaheraia | 2008-02-10 10:25 | 大学・研究 | Comments(13)

ラグーザ歌舞伎 最終章

 イタリア人は外見重視の民族。全てにおいて見た目や雰囲気が大事なのだ。
 着物と頭巾、烏帽子(えぼし)、刀を身に付け、すっかり山伏とサムライになりきる学生たち。チャンバラで大はしゃぎだ。全部紙なのに!
 さぁさぁ、ラグーザ歌舞伎、《勧進帳》の始まり始まり~~。
 カン、カン、カンカンカンカンカン・・・・カン(拍子木デス)!

f0133814_19101679.jpg 富樫(とがし)と番卒二人。
 山伏の一行に義経がいることを見破った!
 
 いか~にそれなる強~力(ごうりき)、止ま~~れとこそ~~~~!
 
 強力とは修験者の荷物持ちをする下男のこと。
 おっ、いいね!その刀を抜く感じ。威厳がありまする!
f0133814_1994746.jpg 弁慶の一行。黒い笠は下男に扮する義経。
 人違いされるとは、修行が足りないからだ!と怒る弁慶。

 思えば憎っし。ああ~~憎し憎し! ドン(足を踏みならす)!

 迫力満点!よっ、刀屋!(屋号:カターニア出身なので、カタナ屋)

 そして・・・

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 いでもの見せ~~~ん! (目にもの見せてくれよう!)
 心を鬼にして、主人である義経を金剛杖で叩くシーン。涙なくしては語れない話だが・・・・
 ボコボコにしてオリマス。イタリア的理解・・・か?

f0133814_19142680.jpg 続いて、富樫たちに勇みかかろうとする山伏一行。それを必死に止めようとする弁慶。

 この緊迫した瞬間は、激しい睨み合いと、誇張された動きで表現される・・・のだが・・・
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 ・・・なぜか楽しそうに笑ってオリマス。
 命に代えても主君を守る、切ないほどの忠誠心を分かっておくれ~!

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 こうしてハチャメチャながらも《勧進帳》のハイライトを演じ終えた(ヤレヤレ・・・)。隈取もする予定だったが、装束の準備とチャンバラ騒ぎで時間切れ。すっぴんでもこれだけ白熱したから、まぁ良いか。

 この1ヶ月、能の地謡、歌舞伎の六方見得隈取、そして歌舞伎の所作長唄など、駆け足でいろいろなことに挑戦した。日本の美を感性豊かに理解した彼らだが、幽玄、秘するが花、義理と人情の精神は伝わったのかな・・・。
 何はともあれ、日本伝統舞台研究の集中講義、これにて一件落着~!

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by hyblaheraia | 2008-01-30 00:05 | 大学・研究 | Comments(10)

まずは形から

 日本からラグーザまでEMSは早ければ10日、遅ければ1ヵ月、不運な時はミラノの税関から勝手に日本に送り返される。SAL便は1年待ってもまだ届いていない。
 そんな郵便事情の悪さから、授業用に浴衣や着物を急遽用意することはできなかった。持ち合わせの浴衣、甚平、半被でさえ、Che bello!すてき!と溜息をついて喜んでくれる学生に、何とか着物の雰囲気だけでも味わわせてあげたかった。
 
 布を買って縫う時間も技量もない。仕方がないので新聞紙で裃(かみしも)を作ってみたが、うーんちょっと・・・、というルカの反応で断念。いろいろ考えて一度はあきらめたが、近所のタバッキで美しい薄手の色紙を発見、前々から構想を練っていた帽子とともに、一気に解決。

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 こちらは着物グループ
 ちりめんの風合いの色巻紙を使って、半纏のようなものを作っているところ。丈の長さを調節したら、縦半分に折り目をつけ、前中心に鋏を入れ、襟元を三角に折り込むだけ。薄紫のものは、前夜作った試作品。これを基に各自好きな長さで作っている。よし、順調そう。

f0133814_7573932.jpg 一方こちらは帽子グループ

 折り紙の箱を作っているところ。ミスプリント紙で練習をした後、黒の厚紙で本番に挑戦。器用な人と苦手そうな人とに、見事に分かれるのは面白かった。エエー!なんでそうなるの~!という驚嘆の声があちらこちらで聞こえ・・・
 みなさーん、帽子は全部で3種類作るんですよ~!早く、早く!
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 さて、ここは紐グループ
 白い毛糸で何をするかというと、二本取りの三つ編み。まずは同じ長さの紐を6本作るのだが、5本しかない失敗作がゴロゴロ。ロレンツォさんとダヴィデさんは毛糸なんてきっと触ったこともなかったのだろう。女の子たちに、カワイイ~!と茶々を入れられ、すごく照れていた。見ていられなくなったドロテーアさんが、助っ人に。

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 それで目指すはこの弁慶の帽子。何と呼ぶのだろう。これがなければ弁慶ではない、というくらい存在感のある帽子。右写真の隅に見えるのは、前夜の試作品。これを被って一人盛り上がっていた。

f0133814_8184380.jpg ようやく着物も帽子もでき、毛糸で帯、新聞紙で刀もできた。みんなカワイイ!そして異様なほどご機嫌!やはり雰囲気や形から入るのは大事。

 盛り上がった衣装姿のまま、台詞と長唄の練習に突入。
ヒブラ:心得てそぉ~ろう。
学生:心得てそぉ~~~~~ろう
 おお、いい感じ!
ヒブラ:あぁ~、憎っくしにくし!いでもの見せ~~ん!
学生:ンガ~~~!憎ーーっくし、にっくし!いでものみせ~~~んーー!
 うわっ、超高テンション。
 歌舞伎の大胆な言い回しと、長唄の不思議な節回しに教室がどっと熱くなった。
f0133814_7531285.jpg さぁみなさーん、台本を持って来てくださーい!劇の練習をしますよー!
 と黄色い声を張り上げても、まったくダメ。もはやチャンバラごっこが始まっている。
 この授業、今日中に終わるのかな・・・。

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by hyblaheraia | 2008-01-28 10:16 | 大学・研究 | Comments(2)

ジャルディーノで即興歌舞伎

 いよぉ~っ!カンカンカン・・・・!、ガオォーー!。猛獣のような声も交えつつ、拍子木の音と威勢の良い掛け声で、大学から飛び出した隅取り集団。

f0133814_712060.jpg 土曜の昼下がり、老若男女誰彼構わず、石投げの見得を切りながら、ジャルディーノ(イブレオ庭園)まで移動中。
 バールやタバッキの入り口では、地元の老人たちが茫然と立ち尽くし、散歩中の小さな子どもは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 なんだか仮装行列の集団みたい・・・になってますが。カーニヴァルも近いし。

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 ジャルディーノに到着するなり、この通り。いよっ若旦那たち!太陽の光を浴びて、ますます輝いておるぞよ!
 手の平から指先にエネルギーを貯め、目に力を!そうそう、あっぱれ!飲み込みが早いな。

 その時、ある女の子が言った。
 センセイ、あのオリーヴの木を松だと思って、あそこを舞台にしませんか?
 ああ、なんという麗しい感性。能舞台の松の絵(鏡板)のことを覚えていたのだ。もう、ブラヴィッスィスィミ!!です、あなたたちは。
 すると、私の右横を何か黒い影が走った。え?!

f0133814_734347.jpg 黒い影はか?
 オリーヴの木に登った。あ!次の瞬間、木の下に白獅子が!

 狼と獅子の凄まじい見得の切り合い。おお、これぞ見得の真髄!目に見えぬ緊張の糸がビシビシと伝わってくるではないか。
 もはや團十郎も真っ青だ。

f0133814_741221.jpg と、そこへ2匹の青い狛犬が走りこんできた!
 ウゥゥーー、狼を木から引きずり降ろそうと足に食らいついている。

 まさにこれは、三方の見得
 しかも松(形而上学)の木を中心に完璧なシンメトリーを形作っている。ああ、なんと美しい構図だろう。
 教えてはいなかったが、これも歌舞伎舞台の表現の一つ。
 もう、ただただ、感激にて候・・・。

f0133814_744026.jpg 柔軟な発想と見事な即興で、歌舞伎世界を作り出した学生たち。そして、隈取りで歌舞伎の魂を打ち込んだ他の学生たち。その一人一人が、全ての瞬間瞬間に輝いていた。
 
 授業を始める前、今は伝わらないことがあってもいい、と思っていた。しかしそれは、とんでもない誤解であった。
 投げると、投げ返され、与えると、さらに求められる。豊かな感性で日本伝統舞台の精神を吸収していく彼らから、魂の底を掘り起こされる思いである。


(次回は《勧進帳》の山場に、台詞付きで挑戦!)

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by hyblaheraia | 2008-01-22 08:54 | 大学・研究 | Comments(6)


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