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楽しい農業・生活用品店

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 近所の農業・生活用品店。
 ここに行く時はいつも心が躍る。使ったことのない道具がゾロゾロ並び、地元のお爺さんたちのオシャレの秘密が見つかるから。
 これは、店先で輝いていたトマトソース・マシーン。


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 湯剥きしたトマトを上から入れハンドルをぐるぐる回すと、この小さな穴からミュリミュリッとソースが出てくる。右はモーター付きのマシーンでルカのお爺ちゃんはこれを持っていたそう。小さい頃、兄妹総出でソース作りを手伝わされたから、もう作りたくないと言っていたけれど、なんだか嬉しそうに説明していたな。

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 自家製ワインやオリーヴオイルに蓋をするマシーン、昔懐かしいほうき、真空瓶詰め用の大鍋、そしてピカピカのシチリアの火鉢もあったり。生き生きした生活が見えてくるよう。

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 左の巻き巻きは蚊・蝿を通さないための糸のれん(モスキエーラ)。ドアや窓の寸法に合わせて作ってくれる。カラフルなのはいかにもイタリア的。右はスノコいろいろ。意外と東洋的なものが愛用されている。

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 こちらはシチリアのお爺さん身だしなみグッズ。タスコと呼ばれる伝統的コッポラ帽の夏バージョン、ちょっとニヒルな麦わらハット、若々しいキャップなど。足元にも気を配り、社交用サンダル、普段履きの布靴、そしてなぜか派手な運動靴まで!ジム用かな。

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 もちろん婦人用も取り揃えている。柔らかい皮使いでクッション性の高い室内履きから、バックベルトのお出かけ靴まで、デザインも色も豊富。
 上の方には刺繍・レース用の枠(テライオ)と洗濯板がぶら下がっていた。シチリアではお爺さんたちが外で遊んでいる間、女性たちは家事をしたり、誰かの家に集まってレースをしながらお喋りしたりする。
 
 
 何から何まで、シチリアの日常がびっちりと詰まったこの店。いつ来ても飽きず、これらの道具を格好良く使いこなせるようになりたい、と思うのだけれど・・・。
 その頃には、貫禄たっぷりになっているかも。 


楽しくて、いろいろ見ちゃいます。      
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by hyblaheraia | 2008-07-28 07:46 | 伝統・技術 | Comments(12)

ジョヴァンニおじいさんの宝物

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 ジョヴァンニおじいさん(Sig. Giovanni Nobile、ジョヴァンニ・ノービレ氏)。
 イブラで生まれ育ち、イブラをこよなく愛し、世界中から訪れる観光客に愛される人。イブラの迷路のような道も、そこに住む人々も、古くからの言い伝えも、草花の名前もその香りも、イブラに息づくものは何でも知っている。

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 そんなジョヴァンニおじいさんの財布には大切な宝物が入っている。これは(もはや何度も見ているけれど)、歌舞伎《助六》のテレフォンカード。
 ほらサムラーイ、サムラーイですよ!と嬉しそうに見せてくれる。日本に住む古い友人(確か、別府の方)からの贈り物で、とても大事にしている。
 そしてこの日、さらに素敵なものを見せてくれた。それは・・・

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 ジョヴァンニおじいさんの叔父さんの写真。左から2番目が彫刻家で美術の先生だった叔父さん。1930年代に工房で仲間と一緒に撮った一枚で、ジョヴァンニおじいさんはまだ2歳だったそうだ。
 叔父さんの頭の上に、グリーンのペンでぐにゃぐにゃっと記が付いているのが面白い。
 そしてもう一枚・・・

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 あ、これは・・・!
 イブラのジャルディーノ(イブレオ庭園)の奥、サン・ジャーコモ教会横にある叔父さんの作品。1950年代の制作で、もとは別の古い教会の中にあったのだが、道路拡張工事のため教会が壊されイブラに移されたのだそう。
 セロテープで補強された破れ目が、いかに長い間おじいさんの財布に入っているかが分かる。

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 いつものようにおじいさんとの散歩が始まる。
 ここはおじいさんが通った小学校。こんなに荒れ果てた建物だけれど、子供の頃の思い出を聞くと全く違って見えてくる。

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 ほら、ドゥオーモが見えますよ!
 建物の隙間から一瞬見えるこの景色。足元を見ていては気付かない。おじいさんはこうしてイブラを見つめているのだろう。
 そして全く知らない階段を上り、こんなかわいい路地に来た。白い子犬が吠えて飼い主のシニョーラがごめんなさいね~と出てきた。この人もおじいさんの知り合い。こうして会う人会う人に私を紹介してくれる。

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 ここはサンタ・ルチーア教会からの眺め。サン・レオナルド渓谷の崖の途中に、白く光るものがあった。良く見ると十字架だ。どうしてこんな所に?
 おじいさんはゆっくりと語り始めた。昔々、中世時代の話ですが、騎士があそこまで馬に乗って登ることができれば、宝物を手に入れられるという言い伝えがあったんですよ。数年前までボーイスカウトが訓練のために上から下りたりしていましたが、危険なのでラグーザ市が禁止したんです。あの十字架はその伝説を忘れないために置かれているんですよ。
 
 ガイドブックには書かれていない素敵な話だった。
 ジョヴァンニおじいさんの宝物は、財布の中だけでなく、ラグーザの隅々に隠されている。一緒にのんびり散歩しながらそんな話を聞いていると、この町への愛情が輝くような宝物になっていくのを感じる。
 次の宝物探しはいつだろう。

宝物を探して・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-04-23 18:18 | 生活 | Comments(13)

20 Aprile 2008 -友へ-

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 2008年4月20日、満月の日曜日。深夜一時頃、ラグーザの夜を白い光の輪が照らす。

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 朝目覚めると、アフリカからのシロッコで青空が少しくすんでいた。近所の猫は大きな骨付き肉をもらい、空ではなくて肉ばかりを眺めている。

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 カッテドラーレの中庭では小さな男の子と女の子が仲良く遊んでいた。30数年前の二人はこんな感じだっただろう。ファサードの前でも子供たちが元気に遊ぶ。
 イブラでワインを飲んでいるとき、イッシシシ!と遊びに来た3人の子供たちはどうしているだろう。

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 大通りをずっと下がると、細い路地が左右にいくつも見えてくる。過去へのトンネルのような趣き。その横を古いオート三輪のリコッタ売りがポンポンポンと軽快に通り過ぎていった。
 夏にリコッタ入りラヴィオリはなく、食べさせてあげられたなかったのが残念。

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 そして一緒に見たこの風景。これを見せたくてここに呼んだようなもの。あのイブラの中心で、二人の斬新なヴァイオリンを聴くのは本当に楽しかった。演奏の後はいつも夜中2時まで飲み明かしたことを懐かしく思い出す。

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 と感慨にふけっていると、シニョ~~ラ~~!!
 ジョヴァンニおじいさんに出会ってしまった。今日は日曜日なのでミサ用に正装している。相変わらずおしゃれさんだ。カメラを向けると自然にポーズを取るのもあの日のまま。

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  熱烈なハグを受けて、いつもの猛烈なおしゃべりが始まり、いつの間にか、いつもの様に一緒にお散歩となる。
 ここは最近、お気に入りの場所。今度ラグーザに来る時は、ここでのんびり風に吹かれておしゃべりしよう。

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 あの時もジョヴァンニおじいさんと小さな路地を一緒に歩いた。夏にはここにテーブルを出して、近所皆で食事をして、踊って・・・。ここにはギターの名手がいて、階段に座って弾いていると人が集まって耳を傾けて・・・。
 昔のラグーザの生活は、生き生きとして温かく、人々の素朴な心を感じさせる。その話に子供のように聞き入った。

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 路地を抜けて普通の道に戻ると、二人の目に留まったトリナークリアに迎えられた。
 陶器の美しいトリナークリアにナイフとフォークを添えて、お化けのタコかイカに見立ててギョーギョー言って遊んだのが懐かしい。

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 夕方のテラスは初夏の雰囲気になってきた。ジャスミンはまだ少し弱々しいけれど。ヴァイオリンの練習の合間に、ここでアマツバメを追っていた二人の後ろ姿を覚えている。夜はこのテラスで星を眺めながら食事をし、ワインを飲み、語り明かした。
 45度の暑さで水が来なかった日を経験した貴重なお客さんでもある二人。

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 メルロの親子は今年もあそこに巣を作った。オオツバメもテラスの前を疾風のように飛び去りながら、子育てに懸命。一年は早い。

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 こうして今日のラグーザは一日を終えようとしている。満月の光は、アフリカの湿った空気の中で一層大きな輪を描いている。

 2008年4月20日、満月の日曜日。
 結婚おめでとう。二人の晴れ姿を目にすることはできなかったけれど、忘れ得ない思い出とともに、結婚式の日のラグーザの満月を贈ります。

 双方のご両親をお連れしてのラグーザ新婚旅行、実現が楽しみ!


 ヴァイオリン・ドゥオのShiro氏とYoshiko氏。ライブ活動から舞台俳優、映画女優、そして幅広いレパートリーで活躍するマルチな二人。斬新かつアグレッシブな演奏は人の心を瞬時に掴み、独特のオーラが音楽に色を与えている。
 二人の音楽的センスは、イル・ジャルディーノ・アルモーニコIl Giardino Armonicoの型破りなスタイルと通じるものがある。アントーニオ・ヴィヴァルディの《リュート協奏曲》RV.93では、彼らの生の声と身体のリズムが自由に溢れ、陰影を帯びながら語りかけてくる。なんと楽しそうな演奏!
 そして、タルクィーニオ・メルラTarquinio Merula(1590-1655)のチャッコーナCiaccona。バス定型に乗って流転するメロディーと、肩ひじ張らない自然体の演奏。この音楽本来の命がはじけている。もうただただ、Vravi!

 心の友へ捧げます

結婚おめでとう・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-04-21 18:59 | 音の絵:写真と音楽のコラボ | Comments(13)

一家に一台

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 ウ・スカンナトゥーレu scannatureとウ・ラザーニャトゥーレu lasagnature。
 ラグーザ弁でこの板と棒をそう呼ぶ。名物フォカッチャトマジーノ、少し手の込んだウ・スフォッドゥも復活祭料理のインパナータ・ダニェッドゥも、普段のパスタならカウザネッドゥラヴィオリも、そしてもちろん日々の家庭パンも全てこの柔らかな板の上でこねられる。
 地元伝統料理に欠かせない一家に一台のアイテムなのである。


 それを求めて近所の農業用品店へ出掛けた。ここは日曜大工、金物、台所用品、バス用品、日用雑貨、さらに地元のお爺さん用のタスコ(コッポラ帽)など何でも揃う不思議な店だ。いつも品物を見るのが楽しくてたまらない。
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女性用室内履き(冬用)、女性用普段靴、お爺さん用普段靴、蚊避けカーテン、食器。
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ビニールホース、しめ縄、巨大バケツ(大量の塩漬けや堆肥用)。
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シチリア伝統ドローンワーク用の枠、ウ・スカンナトゥーリ、用途不明の金属棒、排水溝詰まり用のゴム。
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シャワーカーテンのレール、巨大ろうと、ビニール紐3色、ウ・ラザーニャトゥーレ、特大フォーク(大鍋用)、麺棒、それらの下にアイロン台と折りたたみ椅子。

 ウ・スカンナトゥーレは大中小3つのサイズがある。中と小は横幅が同じだが縦の長さが違ったので、作業のし易さを考えて中サイズを選んだ。26ユーロなり。

f0133814_649146.jpg 包装はこの通りシンプルで店のロゴ入り袋などはない。おじさんの読んだ新聞や雑誌でくるむだけ。ちなみにこれはシチリア新聞ラグーザ版。正統派ラグーザ人ですな。

 帰りはルカが板を担ぎ、私が棒を持って町一番の大通りを下っていく。ただでさえ目立つ我々なのに、地元伝統の台所道具などもっているものだから、道端で遊んでいるお爺さんたちの熱い視線を、背中にビッシビシ突き刺さるほど感じた。

 こうして我が家にも一台。家族が増えたような気分で、何を作ろうかと毎日楽しく考えている。
 お爺さんお婆さんになっても、これでパスタを打っているだろうな。いつものように、ああじゃないこうじゃないと二人ピリピリしながら。

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by hyblaheraia | 2008-02-23 08:11 | 料理 | Comments(4)

タスコ -シチリア男性の象徴-

 ドゥオーモ広場に何をする訳でもなく集まる男たち。くたびれた背広と革靴、手には杖、頭には皆同じような帽子。立ち話する者もあれば、ベンチに座り潤んだ目でじっと鳩を追う者もいる。
f0133814_713927.jpg そんな映画のワンシーンに出てきそうなシチリアの老人になくてはならないのが、コッポラ帽だ。ラグーザ弁ではこれをタスコtascoと呼ぶ。
 発音はタシュコ、定冠詞を付けてウ・タシュコu tascoがより正しい。
 今日はそのタスコを買いに、近所の農業・生活洋品店に行って来た。いろいろ種類があるので店のおじさんに聞いてみると、満面の笑みでハハハ、タスコかい?と嬉しそうに説明してくれた。
 この棚にあるのが伝統的なタスコ。トップにボタンが付いたキャスケット風のものも、所謂コッポラ帽もどちらもタスコなのだそうだ。しかし・・・

f0133814_7235334.jpgf0133814_7241062.jpg右はベレー帽で
berretto。
f0133814_7243013.jpgf0133814_724523.jpgこれは帽子で
cappello。


f0133814_7252074.jpg プレゼント用なので、やはり伝統的なタスコにした。選んだのはこの2点。一目見て色が気に入ったキャスケット風は、ブルーとイエローの柔らかな風合いのチェック柄。もう一つはいかにもオーソドックスなコッポラ風でグレーの千鳥格子柄。
f0133814_730177.jpgf0133814_7302133.jpg 前部分のボタンで高さが調整でき、後ろも思った以上に深い。寒い日に広場で時間をゆったりと過ごすにはこれくらい頭を隠さないとだめなのだろう。なかなか合理的に、しかもお洒落にできているな。これを被ってマフラーを巻いたら、気分はシチリア熟年男性。

f0133814_7262931.jpg こんな粋な感じになるだろうか。
 シチリア最南端の岬、ポルトパーロのカンタストーリエ、歴史歌いcantastorie、ジュゼッペ・ペトラリトGiuseppe Petralito (1882-1980)。
 夏に旅行した時にアンティーク・ショップで彼の本を見つけた。農民の生活、祭り、戦争などの弾き語りの台本が、ポルトパーロ弁の用語解説とともに載せられている。厳しい自然と労働、貧しい生活、そこで使われた彼らの言葉。シチリア各地の方言と生活を知るときには、いつも深い尊敬の念が満ちてくる。
 歴史歌いにはやはりこのタスコがなくてはならない。シチリアの男の象徴なのだ。

f0133814_8501066.jpg シチリアへの尊敬を込めて日本へのお土産にした2つのタスコ。果たして日本人に似合うのだろうか。
 鎌倉彫の面に被せてみたが、ちょっと怖いか・・・。

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by hyblaheraia | 2007-11-28 09:01 | 伝統・技術 | Comments(14)

ジョヴァンニおじいさんが語るイブラ

f0133814_19482279.jpg ラグーザに来た日本人が必ず会ってしまう人、それがジョヴァンニおじいさんだ。
 大の親日家、ジョヴァンニ・ノービレ氏(Sig. Giovanni Nobile)は旧市街イブラで生まれ育ち、イブラをこよなく愛し、結婚して新市街に移り住んでからも、毎朝、イブラに下りて散歩するのが日課。古い友人とおしゃべりや散歩をして12時25分もしくは55分のバスで新市街の自宅に帰る。ランチに帰らないと奥さんに怒られますからね、とお尻を叩かれるしぐさで茶目っ気たっぷりに帰る言い訳をするのがおかしい。
 おじいさんは冬はバスで行き来するが、夏は茶色の皮のサンダルを履いて、階段でイブラまで下りていく。暑いから無理はしないでください、と我々はいつも言うのだが、おじいさんにとってイブラに行くことが健康の秘訣。よほどの悪天候で無い限り、一年中、毎日イブラに行き、ゆったりと時間を過ごす。
 しかしツーリストを見つけると、さぁ大変!ジョヴァンニおじいさんのスイッチが入る。そそそと近付き、彼らが見ている景色や教会について説明し始め、あちらの教会には・・・と言いながらいつの間にかガイドが始まり、聖人のレリーフから、丘に刻まれた遺跡、町の歴史、植物の名前、所々で見られる家々の古い習慣、井戸、石や壁の素材など、目に見える物を次から次へと間髪入れずに説明してくれる。

f0133814_20383565.jpg ふむふむ、と聞きながら写真を撮ろうとすると、いや、そこではなくこちらへいらっしゃい、と撮影のベスト・ポジションまで案内してくれる。はい、ここから撮って、と言われるままにそこに立つと、まずはため息。何と美しいプロポーションで教会や町並みが見えることか。イブラの坂の上に、視覚的な効果を狙って少々左向きに建てられたサン・ジョルジョ大聖堂は、ジョヴァンニおじいさんの指定場所に立つと、真正面から見ることができる。あの堂々たるファサードが目の前に自分と一対一の関係でそびえ立ち、圧倒されそうになるのだ。
 とにかくイブラについて隅から隅まで知っているこのジョヴァンニおじいさん。彼と遭遇し、一緒に散歩することこそ、ラグーザ旅行の醍醐味と言えるだろう。この日も友人とイブラへ下りていく途中、おじいさんと遭遇し、気がついたらイブラ・ツアーが始まっていた。(イブラの大パノラマの撮影場所を指定される友人。)
 ジョヴァンニおじいさんは、若い頃は仕立て屋を営んでいたが不景気で廃業し、地中海クラブClub Medに転職した。そこで知り合った札幌出身の同僚のお陰ですっかり日本が好きになり、以来、ラグーザを訪れる外国人、とりわけ日本人を見つけては声をかけ、イブラを案内しているのだ。
 おじいさんの胸ポケットから出てくる青い「千代紙手帳」(と私が名付けた)には、これまで案内した世界中の旅行者の住所氏名がずらりと書かれている。初めて見せてもらったとき、なぜかルカの名前もあったのには笑った!

f0133814_20313622.jpg ちなみにこれはイブラへの階段の途中で教えてもらった野生のケッパーCapperi。岩の隙間のあちらこちらに白と紫の妖艶な花が咲き、枝垂れる爽やかな緑には、良く見ると小さな実が成っていた。
 ケッパーの生を見るのはこれが初めて。本当にケッパーだ!とあまりに驚く私におじいさんは自信をなくしたのか、ベランダで涼んでいた老夫婦に、これはケッパーですよね、と尋ねていた。老夫婦曰く、今が収穫の時期なのでその辺りからよく取るそうだ。
 シチリアではこれを塩漬けにして長期保存し、魚料理やパスタのソースに良く使う。地元では皿の端にケッパーを残す人もいるが、はやり塩味のアクセントとして使われているのだろうか。いやいや、そんなことはない、全て食べ切る人もいる。もしかすると、日本で言う所のシジミ汁の身を食べるか否かという論争と同じなのかな。


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 ジョヴァンニおじいさんと歩いていると、イブラの豊かな歴史の一ページを静かにめくっていくような気分になる。左の建物は、階段途中でうっかり見過ごしてしまう廃屋だが、昔、この奥には男爵Baroneが住んでいて、夕方になると階段で誰かがアコーディオンを弾き、その音につられて人々が集まりワインを飲んだり、踊ったりしたそうだ。そういう話を聞くと、セピア色の景色に一瞬にして色が付き、風が吹き、楽しそうなな音が聴こえてくるような気がする。
 さらに階段を下がり、本道からそれた細道に案内された。右の写真はかつての男爵家で、奥さんが浮気をして逃げてしまい、一人娘が80歳になるまでここに住んでいたという。イブラには旧貴族が今でも多数住んでいるが、エレガントな身なりで不思議なオーラを持つ老女たちを見ていると、貴族の歴史を背負う切なさのようなものが感じられる。
 男爵家向かいの民家のドアは黒く焼け焦げていた。それを見るなり、こっちは奥さんが浮気された家で、火事が起きたけれど誰が火をつけたのかは未だに不明、気が触れた奥さんの仕業という噂があるなどなど、いろいろな物語を聞かせてくれた。
 ジョヴァンニおじいさんの生家の横にも男爵の家があった。昔は貴族に会うと、手に接吻し「私たちをお守りください」と挨拶し、貴族は人々の頭を撫でて「良し良し」としたのだそうだ。貴族も平民も一つの町の中で共に生きていたのだな、と思わせるエピソードだ。


f0133814_21113074.jpg 細い道を曲がってさらに奥へ。そしてこの日、私の心を捉えたのがこの家。
 誰が住んでいたのか、今となっては分からなくなってしまった廃屋の民家。その窓の上部両脇に石の装飾のようなものがある。ジョヴァンニおじいさんは懐かしそうに、昔はあの石の穴に棒を通し、そこに布を巻きつけてカーテンにしていたと説明してくれた。
 窓の真ん中辺りにも石の台が左右に2つある。ここには植木鉢を置いて窓辺を飾ったのだそうだ。きっとシチリア人の好きな赤や赤紫の花が飾られ、夕焼け色の壁に白いカーテンが風に揺れていたことだろう。こんな素敵な話を聞くと、ますますラグーザの魅力に取り付かれてしまう。


 ジョヴァンニおじいさんは言う。毎日イブラに散歩に行くのは、今もイブラに暮らしているようにしていたいからだと。
 小さい頃からの思い出の詰まったイブラを、まるで子供に絵本を読み聞かせるような優しい語り口。ジョヴァンニおじいさんの語るイブラは、旅行者の心にいつまでも残ることだろう。

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by hyblaheraia | 2007-07-11 23:13 | 生活 | Comments(4)

ラグーザ名物「老人バス」

 ラグーザには1番から9番までの市内バスASTが平日はほぼ毎日、1時間置きほどの間隔で走っている。これらのバスの主たる乗客は、ビジネスマンでも学生でもなく、老人たちである。市場の買い物袋を両手に提げたおばさんもいるものの、およそ90%は老人男性で占められていると言っていいだろう。

 詳しいことは良く知らないが(まだ若いので)、老人パスのようなものがあり、市バスは全線無料で乗り放題のようである。お爺さんたちは自宅近くからお気に入りのバスに乗り、午前中は次々に乗り込んでくる友人(お爺さん)たちとバスの中で話に花を咲かせ、お昼頃になると自宅にご飯を食べに一端帰る。そして多分、午後もこうやってバスで過ごし、街角のどこかで降りて立ち話をしたり、バールでカフェを飲んだりして、気が向いたらまたバスに乗り、晩ご飯の頃に奥さんの待つ家に帰るのだろう(まる一日観察したことがないので分からないが)。
 こういう日がな一日バスで遊ぶことを、老人たちは「ジレットgiretto、ちょっと一回り」と言っていた。「じゃ、ちょっと回ってくるよ」なんて言いながら出掛けるのだろう。この「老人パス」は、もはやラグーザ名物の感さえある。

f0133814_958735.jpg 今日は町外れのオフィスに用があり、新市街の国鉄ラグーザ駅前広場から7番のバスに乗った。始発から乗ったはずなのに、バスはなぜか老人たちで満員。一向に降りようともしない。そう、彼らはこの7番でぐるぐるジレットの真っ最中なのである。
 いつも不思議に思うのが、老人はみなワイシャツにジャケット、ループタイ、革靴でシャキッとよそ行きの服装をしていることだ。寒くなる頃には、これにシチリア弁でタスコtasco、ハンチング帽・別名コッポラ帽)と呼ばれるを帽子が加わる。ちなみにこのタスコは、市内の農業用具店で売られている。

 それにしてもお爺さんたちは元気だ。友達が乗ってくると、「チャオー、おう、どうだい。変わりないかい?Ciao, ou, come'? Tutto a'puost?(ラグーザ弁:チャオー、オウ、コメ?、トゥット・アプゥ~オシュトゥと発音。正しくはTutto a posto?トゥット・ア・ポスト)」と大きな声で挨拶。ハグや握手などした後は、最近誰が亡くなったとか、入れ歯の話とか、政治やサッカーなど、まぁいろいろな世間話に盛り上がる。「このバス、○○に行きますか?」と運転手に聞こうものなら、一斉にお節介を焼き始める。そしてどういう訳か席が一つ空くと、そこへ移動し、またどこかが空くと移動し・・・と、とにかく忙しない。
 それに今日は降車用ブザーが1つしか機能せず、偶然そのブザーの前にいたルカ(夫)は、あっちの老人やらこっちのおばさんやらに、「鳴らして!」と注文を付けられ、フラフラ席を変える老人が倒れないかと気を遣いつつ、目的地に着く頃にはすっかり疲れていた。

 我々も将来、「ルカ爺さんや~、ジレットしましょうかねぇ」、「ヒブラヘライア婆さんや~、じゃあ8番にしましょうかな」などと言いながら、ジレットをしているだろう。
 そんな老後が今からちょっと楽しみである。

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世界遺産の建造物巡りに疲れたら、お爺さんたちとジレットも良いかも。ラグーザ市民の日常が良く分かる7番、お洒落なヴィッラ風邸宅街を通る8番、郊外に広がるムーロ・ア・セッコとカッルーボ並木を堪能できる6番、などがお勧め。チケットは85セント、市内のタバッキで買える。
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by hyblaheraia | 2007-06-01 10:19 | 生活 | Comments(0)

日時計が示すもの

 新市街のサン・ジョヴァンニ教会(カッテドラーレ)のファサードには2つの日時計がある。左はイタリア式で、右がフランス式。
f0133814_0551964.jpg イタリア式は前日の日没からの経過時間を示し、フランス式は深夜12時からのそれを示す。後者は我々が普段使う時計と同じ数え方だが、イタリア式を理解するにはちょっとコツが要る。


f0133814_103539100.jpg まず現在のラグーザの日没が午後7時半頃ということを念頭に置く。今、13の線上の針から影が16と17の間に伸びているので、前日の日没から16時間少々経過したことになる。言い換えれば一日24時間のうち、日没まであと8時間残っているという意味にもなる。だからこの8時間という時間をどう使うかを考えればいい。
 また12の線辺りから右下に走る赤い斜線は、春分と秋分を意味している。日時計の影が赤線に触れる3月21日あるいは9月23日頃は、昼夜の長さがほぼ等しくなるので、影が赤線より上にあれば季節はまだ冬であり、太陽が空高く昇る夏は赤線を切り込む長い影が落ちるというわけである。
 時計で季節を感じるとは、なんと豊かな感覚だろうか。


 つまりこの日時計は「現在時刻」ではなく、「残された日照時間」を知り、「季節の移り変わり」を感じるためにある。
 これが設置された1751年と言えばJ.S.バッハ没年の翌年。当時はもちろん電気などなく、日没後にできることも限られていたに違いない。だがこうして、一日の時間、一年の四季を量的に捉え、その中で自分がどこにいるかを見出すという我々にはない感覚がここにはある。

f0133814_10283785.jpg ところで日没時間は緯度によって違うため、縦に長いイタリアでは北と南の都市で30分ほどの時差があった。太陽の動きとともに各地の生活リズムが作られ、ラグーザとローマが同じ時間である必要はなかったからである。
 しかしイタリア統一後、1885年に国際子午線会議で標準時間が導入され、一つの国家が一つの時計の元に動くことになり、一人一人の生活と太陽との関係など考える余地すらなくなっていった。
 我々が考える時間は、「太陽」ではなく「時計」が作る時間となり、昼夜逆転型の生活もありになった。

 
 それでもこの日時計を愛する人々がラグーザにはまだいる。あの日、「これはとても正確なんだ」と言っていた老人は、太陽と影と変わりゆく季節を感じながら、心豊かな一日を過ごしているのだろう。
 時間の感じ方は人や時代によって違う。このところ日時計を見るたびにそう思う。


 注意:日時計は午前11時と読むのに実際の時計が正午12時過ぎなのは、サマータイム施行により1時間繰り上げられているため。

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by hyblaheraia | 2007-04-07 14:21 | 生活 | Comments(6)


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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2013年11月、共著出版



2009年4月、共著出版



1999年3月、共著出版


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