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アーモンドの花のノスタルジー

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 うねるような山並みにの中に、桃色の濃淡が浮かんでいる。夜の冷え込みは冬同然だというのに、昼間に注がれる光と温度を一心につかみ、瞬く間にその艶やかさを空に放ち始めた。
 アーモンドの花の狂おしいほどの本能がそうさせているのだろう。人知れずほころび始め、散り、短い絶頂しか知らないその姿に、自然の悲哀を感じずにはいられない。


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 モンティ・イブレイのアーモンドの花は、遠い日本の春を思い出させるだけではない。その咲き方こそが、故郷への思いを誘う。
 「ふるさとは遠きにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの」だからだろう。(室生犀星)

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崖に咲く。


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山の尾根に咲く。


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大地に咲く。


 もはや散り始めてしまったアーモンドの花を想い、また遠くの家族をも想う。

桜にそっくり・・・?!。
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by hyblaheraia | 2008-02-26 10:37 | 自然 | Comments(6)

幾重もの山を越え 後編 -モンテ・ラーチ~ラグーザ-

 ラグーザの美しさが凝縮されている山、モンテ・ラーチ(Monte Raci、ラーチ山)。春にはアーモンドの木々が溢れるほどの白い花を咲かせ、のんびりと草を食べる牛や羊が平和でノスタルジックな雰囲気を作り出す。夏にはイチジクやサボテンの赤い実がたわわに実り、全ての植物が生命の温存を図る冬が去った後は、再び様々な息吹が溢れ出す。

f0133814_141156.jpg だが、その美しさは単に四季の移り変わりによるのではない。この山に刻まれたシチリアの悠久の歴史が、自然の景観に真の命を与えているのだ。
 モンテ・ラーチのふもとには、紀元前6世紀のギリシア時代のネクロポリスがある。ラグーザ海岸西部のカマリーナ(Camarina)から、次第に内陸に移住してきたギリシア人たちの墓場であったそこには、壷や皿、土偶、首飾りなどの生活道具のミニチュア品が亡骸とともに葬られていた。
 ラグーザ新市街のイブレオ考古学博物館(Museo Archeologico Ibleo di Ragusa)
には、それらの出土品が展示されている。その中で、女神デメートラ(Demetra)の赤い素焼き(テッラコッタ)の土偶が含まれているのが印象的だった。大地の実りや五穀豊穣を司るデメートラは、コレ(Kore, Core)とともにシチリアの古い女神信仰の一つを物語る存在である。古代ギリシア人は、日々の農耕を守った女神を棺にそっと置き、亡き人が死後も豊かに暮らせるよう願ったのだろう。


f0133814_14315.jpg モンテ・ラーチを左に大きく回り込むと、これまで越えてきた山々が背後に連なる。長距離バスからは見えなかったが、新石器時代以来の歴史を有す町、キアラモンテ・グルフィ(Chiaramonte Gulfi)を通ってきた。
 毎年、数々の金賞に輝くイブレオ高原DOP(伝統製法による製品)のオリーヴオイルは、ここで作られている。小ぶりで硬めのオリーヴ果実の、若々しい青さとコクが衝撃的に後を引き、当たり前だがオリーヴオイルはオリーヴでできているということを実感させられる。パンニョッタ(pagnotta、セモリナ粉で作る地元パン)にさっと一かけし、その上にシチリアの野生オレガノをひとつまみ。オリーヴオイルの最も素朴にして最も贅沢な食し方、ファッチャ・ディ・ヴェッチャ(faccia di veccia、「老女の顔」の意)を今日も食べたくなった。


f0133814_16394633.jpg この辺りの斜面では、ナスカの地上絵のような不思議な石垣が目に付く。
 ムーロ・ア・セッコ(muro a secco、「乾いた壁」の意)と呼ばれるこの石垣は、土地を耕した時に出てくる石を槌で叩き割り、整形し、セメント類を一切使わずにこつこつと積み上げて作られる。熟練した技術と途方もない時間を要するこの壁を、ある年配職人は、完璧なものではなく、多少いびつで素朴なものこそ美しいというラグーザ人の美意識と誇りの集大成だと言っていた。なるほど、地元のフォカッチャもシチリア・レースも、手間暇かけたものの良さは、全てこの一言で説明できる。
f0133814_1641480.jpg この石垣によって、農民同士の土地の境界が明確になり、種類の異なる野菜栽培も可能になる。また栽培物のダメージの広がりを食い止め、家畜を守る柵としても機能する。手間はかかるが、なんとも合理的な石垣である。


f0133814_16542262.jpg 眼下に隣町、コーミソ(Comiso)が広がる。空気が澄んでいれば、さらに先の町ヴィットーリア(Vittoria)と地中海の水平線が見える。

 この景色の独占を許された山、モンテ・ラーチは、太古の人々の願いと葬られた人々の魂、繰り返された多民族の戦い、そして農民たちの知恵と大自然の厳しさをも、何世紀にもわたって見続けてきたのだろう。

 こうして豊かな景色を眺めつつ、幾重もの山を越えてきた。シチリアの歴史と文化と精神を感じさせる国道514号の道のり、ぜひじっくりと味わってほしい。


人気blogランキングに参加中 あぁ、やっとラグーザに着いた・・・
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by hyblaheraia | 2007-05-21 08:34 | 自然 | Comments(0)

幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-

 カターニアとラグーザを結ぶおよそ103キロの山道。そのほぼ中間地点からラグーザに至る道のりは、いかなる季節であろうと、いかなる天候や時間であろうと、その雄大な景色が心を打つ。

f0133814_5373926.jpg それはモンティ・イブレーイmonti iblei(イブレオ高原、イブレオ丘陵)と呼ばれるこの地域一帯が、自然保護地域に指定されていることと無関係ではないだろう。


f0133814_6405234.jpg モンティ・イブレーイの中程にひっそりとたたずむ町、リコディーア・エウベーア。その周辺の崖と丘のダイナミックな連なりを超えると、次第に葡萄の栽培が目に付くようになる。そして大きくカーヴするユーカリ並木を通り過ぎた瞬間に、手が届きそうなそこから遠くの丘の切れ目まで、そこかしこに葡萄畑が広がり始める。見も心も一気に全てその景色に吸い寄せられ、ただ感嘆の声をあげる一時。おそらく、こんなに多くの葡萄の木を一度に目にする場所は他にないだろう。

f0133814_6472041.jpg ここはマッヅァッローネMazzarrone、シチリア屈指の葡萄産地である。食卓用果物としての葡萄が大半だが、もちろんシチリア・ワインの代表格、ネーロ・ダーヴォラNero d'avola種も栽培している。
 とろみのあるような濃厚さと、葡萄の果実そのものの率直な味、それに負けないアルコール度を感じさせるこのワイン。強い衝撃に襲われ何であるか初めは理解できないが、飲み続けるうちにそれが葡萄の果実味だけではなく、葡萄を育む大地の土臭さをも包含する独特の風味によるものだと気付くだろう。
 ここを通る度に、今年のネーロ・ダーヴォラはどうだろうかと心が躍る。もはや私にとってこれらは葡萄の木ではなく、「ワインの木」として見えているのだ。このワインなくしてシチリア伝統料理は語れまい。


f0133814_5403652.jpg こうして葡萄畑を愛でつつ、再び丘をいくつも越えていくと、ここにはまだ春の足跡が残っていた。
 東京の路傍に咲いていた薄オレンジ色の上品なポピーとは違い、野生の燃えるように赤いポピーがキク科の黄色い花々とともに、丘を沿うように咲き乱れている。あの中に身を横たえ、青空と花々が創り出す色彩の泉に溺れてみたい。そうすれば啄木が「不来方の お城の草に寝転びて 空にすわれし 十五のこころ」と歌ったときの心境が分かるかもしれない。たとえ年は大分違っても。
 そして忘れずに見て欲しい、ここにも私の心を離さない廃墟の納屋が。まさに、このシチリアの田園風景に私はやられたのだ。


f0133814_544769.jpg あの山の向こうにラグーザがある。でも早く越えたいとは思わない。むしろ山の遠さから、心洗われるこの景色がまだしばらく終わらないことに安堵する。そして辺りの海抜がまだ低いことを確認しつつ、最後の絶景を迎える気持ちの準備を整える。
 ラグーザは実は海抜600mの高地にある。そのため11月から3月までは東京の冬と同じような冷え込みを体験することになる。とは言え、ここはシチリア。もちろん海だってある。ラグーザの中心からおよそ21キロ、ラグーザ市特有のカッルーバ(carruba、イナゴ豆の木)が群生する大地をひたすら下る一本道を、車かバスで20分走る。すると、どこまでも透き通るクリスタルブルーの水平線が、我々の目線よりも高いところに突如現れる。

 マリーナ・ディ・ラグーザ(ラグーザ海岸)。紺碧の海、白い砂浜、椰子の木、ジャスミンとブーゲンビリア、このシチリアを語る上でなくてはならない色彩を備えた海がここにある。だがラグーザの町自体は、海よりもにずっと近い所にそびえているのである。
 旧市街イブラは、新市街よりも下の谷にあるため、雲だけでなく朝靄や霧に隠れて町全体が何も見えなくなることもある。また逆に、イブラよりも下の谷から見れば、雲の中に浮かぶ小さな古都に見える時もあるらしい。その幻想的な姿の一部始終を、霧が消えるまで見続けたいものだ。

f0133814_5465544.jpg ゆるやかな丘陵をじわりじわりと登りつつ、気が付くとかなり高い所まで来ている。特に、この辺りから急勾配が始まり、バスのスピードもぐっと落ちる。山肩の傾れ具合で、その傾斜が想像できるだろう。
 ここから先、山の頂上へ向かうわずか10分ほどの時間に、ラグーザの美しさの全てが凝縮されている。

ラグーザまであと一山超えて・・・。


人気blogランキングに参加中 おーい、ラグーザはまだかー!
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by hyblaheraia | 2007-05-19 09:22 | 自然 | Comments(2)

幾重もの山を越え 前編 -カターニア~リコディーア・エウベーア-

 熱風の匂い、強烈な眩しさ、どこまでも濃く広がる空。いい天気に誘われるように外に出てみると、じりじりと肌を焼く太陽で確信した。夏だ、シチリアに夏が来た。
 この日、カターニアからラグーザへ向かう長距離バスから、シチリアの春の終わり行く姿を見届けた。植物の息吹に溢れていた大地は、既に、夏の陽射しに容赦なく焼かれ始めていた。なんと短い春だったことか。

f0133814_01430.jpg カターニアを出てすぐ目に留まるのがオレンジ畑の向こうにそびえるエトナ山。神々しいその頂には、がうっすらと残っている。30度近い暑さにうだる地上の俗世とは一線を画す存在であるかのように。
 このヨーロッパ最大の活火山は、標高3263m、地中海の中心シチリアにありながら、山頂付近の雪は6月まで溶けずにあるらしい。夏を告げるオレンジの葉の濃さと、残雪とのコントラストに一瞬戸惑う。


f0133814_0181111.jpgf0133814_0185312.jpgf0133814_0191262.jpg 抜けるような空と大地の蒼さに、黒と白のツートンカラーがあちらこちらで映えていた。プリーツのような羽を広げ優美に舞うガッヅァ(gazza、カササギ)である。黒く細い尾を美しく伸ばし、グライダーのように低空飛行する様は、肉食である彼らの凶暴さを微塵も感じさせない。
 電線に留まって右の羽をチェックして、左の羽もチェックして、これでよし。以外とおちゃめな面もあるのだな。


f0133814_0404138.jpg ゆるやかな丘陵地帯を登っていくと、風力発電の風車が所々に見えてくる。他に妨げるものが何もないこの場所で、丘を駆け抜ける風を一杯に受けている。
 シチリアだからこそ、風力だけでなく太陽熱も大いに利用すべきだろう。しかしシチリアの豊かなエネルギー源に関しては、何かと黒い政治が働いているそうだ。
 それにしても、この辺りはもうこんなに草が焼け落ちている。春の盛りには、柔らかな牧草に覆われていたのに。


f0133814_124819.jpg 自生するエニシダや、名もなき野の花々。シチリアの大地には太陽の光を跳ね返すこの黄色が良く似合う。
 シチリアの陶器として有名なカルタジローネ焼は、黄色と緑の配色を使うが、その組み合わせは、きっと野生の草花から来ているに違いない。至る所に咲き広がる花々の勢いを見ていると、どこかで誰かに強烈なインスピレーションを与えたはずだ、と思わずにはいられない。


f0133814_1155045.jpg さらに丘陵地帯を進み、山の奥へ奥へと進むと、憧れの町、リコディーア・エウベーアLicodia Eubeaが左手に見えてくる。
 ああ、このギリシア語の名前の響きの美しさ。いったいどれほどの時を重ねて今に至るのだろうか。崖の尾根に沿うように細長く伸びたその古い町は、眼下に白く輝く石灰質の土地を抱き、誇り高くそびえている。遠くから攻め来るどんな敵をも見逃すことはなかったであろう孤高の町。いつか必ず訪れてみたい。

f0133814_155785.jpg 山道の途中に点在する、今は使われていない納屋。厳しい自然の中で、貧しさと戦いながら、この牧草地を精一杯守っていた家族は、どのような思いでここを後にしたのだろうか。廃屋と化した納屋を見るたびに、胸が詰まる。
 カターニア出身のヴェルガ(Giovanni Verga, 1840~1922)は、このような景色の中でその文学的構想を固めていったのだろう。彼の『マラヴォリア家の人々』では、貧困と絶望に打ちひしがれたシチリアの農民の姿を、端的な力強い文体で綴られている。

 こうしてバスの窓から見える景色に、いろいろなことを考えさせられる・・・。
 さらに山を越えて、中編へつづく。


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by hyblaheraia | 2007-05-18 02:44 | 自然 | Comments(0)


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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