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心に映るもの

 心が違うとこうも違って見えるものだろうか。大学入学を祝って祖母が歌舞伎座に連れて行ってくれたのは16年前のこと。これから音楽を専門に勉強するのだから日本と西洋の文化の違いを知っておいて欲しい、という粋な誘いにより、一等席で《義経千本桜》などを鑑賞した。

f0133814_1412893.jpg しかしあの時は、実は少々退屈していた。台詞に肯きながら目を輝かす祖母の横で、昼食休憩の時間を今か今かと待ちながら。
 それがどうだろう。自らの意思で赴いた今回は、歌舞伎の世界に徹頭徹尾興奮し、拍手喝采ととともに思わず黄色い声が出そうになった。
 歌舞伎はまさにエンターテインメント、大衆芸能、ただ感情のままに素直に楽しんで良いものなのだろう。艶やかな舞台と軽やかな動きに魅了され、心臓を突くような音響効果にハラハラさせられた。
 張りつめた空気の中で幽玄の世界が開かれる能とは対極にある世界だった。

f0133814_1421111.jpg 今回は一幕見《紅葉狩》を鑑賞した。年末とあって、一幕見の入口には長蛇の列。呑気にチケット発売15分前に行ったら、立ち見になってしまった。
 それでも4階は舞台までそう遠くはない。花道が見えないのが残念だったが、オーチャード・ホールの最上階でオペラを観るよりずっと近い。お弁当の匂いが強烈に立ち込めているのも、なんだか親しみが感じられる。
 隣の年配女性とおしゃべりしたり、上演中度々オペラグラスを貸していただいたり、一人で出かけたのに想像以上にエキサイトし、立ち見席を後にする時、ああ楽しかった!と思わず歓声を漏らした。

f0133814_1433222.jpgf0133814_145094.jpg
 遊園地で遊んだ子供のように興奮して帰宅すると、北海道の友人から新鮮なホタテウニタラコが届いていた。このウニ船が3艘、さらにこの巨大ホタテ5つ入りの皿が5皿!、天然のタラコがどっさり。ホタテもウニもタラコもラグーザにはない。久し振りに見るその姿に心底見とれ、写真を撮っていたら父に、何しているんだ!遊んでないで早く!と怒られた。まぁまぁ、いいじゃないか、これも美味しく食する行動の一つ。
f0133814_1501570.jpg 焙り用にホタテの貝も入っていて、日本酒を注いで焙った。
 日本酒とホタテのエキスがぐつぐつと煮え、潮の香りが漂う。ぷりぷりの食感に透き通った海の味。ああ、こんな味をラグーザ人にも教えてあげたい。
 キースト・エ・ブオーノ!Chisto e' buono!(これは美味しい!)と言うに違いない。

f0133814_1515194.jpg 取れたて新鮮なので刺身ももちろん。貝好きの私にこの生ホタテと紐はたまらなかった。海の優しい味と貝のとろけるような甘さ、コリコリ感。肝は再び日本酒を注いで焙るとムチムチに。
 ルカも魚介好き、このホタテにはうなる。90歳と92歳の祖母たちもニコニコ。母も弟も絶賛。そして焙りから刺身の下ろしまで誰よりも興奮した父。
 食べ終わると親指も高速スピードで回っていた。

 歌舞伎に興奮し、海の幸を堪能し、今日一日の出来事の余韻に浸りつつ思った。曇った鏡に何も映らないように、心も磨いておかなければ、様々なものが心に留まることはないのだろう。歌舞伎の面白さが心に映るのに16年かかってしまったが、それでも通り過ぎた美を拾ってきたような気がして嬉しかった。
 だから、ラグーザの学生たちに今は伝わらないことがあってもいいだろう。彼らの心の鏡の準備ができたら、きっと振り返る時が来るはずだから。ラグーザの自然とともに、それまで何年でも静かに待っていたい。そしていつか、日本文化を通して互いの心を映し合いたい。

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by hyblaheraia | 2007-12-31 07:50 | 一時帰国 | Comments(0)

魂の対話 -能舞台の神秘-

 初めて能に触れた17年前、舞台で繰り広げられる抽象世界から、得体の知れない魂の威力を感じた。その記憶が生々しく蘇り、あの時以上に震撼した。
 ここに再び戻って来たことが嬉しく思えた。時間はかかったが、気付かずに通り過ぎるより良いだろう。「ないよりは遅い方がまし Meglio tardi che mai.」イタリアではそういう言い方がある。

f0133814_22444151.jpg 観世能楽堂は大いに変わっていた。ロビーには人がごった返し、能楽専門書店と土産物店が開かれていた。弁当を広げながら狂言を見る習慣はなくなり、何より立ち見が出るほどの盛況ぶりに心底驚いた。そして嬉しかった。
 年齢層はもちろん高め(50代以上?)で、全体で4時間かかる公演中に居眠りするご老人も見受けられたが、それも微笑ましい光景だ。
 そしてこの熟年層の熱気に負けず、若者も増えている。やはり野村萬斉等の功績や、能楽の世界がよりオープンになり、初心者向けのサイトや本が充実し始めたことと関係があるのだろう。
 太郎冠者:いやはや、良いことじゃ、良いことじゃ。
 Hybla冠者:なかなか(その通り)。

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梅若研能会 12月公演
 能 松風(まつかぜ)
 狂言 地蔵舞(じぞうまい)
 能 山姥(やまんば)
 帰国中に名作の組み合わせに出会える幸運。下勉強をして行ったので、『松風』の叙情的な場面を自由に感じることができた。
 大鼓方と小鼓方の裏返る声が浜辺のうねる風ならば、能管の厳しい響きは姉妹の霊の叫びだろうか。面の奥から発せられる籠もった声は、地唄の生の声と対照され、現世と黄泉の国との隔たりを感じさせる。面に松風と村雨(むらさめ)姉妹の性格の違いが見え、思わず息を呑む。在原行平(ありわらのゆきひら)の形見である烏帽子(えぼし)と長絹(ちょうけん)を手にした松風の、何かを見据えるあの覚悟の目。高度に抽象化された世界でのあらゆる所作とその意味を追う。
 心を無にして舞台に預けたら、受け止めきれないほどの魂の迸り(ほとばしり)が返ってきた。「信じて飛べ」中沢新一の言葉はこういうことだったのだろうか。宗教でなくても、信じて飛ぶのは能もオペラも同じだ。

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 『松風』で想像以上の衝撃を受けたので、休憩時間にロビーの書店で『山姥』の謡本縮刷版(B7)を買った。これを見ながら今度はより言葉に集中した。台詞の繰り返しと強弱、よどみない流れと溜めの部分、子音のぶつけ方などが手に取るように理解できる。
 隣の女性は、紙が茶色く焼けて端が折れ、使い込まれた謡本を時折見ていた。他にも謡本持参の観客が多数いた。オペラの字幕のようなものかな。

 こうして短い帰国中に、忘れていた美に立ち返り、心に深い栄養を与えている。今は無心でその美に触れようとしているから、舞台から凄まじいエネルギーを与えられる。年を深めた将来は、舞台の出来事に人生経験を重ねて、より柔軟に対話できるようになるだろうか。
 そんな魂の対話の神秘を、ラグーザで日本語を学ぶ生徒たちに伝えたい。まだ遅くはないはずだ。

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by hyblaheraia | 2007-12-17 01:50 | 一時帰国 | Comments(6)

通り過ぎた美

 こんなにきれいだっただろうか。実家近くの何気ない景色に思う。公園の木々は天高く伸び、紅葉の茂みは風にさらさらと音を立て光を反射する。時折、雀や椋鳥(ムクドリ)が楽しげに戯れる姿が見え、烏の切なげな声が遠くに聞こえる。空は思いの外青く、個性的な雲が自己主張している。
 なかなかではないか。東京都心にも心和ませる風景がまだまだある。
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f0133814_16113887.jpg 久しぶりに見る赤い木々に懐かしさが込み上げてきた。いいですな、紅葉。ラグーザの木は紅葉しない。黄葉が精一杯だ。

 どこから写真を撮っても電線が入ってしまうのがやはり東京。この不思議な雲が撮りたかった。
 宇宙人用のチューブかな。シチリアの宇宙人が追いかけてきたのかもしれない?!あそこを通って帰れるかな。

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 さて、美しい秋の東京で、我々は家に籠もって勉強中。先日はパニック的な忙しさで、ランチに天丼の出前まで頼んでしまった(家族は外出中だったので)。その夜は二人で徹夜。こんな猛烈生活、いつまで続くのか・・・。
 お!こんな所に指Tが!あのシチリア宇宙人がチューブからやってきたのだ、きっと!お~い指T、ご飯粒つけてどこ行くの~?

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 今回私は能、狂言、歌舞伎に関する勉強をしている。ずっと欲しかった能楽の謡本も買った。これは観世流《紅葉狩》。他にも金剛流、宝生流の謡本もあり、お稽古用にカセットテープと教本のセットも存在することを知った。こうして日本伝統文化が一般に普及し、愛されることは喜ばしいことだ。
 在学時代にもっと勉強しておけば良かったと深く後悔。でも今からでも遅くない!

f0133814_16142463.jpg 夕方になるとヂヂヂヂヂヂ!ヂュリヂュリヂュリ!とムクドリ一家が大騒ぎする。5人家族だったのか。
 今年の春、近所の軒下には雛の巣があった。こんなに大きくなったのだな。親鳥が仲睦まじく朝から晩まで空を飛び回り、餌を与える姿を思い出す。

 東京にいた時は常に何かに追われ、季節の彩りの真横を過通りしていた気がする。
 ここには木も雲も鳥も常にあったのだ。ラグーザに暮らして、ようやくそれに気付く心のアンテナを得た気がする。そして日本を離れて、伝統芸能に奥義に触れたくなった。
 通り過ぎてしまった美を探して、逆戻りするのはなんだか心地良い。

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by hyblaheraia | 2007-12-16 00:20 | 一時帰国 | Comments(4)

ああシチリアや

 なぜだろう。我々がラグーザを発つ時は決まって晴天。雨や雷ならここから逃れたいという気にもなるが、こんな景色を見たら出発を一日延ばせば良かったと思わずにはいられない。後ろ髪を引かれる思いで、輝く里を後にするのが常なのだ。

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 真っ青な絵の具を塗ったような空に、骨の髄までじわじわと暖める太陽。その温もりに背中を押されながら、隣町コーミソComiso、ヴィットーリアVittoria、ジェーラGelaが広がる絶景を前に、直ぐに帰ってくると大地に約束する。

f0133814_246677.jpg 東を向くと、二つの山から成るモンテ・ラーチMonte Raciが、いつものようにムーロ・ア・セッコmuro a seccoの模様を輝かせている。そのふくよかな形から、ラグーザ弁でイ・ミンネi minne乳房」と呼ばれるそうだ。
 母なる大地の柔らかな胸に抱かれる想いで、そう名付けられたのだろう。なんという自然への憧憬と眼差しだろう。
 尾根の向こうに白く広がる町はキアラモンテ・グルフィChiaramonte Gulfi。遥か彼方には雪化粧のエトナ山Etnaが優しく微笑む。

 ああシチリアや、シチリアや、シチリアや。

f0133814_2464366.jpg カターニア空港に着いてチェックインを済ませると、次にすべき事は腹ごしらえだ。機内食が物足りなくて、そばつゆまで飲んだことも、隣席のサッカー関係者からポテトチップスを頂いたこともある。
 きっと気圧が低くなると胃が膨張する家系なのだろう。弟も同じ症状を持つ。
 エコノミークラス機内食不足症候群。そう名付けようか。
 空港のバールに行き、時間がなかったので野菜のグリルを頼んだ。ズッキーニ、ナス、キノコとパン、炭酸水で手早く食事。まぁこれで、ちょっとは不安が解消された。

f0133814_2465871.jpg 夕方5時半。ボーディングの時の空は、深いオレンジ色から薄青紫へと染まっていた。
 ああ、今は乗りたくない。この夕陽とともに夜に沈み、明日をシチリアで迎えたい。
 そんな気持ちにさせる空に別れを告げ、まだ日本へ発つことを実感できずにミラノへ飛ぶ。

f0133814_2472260.jpgf0133814_2473711.jpg ミラノから成田への機内食。
 ルカは事前に魚ベースの特別食を頼んでいた。ビール、白ワインと軽快に飲みながら心踊るその時を待つ。が、エコノミーの機内食がステキなわけがない。写真を撮るほどでもない。ただ、エビの大きさだけは比較しておきたかった。
 ルカのはぷりぷり、私のはミニミニ。レモンがグレープフルーツにに見えるほど。

 成田に到着すると、エコノミークラス機内食不足症候群の症状がぶり返してきた。稲荷寿司3つとお茶を買ってリムジンバスに乗り込んだ。大都市、東京の夜景を見ながら稲荷寿司をつつく。そして思わず一言。
 人がいない所にも電気が付いてるねぇ・・・。ルカは噴出していた。

 食欲も、電気の使い方も、私はすっかりシチリア式になっている。腹時計が夜中3時(イタリア時間午後7時)に鳴り、空腹に苛立ちお茶漬けをすする。無駄な電気を消しまくり、階段くらいつけなさい!と怒られる。寒い家に慣れすぎて、暖房の効いた家では気分が悪くなり、窓を開けては嫌がられる。
 なんだか早くもホームシックになりかけているみたい。

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by hyblaheraia | 2007-12-14 04:15 | 自然 | Comments(5)

ラグーザから日本へ

 良く考えてみたら、結婚してから初めて日本の家族全員でクリスマスを過ごすことになる。そしてルカと一緒に帰国するのも今回が初めてだ。研究調査のため秋になると、2週間おきに日本とイタリアを往復した悪夢の期間も数年あった。その間は日本にいても家族と落ち着いた時間を過ごすことなどできず、ただ慌しく家中の本やら資料を撒き散らして飛行機に乗り込んだ。飛ぶ鳥後を大いに濁して。

f0133814_17404516.jpg 結局、今回も我々の研究が目的で日本に行くのだけれど、それでも二人で出発となると気分も違う。
 ネットで航空券を買った際、ルカは機内食を特別食にした。魚ベースbase di pesceという項目があり、魚介好きナポリ男は大喜びでこれを選んでいた。ならば私もと卵なし料理を選ぼうとしたが(卵嫌い)、そうするとベジタリアン料理しか選択がなく、いつも機内食が足りなくてイライラする私には、やはり肉が必要と断念。今回もアランチーニ持参で乗り込む予定。
 そんなこんなで我々が帰るととなると、日本の豪飲豪食家族から次々と指令が入る。スーツケースの8割はラグーザの食べ物が占め、クリスマスシーズンだけにパネットーネの希望まで入る。あのバケツほどの大きさの箱がスーツケースを占拠。そして手荷物にはデキャンタ。理想的な大きさとフォルムなのだそうで、前回ここに来た時に持ち帰れなかった姉からの購入指令。ルカは絶句していた。

f0133814_1741292.jpg 何はともあれ、ご希望の品々は全て揃い胸を撫で下ろす。世界中の子供たちの願いを叶えるサンタクロースは毎年、こんな苦労をしているのかな。
 ラグーザから日本に行くサンタラグロースは、揃える論文やら資料やらで、出発前に既に疲労の極地。これだけのプレゼントをバス停まで徒歩30分、運べるだろうか。ヨロヨロ・・・。
 無理と判断し、カターニア空港までタクシーを頼んでしまった。いつものジョヴァンニ氏に。

 ハイテクノロジーの日本で、人々のスピードについて行かれるか心配だが、昼寝の時間を返上してでも歌舞伎を観に行くつもりだ。
 日本の皆さん、どうかお手柔らかにお願いシマス。

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by hyblaheraia | 2007-12-07 18:19 | 一時帰国 | Comments(4)

十七条憲法 -25年前の祖父からの手紙-

 一に曰く和を以って貴しとし、忤(さか)ふこと無きを宗とせよ。人皆党(たむら)あり。また達(さと)れる者少なし。
 墨と硯(すずり)の匂いの書斎で、椅子を並べて共に声を出して読んだ遠い日の記憶が蘇った。学ぶことに何の助力も惜しまず、その楽しさを教えてくれた祖父からの、25年前の手紙である。

f0133814_051792.jpg 聖徳太子の十七条憲法。その全文(漢文)と書き下し文が11枚の便箋に、一糸乱れぬ力強い筆致で書かれている。
 小学生だった私を思ってであろう、所々、読み仮名が加えられている。封筒の消印を見ると、12歳の誕生日の10日前。ああ、そのために用意してくれたのだ。

 その日は、都内のピアノの先生宅から自宅へ、祖父と一緒に帰ることになっていた。電車で2時間、当時の我が家まで私は喋りっぱなしだったそうだ。何をかと言えば、社会の時間に習ったばかりの縄文、弥生文化、土器や埴輪、卑弥呼、稲作の始まり、高床式住宅、前方後円墳や法隆寺のこと、そして聖徳太子と十七条の憲法についてだ。とにかくその頃は初めて(系統的に)学ぶ日本の歴史に、子供なりに興奮していた。ボックス席に肩を並べ、田園風景を見ながら、一生懸命話したのだろう。
 聖徳太子の本を持っているから、十七条の憲法についてもっと教えてあげよう。そんな約束をしたような気がする。1ヵ月程経って、この手紙が届いたのだ。

f0133814_054390.jpg 夏休み、これを持って祖父母の元に遊びに行った。
 小学生には難解な内容だが、祖父はまず漢文の大まかな規則を説明してくれた。返り点や一、二の規則を知り、漢字を下から読むなんて!と驚きつつも、パズルのようで楽しかった。
 そして言葉の意味を一つ一つ、子供の目線になって一緒に考えてくれた。一文が理解できたら、声に出して唱和する。一に曰く(祖父)、いちにいわく(私)・・・という具合に。
 便箋の一枚目には勉強の跡が見られる。小学生の私の鉛筆書きだ。今より字がきれいだな。何て書いてあるのかと言うと・・・、

f0133814_07362.jpgf0133814_072437.jpg左:
レのしるしは、下から上へ読む。
一、二は一から二の方に読む。

右:
人皆有党 へんけんを持ったり、いじ悪をする人もある。
亦少達者 天才ばかりがいるとはかぎらない。
何事不成 何でも出来るはずだ。

f0133814_07578.jpg ずっと引き出しに大事に閉まっていたこの手紙を、前回日本から持ってきた。昨日、荷物の整理をしながら偶然見つけ、いろいろな想いが溢れ出てきた。
 小学3年の正月、祖父が詠み手となった孫7人の百人一首大会で、古い日本語の不思議な響きを知った。
  長からむ 心も知らず 黒髪の
    乱れて けさは 物をこそ 思へ
 意味は分からなくてもジェスチャーでこの歌を表現したり、きれいな姫札だけを集めて暗記して遊んだ。それがとても楽しかった。百人一首が気に入り、友人と六人一首なるものを作って担任の先生にプレゼントしたりした(困った顔をしていた)。正月恒例の書初めでは祖父の手ほどきを受けた。火鉢で焼いた羽子板羽根つき凧揚げ門松破魔矢など、日本の正月は祖父の元で学んだ。
 書斎にあったドイツ語の本のカメ文字が面白くてノートに書き写した時は、普通のアルファベットでいいんだぞ、と言いながらも書き終わるまで見ていてくれた。運動会があるから来てほしいと電話すると、祖母と始発電車に乗って私が登校するよりも早く駆けつけてくれた。両手には栗ご飯を携えて。学校裏の田んぼを案内した日は、竹薮に生える竹の子を手で抜こうとする祖父に、だめだめこうするの、と足でコンコンと蹴って見事に抜いて見せ、頭がぐしゃぐしゃになるほど褒められた。いつの間にか覚えた方言で喋ってみせると、腹を抱えて大喜びした。

 思い出すのはいつも何をしても褒められたことだ。ピアノのコンクールに落ちても、良く頑張った、一生懸命やることが大事だ、と褒めてくれた。西洋の褒めて伸ばす教育は日本にはないと思っていたが、こんな身近な、しかも頑固一徹の明治男からその教育を受けていたとは。
 ラグーザでそんな昔の出来事を思い出しながら、日本で培った自分の根っこのようなものを感じていた。

f0133814_6241760.jpg 子供の時の何気ない感動は大事なのかもしれない。その些細な驚きを引き伸ばし、難しいものも楽しく説明し、子供だからと手を抜かず、何でも本気で向き合ってくれたことに感謝した。
 祖父がいたらルカと何を話していただろう。パイプを勧め、政治か小説談義で盛り上がるだろうか。そこに私も加わり、杯を交わしながら、語り明かしたい。

 いや~Hyblaは良く喋るなぁ~。
 2時間の電車の後、祖母にそう言ったそうだ。今なら、良く飲むな~、と言うに違いない。嬉しそうな顔で。
 私の男勝りな面をいつも褒めてくれていたから。

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by hyblaheraia | 2007-12-05 03:41 | 生活 | Comments(15)

オリーヴの塩漬け完成 -伝統の味への意地-

 毎朝、紅茶を入れた後、毎晩、食事の片付けをした後、子供を風呂に入れるような気持ちでオリーヴの面倒を見てきた。青い香りを嗅ぎ、皮の柔らかさに触れ、彼らと対話しつつ、塩の加減を日々微妙に調整するのが実に楽しかった。
 11月23日夕方に塩漬けを開始し6日目、何気なく一つ食べてみると、あ、これは!ルカにも一口食べさせると、おお!と驚く。まさにその時が来たのだ。もはや食べるしかない。急遽、第一回目の試食と相成った。

f0133814_8352933.jpg しかしながら、いろいろつまんでみると、まだ下の部分が青くて硬いものもある。そこでまずは選別作業を行う。
 左上下:まだグリーン色が見えているものがあり、硬い。もう少し塩漬けが必要。
 右上下:触っても柔らかく、色もいい具合に渋い緑色になっている。

 ちなみに上段は塩漬け開始時に、傷のなかったきれいな実、下段は虫食い部分を切り取ったやや難有りの実。
 硬い実は再び塩水に漬けて、柔らかい実に味付け開始。

f0133814_8361253.jpg用意するもの
オリーヴ・オイル
にんにく一片
唐辛子

酢(お好みで)
オレガノ/あるいはフィノッキェット(フェンネルシード)
イタリアン・パセリ/あるいはミント
パセリの小口切り(お好みで)


 オリーヴ・オイルを全体に2、3回ぐるりとかけ、にんにくを刻まず入れ、唐辛子(好み量)、塩一つまみ、酢をいれるのならここで数滴、オレガノ一つまみを散らしてスプーンで良くなじませる。そこに刻んだイタリアン・パセリを加え、再びスプーンで良くかき混ぜる。これを10分ほど置いて味を馴染ませ、パセリがしんなりした頃が最高の味に!

f0133814_8375853.jpg 味付けは人によって好みが分かれるところだが、実験の結果、私の好きな味は:
オリーヴ・オイル、唐辛子、にんにく、塩、オレガノ、イタリアン・パセリ、のシンプルな組み合わせだった。
 フィノッキェットが入ると甘みが加わり味がばらついてしまう感じがし、セロリの小口切りはみずみずしさを足すけれど塩気を薄めてしまう気がした。は入れると上品な味に仕上がり、日持ちも良くなる。
 が、やはりワインのつまみとしてはこう、キュキュッと引き締まった塩気辛味を求めてしまうのだな。

 ああ、でもまさにこれを待っていたのだ。ネーロ・ダーヴォラを揺らしながら、それに負けない味を堪能し、手作業の一つ一つを回想する一時。噛んだ瞬間に弾け出す青い甘みは、初日にオリーヴを潰した時に見たあの乳白色のミルクであろうか。そして何度も塩水を取り替えた者のみが知る、この果肉の柔らかさ。

 こうした手作業の喜びを味わい、地元の味を自力でまた一つ学んだ充実感に浸りながら、ある意地を再確認していた。
 生涯をラグーザで過ごすのなら、地元の人の素養を私も会得したい。それがラグーザ人としての常識であり教養であるのなら、将来、我が家族にもしっかりと伝えねばならない。母が東洋人だから、と子供たちが言い訳したり、人々に後ろ指を刺されることがないように。

 オリーヴの塩漬けで、どれくらいラグーザ人に近づけただろうか。今わの際まで日本人だが、この地を愛する気持ちは彼ら以上であり続けたい。 
 ラグーザへの愛は、こうして地元料理からコツコツと育まれるのである。
  
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by hyblaheraia | 2007-12-03 11:20 | 料理 | Comments(21)


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


by hyblaheraia

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2013年11月、共著出版



2009年4月、共著出版



1999年3月、共著出版


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