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テッラコッタの瓦

 「あ、ドンドリーナやってるよ!」
 我が家の西側の廃屋で、今朝から瓦のふき替え工事が行われている。工事と言っても、そんな大々的なものではなく、お爺さんが朝から一人でこつこつと手作業で行うというものだ。このような瓦工事を我々は「ドンドリーナ」と呼ぶ。
f0133814_8443482.jpg 今年の1月半ばのことだった。年末の豪雨で雨漏りがしたので大家さんに連絡し、職人さんを送ってもらった。約束の朝、8時丁度にベルが鳴り、70代半ばくらいの私よりも小柄なお爺さんが一人で現れた。今日は下見で、明日から若い衆を連れてくるのかと思い、そう尋ねてみると、「どうして?一人じゃだめかい?」とちょっと不機嫌そう。いかにも職人気質な雰囲気が漂っていた。

 さて、このお爺さん、まずははしごでテラスから屋根に上り(上写真と同じように)、状況を確認。瓦がズタズタに割れているので、それを全て取り除く作業を始めるという。屋根の上で石がぶつかる音が絶え間なく聞こえ、しばらくするとバケツ一杯に欠片を入れて降りてきた。これを持って、我が家の中を通過し、道路に駐車してある軽トラックにガラガラと投げ込み、再び空のバケツを手に屋根へ。壊れた瓦を全て除去するまで、この作業を朝から夕方まで丸一日続けた。
 日本ならおそらく屋根と地上を結ぶ電動のはしごやクレーンのようなものを使うだろうが、お爺さんは一人で息を切らせながらもテキパキと作業をこなしていた。
 そして翌朝、またもや8時丁度にベルが鳴った。今日は屋根の基礎工事をするので、友だちの店に「ドンドリーナ」を買いに行って来ると言う。エ、何デスカソレ?
 何か夢がある響きだな。すてきなお菓子の家が甘い香りを立てながらグルグル回る、メリーゴーランドのようなものを想像させる響き・・・。

f0133814_8491030.jpg 帰ってきたお爺さん、軽トラックの荷台から黒い板を担いで上がってきた。これがドンドリーナか!甘い香りのグルグル回るお菓子の家ではなく・・・波型の黒い板か・・・。ルカが笑って言った。チガウヨ、「オンドリーナ Ondolina(onda=波)」ダヨ。
 あ、また聞き間違えた。波のオンドか。まぁ良い、私はドンドリーナと呼び続けよう。(写真のお爺さんが持っているのがオンドリーナ)

f0133814_9112875.jpg ところでこのオンドリーナ、実はアスファルト製で、軽量でありながら水を通さないため瓦の下に敷き詰めるのに良く使われるのだそうだ。使う際は、シングルベッドくらいの大きさの波板をチェンソーで必要な大きさに切り、それらを屋根に並べて専用の釘で止め、屋根と壁の90度の角はセメントで固めて補強する(写真左)。そしてオンドリーナが敷き詰められたところに、シチリア伝統のテッラコッタの瓦を伝統的な方法で並べ、最後に端の部分を重石で固定する。これで瓦の吹き替え工事は完了となる。
 この方法でラグーザの町並みは、昔からずっと変わらぬ姿を保っている。瓦の重みで屋根が少したわんだ、素朴な味わいの家並みが私は好きだ。この景観がこれからも守られていくことを願って止まない。
 しかし我が家に来た職人さんも、近所を工事している職人さんも高齢だった。テッラコッタの屋根工事の方法は、次の世代にきちんと受け継がれて行くのだろうか。最近、文化遺産の保存について考えさせられる機会があまりに多い。
 ドンドリーナを使った瓦工事、手順だけなら知っているので何か役に立てるかな。

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by hyblaheraia | 2007-06-20 09:46 | 伝統・技術 | Comments(0)

水が無ければ・・・

 いつもの美容院に予約に行くと、店の前で美容院のシニョーラたちが立ち話をしていた。今日はもう閉店ですかと聞くと、予約しに来たんですか・・・?と暗い声。はい、と答えると、その瞬間2人の目の色が変わり、アヤヤアヤヤア、ドュブドュバッドュ!!!!!とラグーザ弁で機関銃のようにまくし立て始めた(私にはそう聞こえる)。

f0133814_7494853.jpg 実はこの数日間、水が出なくて仕事ができないのだそうだ。市役所に電話したが、町中の水道パイプが壊れているので復旧には時間がかかる、と言うだけで、何の措置もないとのこと。ここより少し上の我が家の地区で、2週間前に同じことがあったばかりなのに、またか!
 今月初頭に水無し生活を送ったので、その辛さは身に沁みて良く分かる。飲み水や料理用の水がないだけでなく、手が少し汚れても洗えない、食器も洗えない、トイレもシャワーも使えない、植物は枯れる・・・。あの時は水復旧に丸2日半かかった。一般家庭でも大変な事態だが、ここは職場だ。水を使う職場に水が無ければ、働くにも働けないではないか。シニョーラたちが激しく怒るのは当然だ。店には2000リットルの貯水槽があるのに全て空、成す術が無いとぼやいていた。
 過去5年間に2回、これで3回目だそうだ。我が家の場合も、過去6年間に4回同じことがあったと前の住人から聞いた。こんなに頻繁に起きるとは、シチリアの水問題は深刻だ。ナポリからシチリアに向かう鉄道の中で、隣に座った人々がこの話をしていたのを思い出す。本土とシチリアを結ぶ巨大な橋の建設などどうでもいい。ここに必要最低限の水供給システムと鉄道を作って欲しい。

f0133814_9294798.jpg こんな事態で行きつけの美容院が閉店ならば、自分で染めるしかない。もちろん他にも美容院はあるが、外国人である私はなぜここに住み、何をして・・・と身の上話を一から始めなければならず、それが面倒なのである。それにこの間、学生とのおしゃべりをしていて白髪を凝視されたことを思い出し、いよいよ決心が付いた。買ったまま怖くて使えなかったヘアカラーセットを今日こそ使う!
 前はきれいに染まるかが怖かった。が、今日は違う。シャワーで洗い流している間に、水が止まることが怖かったのである。カラー剤が付いたまま水が出なくなったら、いったいどこに駆け込めばいいのか。作業中、ずっと考えていた。そして思いついた、ああ、あそこだ!

f0133814_913586.jpg それはここ。ここしかない!ユネスコ世界遺産のサン・ジョヴァンニ大聖堂(Cattedrale di S. Giovanni カッテドラーレ)の庭の噴水。ここなら噴水が止まっていても水は常にこれだけある。
 この水を使えば、グリーンのメッシュも入ってきっとおしゃれに!

 そういえば、この間の水無し生活の時もルカと話していた。せめてトイレに流す水を確保するのに、どこかに噴水はないのかと。あればそこから汲んでこようと。
 ここに噴水はあるけど、先客が既に・・・。

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by hyblaheraia | 2007-06-19 09:59 | 生活 | Comments(3)

そんなことを!

 昨日のブログのつづき・・・。
 カルデッリーノ(Cardellino、ゴシキヒワ)は何を話しているのか。チュリチュリピュルピュリピチューリチュリ!”#$%&+*><?@=~!という彼らの囀りを録音して遅回しで聴いてみたら、その言葉が聴き取れるかもしれない。もしかすると、人間の想像を絶するメッセージが隠されているかもしれない!我々は興奮した。

f0133814_23211893.jpg 待ち遠しかった朝を迎え、早速、実験開始。まずはカルデッリーノの声を録音する・・・が、暑すぎるせいか、今日はなかなか来てくれない。仕方がない、前に録音したものを使って実験するとするか。
 すると・・・おぉ!なんと!あの小さな体とかわいらしい声でそんなことを!恐るべし、カルデッリーノ!

 彼らのメッセージを聴く勇気があれば、ここをクリック。
 
 こうして我々はラグーザ的スローライフな週末を楽しく過ごすのであった・・・。
 さえずりの分析は、下の「コメント」にあります。

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by hyblaheraia | 2007-06-18 00:04 | 野鳥・昆虫・動物 | Comments(5)

分かった!Eureka!

 チュリチュリピュルピュリピチューリチュリ!”#$%&+*><?@=~!え?何の音?
 数秒後再び、チュリチュリピュルピュリピチューリチュリ~!。そして、「・・・わたしはきこえたおとをすべてノートにかくようにしています・・・」、「・・・がいこくごをべんきょうするために、なにがだいじだといっていますか・・・」。
 ああ、ルカが教材テープを使って授業の準備をしているのか。やれやれ、びっくりした。

f0133814_723592.jpg すると、「ワカッタ!ワカッタヨー!」とルカの叫び声。何事かと急いで二階に駆け上がると、「カルデッリーノ(ゴシキヒワ)の鳴声をテープで録音して、ゆっくり聴いたら何を言っているか分かるかもしれないよ!」
 何かを悟ったような、確信に満ちた表情のルカ先生がそこに。
 ええー、そんなー!!はずはないだろう。確かにチュルチュル言う音は似ているけれど、鳥の声とテープの早送り音は似て非なるものぞよ、ルカ先生。
 とは思ったものの、ふふふ、何となく好奇心がそそられる。あんなに早口で囀られると口真似さえできないが、遅回しならチュリなのかチュルなのか、ピュロなのかぐらいは聴き分けられるだろう。意外と何か分かるかもしれない。遅回しで分析した結果、宇宙からのメッセージを伝えていたりして。おお、考えただけでも想像が膨らんで来る!やるぞ!
 明日決行!

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メモ:タイトルのEureka!は、アルキメデスが王冠の金の純度を測る方法を発見したときの叫び声。「分かった!、見つけた!」の意味。
 
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by hyblaheraia | 2007-06-17 07:53 | 野鳥・昆虫・動物 | Comments(2)

石油採掘から世界遺産を守る

 ミラノのドゥオーモの前で石油採掘調査が行われたら…。ヴェネツィアのサン・マルコ広場で石油が採掘されたら…。フィレンツェのサンタ・クローチェ教会広場で石油採掘が始まったら…。町の人々はどう反対するだろうか?

f0133814_10105889.jpg 『モンタルバーノ警部 Il commissario Montalbano』で世界的人気のシチリアの作家、アンドレーア・カミッレーリ(Andrea Camilleri)レップブリカ紙La Repubblicaに「ノート渓谷の保護 Il difesa di Val di Noto」を投稿し、こう呼びかけた。
 アメリカの石油会社パンサー・オイルPanther Oilが、世界遺産に登録されたシチリア南東部のノート渓谷一帯(ラグーザを含む)で石油発掘を行う。そのことに対する反対メッセージである。

 この騒動はそもそも2004年、当時ならびに現州知事のクッファーロがパンサー社のシチリアにおける油田調査と発掘に合意した事に端を発する。同社はシチリア州との合意に基づき、数年の調査を経て油田を掘り当て、本格的な採掘を始めるところだった。しかしそこに住民、政治家、世論から待ったがかかったのである。
 反対は至極当然。想像してみて欲しい。世界遺産の美しい町に突如巨大な採掘ドリルが突き刺さり、騒音と振動で町を揺るがし、環境汚染で住民の健康と平穏な暮らしを脅かす光景を。信じ難いことだ。我々の住む土地がここと何の縁もない外資企業に乱暴に掘り起こされることに、なぜ、という言葉しか出て来ない。


f0133814_10351786.jpg 今日はレプッブリカ紙やシチリア放送ばかりでなく、全国放送でも大々的にノート渓谷での石油採掘が撤回されたと報じている。放送中、「パンサー社は世界遺産地区における石油採掘を撤回しました!」と州知事がパラッツォ・キージ(首相官邸)での記者会見で興奮気味に、まるで自分の手柄のように発表する場面が何度も流れた。
 しかしWWFは「喜ぶのは早いAttenzione ai facili entusiasmi」と警告を発している。同社が発掘を撤回したのは、746km2の発掘予定地のわずか10パーセントに過ぎないからだ。言い換えれば、世論の関心が高かったノートの居住地、ユネスコ世界遺産の認定場所、ノート旧市街、シチリア南東部の自然保護地区での発掘を辞退しただけであり、その他の地域では予定通り行われるという意味なのだ。いかにもアメリカ的な戦略だ。

 カミッレーリの記事の最後にはインターネット署名が付されており、現時点で74,000人分の署名が集まっている。もちろん我々も参加した。
 この地域での石油発掘は環境汚染と人体への被害、さらに歴史的文化的遺産の破壊をもたらすことになる。それをどれだけ多くの人が気付くかが問題だ。カミッレーリのメッセージは多くの人にそのことを理解させた。私の愛するラグーザが10年後も100年後も同じ輝きを放っているには、我々の意識が問われている。

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一口メモ:「ヴァル・ディ・ノートの後期バロック様式の町々(シチリア島南東部)」として2002年に次の8つの町が世界遺産に登録。カターニア、カルタジローネ、ミリテッロ・イン・ヴァル・ディ・カターニア、ノート、パラッツォーロ・アクレイデ、ラグーザ、モディカ、シクリ。
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by hyblaheraia | 2007-06-16 10:49 | 政治・社会 | Comments(5)

ムカートリ -3つの食感の伝統クッキー-

 ンパナティッギ、スカウラーティ、ムカートリ、アヂュヂュレーナ・・・。
 不思議な呪文のようなこの言葉、ラグーザの伝統的な焼き菓子の名前である。この菓子たちが食べたくなったら行く所は決まっている。我が家の前の坂道を400メートルを駆け下り、目指すは「パニフィーチョ・ローマPanificio Roma、パン屋ローマ)」。菓子店ではなく、パン屋である。

 店に入るとシニョーラが満面の笑みで迎えてくれた。私がここに来る理由を知っているからだ。地元のパン以外に、アランチーニやフォカッチャが随時揃えられ、ラグーザ伝統の焼き菓子も不定期に1、2種類ほど売られている。運が良ければ出会えるし、悪ければまた次回ということになる。

f0133814_532492.jpg 今日はあると信じて疑わなかった。これだけ欲して出会えないわけがない。そして、ムカートリ(mucatoli)があった。
 ラグーザ弁では「ムカーチュリ」と発音する。S字型にひねられた、ラグーザの伝統的なクッキーである。
 前々から気になっていたのだが、よくカートリではなくカートリ(nucatoli)と言う人もいる。その違いをシニョーラに聞いてみると、ヌカートリは隣町モディカの呼び方で(ヌカーチュリと発音)、上部に蜂蜜が塗られているが、ラグーザのはムカートリと呼び、上部を砂糖で固めるのだそうだ。
 なるほど、じゃぁこの菓子の発音で出身地が分かってしまうという訳か。これはおもしろい!「このお菓子は何ですか?」と答えを誘導し、「ヌカーチュリ」と言えば、「あなたはモディカ出身ですね」とズバリ当ててみたい。

 さてさて、ラグーザのムカートリ、外側の白っぽい薄焼きクッキー部分は小麦粉、砂糖、バター、卵、牛乳で作られる。その生地を長方形に小さく切り、そこに蜂蜜、アーモンドプードル(アーモンド粉)、オレンジの皮、クミン、クローブ、シナモンを混ぜ合わせた生地を乗せ、S字型に整形する。これを180度のオーブンで焼き、アイシング(トッピングの砂糖)を飾って出来上がり。
 この工程が示す通り、ムカートリは2種類のクッキーとアイシングから成り立っている。だから歯ごたえも3種類楽しめる。
 S字の端をかじると、白い薄焼きクッキーの部分がカリッ、カリッ。その間もなく中身の茶色いクッキー部分がムチョ、ムチョ。蜂蜜がこの食感を創り出しているのだな、などと考えているとさらにサリッサリッ。ああ、アイシング部分がかけていく食感が何となく歯がゆい。もう一口、カリッ、ムチョ、サリッ。今度は食感だけでなく、香辛料とオレンジがもたらすエキゾティックな風味を楽しみ、シチリア菓子のアイデンティティーを実感する。こうしてまた一口、カリッ、ムチョ、サリッ、さらにもう一口、さらに、さらに・・・。美味しさのあまりスピードが上がると順序が崩れ、サリッムチョ、カリッムチョ、ムチョカリ、ムカーチュリ・・・!?
 ああ、だからムカーチュリなのか。

 エキゾティックなものは全てアラブの影響と思ってしまうラグーザ人に、ムカートリは「ムチョ」と「カリ」、S字型は「サリ」の和的食感からから来ていると新説を提唱しようかな。

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by hyblaheraia | 2007-06-15 07:19 | 菓子 | Comments(6)

自然の神秘が描く紋様

 「夏になると、虫がたくさん出てきます」
 昨日の授業で教えたばかりのこの文章を(「~になると」の練習)、家に帰ると早速、実感することに。夜パソコンに向かっていると背中を何かが触れた。指で触られたような明確な感覚だったが、ルカは3メートルほど後ろのソファーに座っている。我々以外誰もいないし、まさか、お化け?と思いきや、ランプ・シェードの中でバサバサと必死にもがく虫らしきものがいた。
 それは巨大なガ!翅(はね)をバタつかせる音で、その大きさが容易に想像できる。でも想像したくない!この種の虫が至って苦手な私は、こんなとき、虫退治ルカ隊長の補佐に回る。
 隊長、まずは居間の電気を消し、ガのいるランプだけを点灯させておくよう指示。アイアイサー!隊長がこのランプをそっと隣のキッチンへ運んでいるすきに、ドアを閉める補佐。よし!今度は、キッチンの隣にあるテラスの電気をつけ、テラスの扉を開けるよう指示が出る。OKデス!こうするとガは光につられ、テラスへ出て行く・・・はずである。
 が、ランプシェードの中で暴れたせいか、暗闇のキッチンでただじっとしている。キャビネットを叩き、刺激しても動かない。となれば仕方がない。あの手を使うしかない。

f0133814_2191038.jpg つまりこれ。我が家の虫取りセットである。使い捨てカップと日本の団扇。このカップを虫の上にそっとかぶせ、カップの下に団扇を素早くスライドさせてテラスまで運ぶのである。「キャッチ・アンド・リリース」、これが我が家の方針なのだ。

 大人しくなった巨大ガを無事テラスに逃がした。やれやれ一安心。


f0133814_2122818.jpg と、その時、「スゴイヨー、コレ!」と隊長の感嘆の声。テラスのガラスドアに付けた「蚊避けmoschiera」にさっきのガが止まっている。その翅の微妙な色使いと繊細な紋様にしばし息を呑む我々。なんという神秘。
 アースカラーの翅には、白くて細い線が走り、その線と線の間に無限の模様が描かれている。ペーズリー型や四角、何重もの色違いの円が見えるが、それらが無秩序に並んでいるのではない。翅の端に向かって一連のリズムを作りながら、その形を置きつつ、最後はまるでフリルのような縞模様で締めくくられているのだ。自然の神秘だけが成せる技。

 その美しさの所以は翅(はね)の粉、鱗粉(りんぷん)にある。ガは翅ばかりでなく全身が鱗粉で覆われ、袋状の鱗粉の中に入っている色素が翅の紋様と色彩を作っているのだそうだ。その鱗粉の隆起やひだが、光の角度によって太陽光線を青,緑,赤,紫に分解するらしい。白く見える部分もただの白色ではなく、様々な角度に隆起した鱗粉が光に乱反射して生じているという。
 そんな微細な世界があの翅の上で繰り広げられていたとは。

 ルカはよく「ガはチョウチョと同じだよ」と言う。他のイタリア人にも言われたことがある。でもチョウはfarfallaでガはfalenaと区別しているし、英語もbutterflymothで使い分けている。ただドイツ語やフランス語では「夜のチョウ」という意味のNachtfalter(独)とpapillon de nuit(仏)という言い方があるらしい。
 西洋人はガをそんなに忌み嫌わないのかもしれない。でもガはガなんですガね・・・。

人気blogランキングに参加中 夏になると虫がたくさん出てきます、よ。


お知らせ:エキサイトブログで現在、画像が表示されない等の問題が発生しているそうです。ブログが読めないときは、どうか気長にお待ちください。スローライフですので。
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by hyblaheraia | 2007-06-13 22:22 | 野鳥・昆虫・動物 | Comments(6)

女子修道院が大学教室

f0133814_6525222.jpg イブラのドゥオーモに向かうゆるい坂道を上がっていくと、ユネスコ世界遺産(UNESCO)に認定されたサン・ジュゼッペ教会(Chiesa di S.Giuseppe)がある。
 3段式のファサードの最上部分には、3つの鐘楼がくり貫かれた壁にぶら下がり、反対側から振り返ると3つの穴を通して向こうの丘が見えるしかけが私は気に入っている。
 この教会に隣接するかつての女子修道院(convento)は、現在、ラグーザ大学の校舎となっている。日本の近代的な大学キャンパスに見慣れている我々日本人には、こういった歴史的建造物が大学教室だと聞いて驚かずにはいられない。世界遺産の法隆寺が大学キャンパスになるようなものだ。なんと大胆な発想!

f0133814_76982.jpg 文学部のラボラトーリオ(Laboratorio)、通称「ラボ」はこの女子修道院を改装した建物の中にある(写真の右側の低い建物)。
 中に入ると右側には学生のためのインターネット・ルームがあり、十台ほどのパソコンの前で学生たちが勉強や調べものなどをしている。大学のパソコンは全て、ブラウン管の分厚いモニターというのが、いかにもラグーザという感じ。その奥には係員の事務所と教員の資料室がある。
 
f0133814_7222711.jpg 修道院の石壁がそのまま残る通路を入っていくと、右手に「ラボA」、さらに進むと「ラボC」(なぜかBはない)、一番奥には「穀物教室 Aula granaio」と呼ばれる教室がある。
 修道院時代にこの一番奥の空間が穀物倉庫として使用されていたことに由来するのだそうだ。去年初めて授業をしたとき、教室の割り当て表を見て、目を見張ってしまった。
 でも、なかなかかわいいではないか。日本の大学ならきっと「ラボD」としらけた名前だっただろうな。
 
f0133814_7253367.jpg どの教室もアーチ型に高く抜ける天井がかつての修道院を彷彿とさせ、天窓から差し込む光が真っ白な漆喰の壁に反射して、のどかで明るい雰囲気に満ちている。
 ラグーザの良いところの一つは、このような歴史的価値ある建造物を、可能な限り本来の姿を残しつつ最大限に利用することだと思う。古いものは美しいという地元の人々の美意識もあるのだろう。
 
 ところでこの女子修道院の改装の際、地下から赤ん坊の遺骨が数体出てきたそうである。修道女たちのスキャンダルを封じるためだったとか、当時、修道院に入るのは貴族の子女が多かったことと関係しているとか、いろいろ憶測がなされている。
 修道院が大学というだけでも何か神妙な気分になるのに、こんな話を聞くとラグーザの歴史の重みと、そこで潰えた想いのようなものを感じてしまう。

 とは言え、歴史が刻まれた建物は味わい深く、人間の温もりが感じられていいものだ。ラグーザ人が廃屋を手間暇かけて修復し、愛情を込めてさらに使い込むのもうなずける。内装にイタリアらしく現代デザインのシンプルなライトを取り付け、白い石壁に映える赤いソファーや彩り豊かなカーペットを敷いたりして、素朴だけどお洒落な空間が生まれるから不思議だ。イブラのレストランや美術館、カフェ、ジェラテリーア(ジェラート屋)、土産物店などはみな、この方法で生まれ変わった。
 我々も将来は郊外で、石造りの古い民家を修復して住むのが夢。庭にレモンとオレンジの木を植え、畑ではハーブと日本の野菜も栽培し、ブーゲンビリアとジャスミンで鮮やかな垣根を作りたい。でもその時には、どうか何も発掘されませんように!

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by hyblaheraia | 2007-06-13 08:28 | 大学・研究 | Comments(2)

こんな日に宗教行列?!

 先週の木曜日、大学の授業から帰ってくると、我が家の教区でちょっとしたざわめきが聞こえた。大勢の人が一斉にしゃべるような、はっきりしない鈍い音である。次第にその音が近付いて来る。

f0133814_6531590.jpg 「たとえ我々が罪深くとも・・・!」 一人のシニョーラの味のあるラグーザ訛りが拡声器を通して教区に響き渡っている。「・・・罪深くとも・・・!」その他大勢の人々も同じ言葉を繰り返す。
 角から現れたのは宗教行列(processione)。長白衣を来た3人に先導され、感謝の言葉を繰り返しながら、長い列が教会への急な坂道をゆっくりと上がっていった。
 参加しているのは老人が大半だが、親に手を引かれる子供や、若者もまずまずいる。全身黒に身を包み、黒いロー・ヒールを履いている年配女性は未亡人である。
 ここラグーザでは、まるで映画の世界のように、黒い服しか着ない未亡人が事実存在する。だが全身黒でもあまり悲壮感が漂って来ないから不思議だ。イタリアのシニョーラらしい、なにか独特の赴きがある気がする。

 それにしてもラグーザは本当に宗教行列が多い。こんな普通の日に突然出会うと、いったい何の祝いなのか皆目検討も付かない。バルコニーからこの行列を眺めていたお向かいさん夫婦に聞いてみると、復活祭から55日目の「聖体節 コルプス・ドミニCorpus Domini」の宗教行列だと教えてくれた。ほー、そういう記念日があったのかと、ルカともども感心する。

 キリスト教における〈肉と血の秘跡〉(信者がキリストの肉と血を象徴するパンとブドウ酒を受けること)は、最後の晩餐の際、イエスがパンとブドウ酒を持ってこう言ったことに由来する。「取って食べなさい。これは私の体である・・・皆、この杯を飲みなさい。これは…私の血…である(マタイ26、26-30)。」
 結婚式や葬式のミサで何度か見たことがあるが、司祭はミサの途中で、キリストの肉であるパンと血であるブドウ酒を拝し、ミサの最後には信者にも聖体としてのパンを与える(聖体拝領)。そのパンに感謝を捧げ、祝福するのがこのコルプス・ドミニなのだそうだ。


f0133814_745562.jpgf0133814_741553.jpg

 宗教行列の途中には、天蓋で丁重に囲まれた司祭がいた。聖体の入った銀壷のようなものを手にしているのだろうか。ヨーロッパでは1200年代から、聖体を持ち歩く聖体行列が行われる伝統があるらしい。

 キリスト教暦は移動祝日やら聖人の祝日やらと、日本人には分かりにくいものだが、小さい時からそれらが日々の生活に溶け込んでいる人々にとっては、1年のリズムを形作る大切な瞬間瞬間となるのだろう。
 私も、あのシニョーラの「たとえ我々が罪深くとも・・・!」を聞いたら、復活祭から約2ヶ月経ったと思うことにしよう。食べ続けの復活祭から、どれほど体重が戻ったかを知るために。

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by hyblaheraia | 2007-06-12 08:46 | 祭り | Comments(0)

シチリア伝統ゼリー -自然の恵みと天上の味-

 隣町、モディカ(Modica)に住む友人Yukiさんから、先日こんな素敵なお菓子をいただいた。

f0133814_22123755.jpgシチリア伝統のゼリーgelo di sicilia)である。
 白はアーモンド、黄色はレモン、薄茶色はヘーゼルナッツ、茶色はチョコレート味の素朴なゼリーたち。その材料は至って単純。水、砂糖、でん粉(アミド、amidoと呼ばれる)に、それぞれの味を決める素材を加え、型に入れて冷やすだけ。奇抜なアイディアも特殊なテクニックも要らない。昔からどの家庭でも作られてきた、素朴な素朴なゼリーである。


f0133814_22362831.jpg しかしこのシチリア・ゼリー、普通のゼリーとはかなり違う。まずスプーンを入れると、ゼリーにしてはもろくて柔らかい感触に気付く。ゼラチンを使うとシャープに切れる断面が、でん粉で固める製法により、もったりとした切れ目を見せている。優しい切れ味をもう一度確かめるように、さらに一口、そしてもう一口。ただしゆっくりと時間をかけて、一さじのゼリーを舌の上で溶かしながらでん粉のとろみを楽しむのだ。そうして口に広がるをレモンの爽やかさと皮のほろ苦さ、アーモンドの白い甘味と砕けた粉のざりざり感、チョコレートとスパイシーなシナモンのコントラストなどを堪能しつつ、考え事にふけったりもする。その最中にレモンやシナモンの粒を見つけては、はっと我に返り、リズミカルに潰して遊んだりもする。
 そうこうしていると、ゼリーにはないはずの濃厚なアタックを受ける。が、それに気付いた時は既に遅し。もう食べ過ぎの域に。そう、これは口溶け軽いはずのゼリーの常識を覆す、食べ応えあるゼリーなのだ。

f0133814_0362659.jpg 冷蔵庫がなかった頃は、型に流して台所の角の冷たい石やタイルの上に置いておいたそうだ。それでも十分固まるのだから、でん粉をかなり入れていたのだろう。よくお菓子の本で見かける3センチほどの浅いゼリー型は、こういう条件で固まるぎりぎりの深さと、一人が食べられる量に合わせて出来たのかもしれない。

 ちなみに我々は、こうして半分にして違う味を楽しむ(右の写真)。それでも全部食べるとかなり満腹だが、イタリアの胃袋を持つ私は、ここにパンナ(生クリーム)があればいいのに、と思ってしまう。


 菓子や料理は、作り方が単純であればあるほど、素材の良さが問われるというものだ。だからシチリアでは新鮮で質の良いまま手に入る地元素材を使うのが当然のこととして定着している。このゼリーに関して言えば、シチリア産のアーモンドとレモン、シチリア菓子に欠かせないシナモン、夏にはスイカやジャスミンなどを使って、その季節の旬の味をそのまま閉じ込めるのである。こうして良質の素材を、至極単純な方法で何も加えず調理すると、この上なく体に優しい、天上の味が生まれるのだ。

 モーツァルトの音楽はしばしば、「天上の音楽」と形容される。その意味は、まさにそれと同じだ。一切の無駄のない必要な音だけが、必要な音たちと、必然的な動きと流れで自然に歌われるのである。《フルートとハープの協奏曲》K.299第2楽章では、まるで天からのそよ風のようにハープの旋律があふれ出し、そこにフルートが戯れる。自然の恵みを閉じ込めたシチリア・ゼリーは、神の業とも称されるその音楽と何か似通っている。
 ラグーザの素朴な味にすっかり慣れてしまった私は、日本のスーパーで売られる大量商品の複雑な味に戸惑うようになってしまった。もしかすると私は「天上人」?!


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by hyblaheraia | 2007-06-11 00:57 | 菓子 | Comments(6)


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


by hyblaheraia

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