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馬車のある生活

 ある昼下がりの午後、1時間に1本しかないバスを逃した我々は、イブラから自宅のある新市街まで数百段もある階段を登りながら帰っていた。

f0133814_1122045.jpg 心臓破りの階段を終え、次に我々を待ち受けるのは新市街の大通り、コルソ・イタリア。その急斜面で息を切らせていると、後方から軽やかな音とともに一台の馬車が迫ってきた。お爺さんと孫らしき2人を乗せたその馬は、輝かしい肉体と鬣(たてがみ)を揺らしながら、斜面を颯爽と駆け上がり、瞬く間に我々の横を走り去っていった。その壮麗さに見惚れ、シャッターを押した時は遥か彼方に。その後も幾度か馬車に遭遇し、近くの路地に響く蹄の音を聞いたことがあるが、いつも快い爽やかさを覚えるのは、風のように走る馬の純粋な気持ちが伝わってくるからだろうか。

 ところで、イタリアでは「馬力cavallo」という単位が未だに健在である。日本では「鉄腕アトム」が100万馬力であることを説明する時くらいしか使わないこの単位、実は車のエンジン・パワーを言い表すのに日常的に使われているのである。テレビ・コマーシャルを見ていると、各社ともモダンなスタイルの車を「このコンパクトさで**馬力!」と謳っているから何だかおかしい。

 ちなみに、若者に人気のトヨタ・イヤリスYarisは140馬力だそうだ。あの馬140頭分・・・さぞかし速いだろう。

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by hyblaheraia | 2007-04-11 01:40 | 野鳥・昆虫・動物 | Comments(10)

政治と穏やかな生活

 ラグーザに帰ってくると、以前は駅前広場に揺れる椰子の木々が我々を迎えた。天に向かって一直線に延びた幹、太陽光を反射させる艶やかな葉の緑、たわわに実るナツメヤシ、それをついばむ野鳥の声。ああシチリアに帰ってきた、といつも思わせたあの強烈な印象を忘れることはない。

f0133814_5583882.jpg 最近、ラグーザの新市街では自然を破壊する目に余る公共工事が行われている。
 裁判所付近の一般居住地の真下に掘られた深さ10メートル以上に及ぶ穴、国鉄ラグーザ駅前広場のロータリーに突如現れた巨大隕石落下のような穴、そしてサン・ジョヴァンニ広場(カッテドラーレ広場)の無残な瓦礫の山。これ以外に、中央郵便局の下に地下駐車場を建設する動きもある。
 公共の福祉に適った、意味のある工事ならいい。だが駅前にあった長距離バス・ターミナルは町外れに移動し利便性が完全に失われ、工事現場に隣接する公立病院は、病人を搬送する救急車が大きく迂回しなければ到着できない事態に陥っている。サン・ジョヴァンニ広場も、便利な通り抜け道路を潰して無駄に拡張しているに過ぎない。クレーン車がおもちゃのミニカーに見えるほど土地をえぐり、地盤が緩んで家々が倒壊する危険はどうなるのか。
 多くの市民がこの状況に不満を抱いている。巨額の資金を費やし、正常に機能していたものを破壊してまで作り直すのはなぜか。町の景観を壊し、安全で快適だった場所に、不便さと危険のリスクを負って大工事をする必要はどこにあるのかと。そしてこれが新市長の誕生と無関係ではないことを市民は良く理解している。

f0133814_1619624.jpg 前回の市長選挙で、中道左派連合、左翼民主党のポイドマーニ氏は、僅かの票差で中道右派、フォルツァ・イタリア党のディ・パスクァーレ氏に敗れた。その原因は無所属のアレッツォ氏が獲得した3000票にあったという見方がある。彼がいなければ票が割れずに左派のポイドマーニ氏が勝利し、工事業者との癒着が見える今のラグーザはなかっただろうと。だが本当の問題はそこではない。アレッツォ氏が3000人の期待を裏切り、気まぐれで政治活動を辞めたことに人々は一層失望しているのである。

 やはり政治に巨大事業ときまぐれは付き物なのだろうか。昨日の都知事に再当選した石原氏は2016年のオリンピック招致について3兆円の経済効果を謳い、自らの30代を振り返りながら「嫌なことばかりある東京で、若い人たちに一緒に大きな夢を見ようじゃないか、と提案した」のだそうだ。が、一個人の古き良き思い出以外に、巨額の費用を使う具体的な理由はないのか。呼びかけは有難いが、我々はもはやオリンピックで夢見る世代ではない。

f0133814_5594685.jpg 一連の工事の中、サン・ジョヴァンニ広場で戦時中の防空壕が発見された。ラグーザの歴史の知られざる一ページを語る重要な記録が得られたことは不幸中の幸いであったとも言えよう。しかし地元テレビで防空壕の説明をするアレッツォ氏を、彼に一票を投じた市民はどのような思いで見たのだろうか。
 環境保全は政治の重大な使命の一つである。政治の思惑や政治家のきまぐれによってラグーザの豊かな自然と穏やかな生活が破壊されることのないよう、祈るばかりである。


写真上:サン・ジョヴァンニ広場の工事
写真中:同広場 完成予定図
写真下:同広場で発見された防空壕

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by hyblaheraia | 2007-04-09 06:54 | 政治・社会 | Comments(4)

日時計が示すもの

 新市街のサン・ジョヴァンニ教会(カッテドラーレ)のファサードには2つの日時計がある。左はイタリア式で、右がフランス式。
f0133814_0551964.jpg イタリア式は前日の日没からの経過時間を示し、フランス式は深夜12時からのそれを示す。後者は我々が普段使う時計と同じ数え方だが、イタリア式を理解するにはちょっとコツが要る。


f0133814_103539100.jpg まず現在のラグーザの日没が午後7時半頃ということを念頭に置く。今、13の線上の針から影が16と17の間に伸びているので、前日の日没から16時間少々経過したことになる。言い換えれば一日24時間のうち、日没まであと8時間残っているという意味にもなる。だからこの8時間という時間をどう使うかを考えればいい。
 また12の線辺りから右下に走る赤い斜線は、春分と秋分を意味している。日時計の影が赤線に触れる3月21日あるいは9月23日頃は、昼夜の長さがほぼ等しくなるので、影が赤線より上にあれば季節はまだ冬であり、太陽が空高く昇る夏は赤線を切り込む長い影が落ちるというわけである。
 時計で季節を感じるとは、なんと豊かな感覚だろうか。


 つまりこの日時計は「現在時刻」ではなく、「残された日照時間」を知り、「季節の移り変わり」を感じるためにある。
 これが設置された1751年と言えばJ.S.バッハ没年の翌年。当時はもちろん電気などなく、日没後にできることも限られていたに違いない。だがこうして、一日の時間、一年の四季を量的に捉え、その中で自分がどこにいるかを見出すという我々にはない感覚がここにはある。

f0133814_10283785.jpg ところで日没時間は緯度によって違うため、縦に長いイタリアでは北と南の都市で30分ほどの時差があった。太陽の動きとともに各地の生活リズムが作られ、ラグーザとローマが同じ時間である必要はなかったからである。
 しかしイタリア統一後、1885年に国際子午線会議で標準時間が導入され、一つの国家が一つの時計の元に動くことになり、一人一人の生活と太陽との関係など考える余地すらなくなっていった。
 我々が考える時間は、「太陽」ではなく「時計」が作る時間となり、昼夜逆転型の生活もありになった。

 
 それでもこの日時計を愛する人々がラグーザにはまだいる。あの日、「これはとても正確なんだ」と言っていた老人は、太陽と影と変わりゆく季節を感じながら、心豊かな一日を過ごしているのだろう。
 時間の感じ方は人や時代によって違う。このところ日時計を見るたびにそう思う。


 注意:日時計は午前11時と読むのに実際の時計が正午12時過ぎなのは、サマータイム施行により1時間繰り上げられているため。

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by hyblaheraia | 2007-04-07 14:21 | 生活 | Comments(6)

ラグーザの復活祭料理

f0133814_727323.jpg 今日は復活祭 Pasquaの聖週間 settimana santaの初日、ミサの参加者が教会で祝福を受けたオリーブの枝を授かる「枝の主日Domenica delle palme」である。この習慣は、イエスのエルサレム入場の際に民衆がシュロやオリーブの葉を手に行列を作って歓迎したことに由来するそうだ。
 確かに道行く人々はオリーブの小枝を手にし、あちらこちらに屋台が出てストロー編みのような飾り物が売られている。教会の入り口には大きなヤシの葉が飾られ、広場には風船売りまでいる。日本で正月飾りや門松が売られる時の雰囲気を一瞬思い出した。



f0133814_736352.jpg 今日から始まる聖週間はイタリア中が休みになり、出稼ぎや留学、単身赴任で故郷を離れた人々も一斉に家族の元に帰ってくる。
 久しぶりに家族一同が集い、大勢の親戚や古い友人に囲まれながら地元料理とシチリアワインに舌を打つ。こういう光景が、この時期至る所で繰り広げられることになる。


f0133814_7425665.jpg その食卓の主役、復活祭のラグーザ料理といえば「子羊肉のパイ 'mpanata d'agneddu」である。 イタリア語では「impanata d'agnello」。子羊肉を一口大に切り、オリーブオイル、にんにく、相当量のイタリアンパセリ、塩で下味をつけ、練りパイ生地で包んで焼いたもの。一見素朴に見えるが、パイを切ったときに滴る肉の旨みを指で少々舐めるだけで特別な日の一品であることが分かる。羊の肉のクセはイタリアンパセリの芳香で相殺され、まずほんのりとした甘みが溢れ出てくるのを感じる。パイの切れ目から落ちてくる肉を次々に口へ運ぶと、さらに油のとろみが充満してくる。そして皿にこぼれた豊潤な味をパイで吸い取り、最後の汁まで楽しむ。そこへシチリアワイン、ネーロ・ダーヴォラを一口含み、一切の迷いを打ち消すようなその説得力で全ての味を消化。新たなパイを口に、以上のことを繰り返す。

 このパイは一人で半分も食べれば相当満腹になる。だから敢えて肉だけを食べ、パイは皿の横に山積みにして残す人もいる。翌日、ジューシーなパイだけを具なしで楽しむのだそうだ。そしてこれ以上はもう無理という時、ラグーザ弁で「アッルヴァーイarruvai」、あるいは「アッパンザーイappanzai」と言う。「もうお腹一杯」の意味だ。思わず手を上げて降参したくなるので、「あ、バンザーイ」でも通じるかもしれない。

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by hyblaheraia | 2007-04-02 08:46 | 料理 | Comments(2)


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


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