悲しき飛翔

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 空を縦横無尽に飛び交うアマツバメRondone
 カマ型の大きな翼を広げて天高く飛び、浮遊する虫を捕食し、空中で交尾を行い、飛びながら睡眠も取ると言われている。他の鳥のように地上に降り立つことはない。

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 春から夏にラグーザでは、夕方にになるとクロウタドリMerloの無邪気な歌を掻き消すほどの大群で現れ、耳に悲しい鳴き声をこだませる。
 空を見上げていると急降下してきて疾風のように目の前を横切り、そのまま路地を一気に抜け、再び空へと上昇する。なんて速い。

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 羽を休めることなく、絶え間なく上昇下降を繰り返し、時折、テッラコッタの瓦の隙間に長い両翼をばたつかせながら入っていく。

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 なぜなら、そこには巣があるからだ。猛スピードのまま空から降下する黒い影は、軒下に入る瞬間に鈍い音を立たせ、もがいている。悲しき飛翔。

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 しかしその直後に雛たちの声が聴こえてくる。軒下という守られた空間での給餌と束の間の安らぎを得て、潔く空へ帰っていく親鳥の飛翔には、スピードの衰えは微塵も感じられない。

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 5月になると巣から転落した仮死状態の雛を度々見かけることになる。雛同士でも巣の中で生き残り争いが行われていると聞く。

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 しかし巣から落ちた雛を、親鳥は巣に戻すことはない。厳しい野鳥の世界に人間ができることは、何もしないということだ。

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 向い宅の軒下から出てきた一羽のアマツバメの動きを追う。
 何度も旋回しながら、その輪は徐々に小さくなり、手を伸ばせば届くほどの距離まで接近した。あれは威嚇だったのかもしれない。
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 ああ、この優美な羽を広げ空を飛ぶだけなら、アマツバメの飛翔に違う音楽を感じただろう。

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 ルイージ・ロッシ(Luigi Rossi, c.1597-1653)作とされるカンタータ、《愛する人Mio ben
 レ・ド・シ・ラと幾度も繰り返されるバスに乗って、愛する人を失った悲しみが吐露され、17世紀イタリア・カンタータ特有の憂いを帯びた旋律が静かに紡がれていく。
 バロック時代の声楽曲では、激しい悲嘆を表現する際にこのような4度下降するバッソ・オスティナート(basso ostinato, 固執低音)がしばしば用いられた。

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 アマツバメの飛翔を見ていると、カンタータに聴く徹底的な自己犠牲と悲嘆陶酔を感じずにはいられない。ただ嘆くことで救われるというカンタータの精神があれば、体と羽を痛めて雛を守り育てる野生の宿命がある。
 バッソ・オスティナートの繰り返しを聴きながら、空と軒下の間を旋回し往復する彼らの飛翔を、今日も切ない気持で眺めている。

 ルイージ・ロッシのカンタータを聴きながら、アマツバメの飛翔を見つめ、
 ちょっと切ない気分に浸ってみてください。


 追伸:巣から落ちたツバメの雛を見つけたら?
 イタリア鳥類保護協会LIPUのサイトに基づく去年の記事に説明があります。パンとミルクはダメです!ミンチをあげてください!


ああ切ない・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-04-04 10:04 | 音の絵:写真と音楽のコラボ | Comments(2)
Commented by 薬作り職人 at 2008-04-05 00:41 x
鳥たちは何を考えて飛んでいるのか。
無心なのか、親を,子を思う心で飛んでいるのか。
いずれにしても、ただぼーっと歩いている人間よりは、生きてると言う緊張感を感じます。やはり、生きるか死ぬかの境界を、常に身の回りにまとっているからでしょうね。
Commented by hyblaheraia at 2008-04-05 08:31
>薬作り職人さん、アマツバメにはいつも何か必死なものを感じます。バサバサッと鈍い音を立てて羽を痛めながら巣に潜り込んでいく様子を見ると、なおさら胸が詰まります。何かに憑かれてそうしているようにも見えますが、子を守るひたむきな愛情も感じられ、熱い気持ちになります。
あんなに空を飛んで、体を張った子育てをしていたら、雛が飛び立つ頃には力尽きて死んでしまうのではないかと思います。とにかく壮絶で、物悲しい生き方です。薬作り職人さんにアマツバメの悲しさが伝わって嬉しいです。
クロウタドリはカルデッリーノは、大騒ぎの子育てを見せてくれて毎年微笑ましく観察しています。もうすぐその季節なので、毎日テラスでソワソワしています。右メニューのカテゴリから「野鳥・昆虫・動物」をクリックすると、いろいろな写真が出てきますのでよろしければ。
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