古代エジプトの生活道具

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 時間に追われて急ぎ足で展示品を見ていたとき、意識の中にすっと入ってきた絵。
 黒いパレオを腰に巻いたセミヌードの踊り子が、体をしなやかに反らしている。豊かな黒髪は地面に垂れ、耳には大きな金のイヤリングが光る。じっと見ていると笛の音と太鼓のリズムが聴こえてきそうな臨場感に満ちた瞬間。妖艶な踊りは何に捧げられたのだろう。

f0133814_21115334.jpgf0133814_21121465.jpg 当時はパピルスが高価だったため、陶器や石灰石の破片で代用し、契約書、領収書、手紙、物語、絵などを書いたのだそうだ。
 それらはostrakaと呼ばれ、例えばこれは書類。
左:牛の売買証明書 「牧夫TjaoはAmenemipetからベッド1、上質のショール1、シーツ1、チュニック1の45デーベン相当を牛との交換で買った」(紀元前1186-1070)
右:4つの断片から成る手紙 宛先人は「神の父」で「儀式官」であるAmenhotepと書かれているらしい。(紀元前1183-1152年頃)

 やはり文字を書くということは、何かを伝え、記録を残すために行われるのだ。それを読み解きながら、新たな考察と発見に身を置くのは考古学も音楽学も同じだなと、ぼんやり考えていた。
 もしこの欠片に文字がなかったら・・・。17世紀の五線譜があってもそこに音符が記されていなかったら・・・。何らかのメッセージが刻まれているからこそ、それは、その時代を生きた一人の人間の証としての深い意味を持つわけで・・・。
 書く、記す、という行為はなんと尊いのだろう。

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 古代エジプト人の筆記具はこういうものだった。まるで硯と墨、毛筆のような雰囲気。石を刻むより、顔料を溶かして筆記する方がはるかに簡単だっただろう。作業が容易になれば、書く意欲も機会も増し、それに伴い文字も発達するのではないだろうか。ほんの少しの発案で、果てしない世界が広がるのだな、きっと。

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 こちらは彫刻刀。陶器に模様を刻むのに使ったのだろう。表面に書かれた文字は、切れすぎるから要注意!だったりして。
 小学時代に使った「ロダン彫刻刀」というのを思い出して懐かしくなった(指を切った思い出も)。

f0133814_2123836.jpg うわ!見た瞬間ちょっと鳥肌が。
 この鬘は本物の髪で作られていて、冒頭のダンサーと同じ髪型。近付いてみると、太くて硬質の、波打つ毛で、生命力の強さをひしひしと感じた。

 その横には埋葬品のトイレ用衛生用品。小瓶には塗り薬が入れられている。当時、薬は大変貴重だったので、直射日光やハエから守るためにアラバスターや陶器に入れたのだそう。化粧箱に見えたけれど、意外なものでびっくり!

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 そしてやっと出会えた楽器!に穴を開けた笛で、太さも長さも多種ある。吹口は上部なので縦笛だろう。どんな音がするのか、特に箸ほどの細さの笛が気になる。展示品の多さの割には楽器がこれだけというのが残念だったけれど。

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 そしてなんと、古代エジプト時代のパン!虫食いの穴が無数にあるが、3500年以上前のパンがカビずに残っているとは信じ難い。まさにパンのミイラ
 左下はパンかご。今でも使えそうなほどきれい。右下は当時の穀類、他にニンニクもあった。お墓は臭くなかったのかな(ニンニクちょっと苦手・・・)。

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 さらに靴まで。アンクル・ブーツのようなものはとても小さく、皮で模様が施され、つま先が上向きになっていた。女性用だろうか。野菜の繊維で美しく編まれたサンダルは女の子の墓から出土したそう。夭折した子供への想いは、時を越えて我々にも伝わってくるよう。

 こうして2時間、膨大な展示品を見て、感じたことはまだ整理できていないけれど、いろいろなものが心に残り、新たな風を受けてきた。知らない世界を知るのって素敵だな。

 トリーノ・レポートはこれで終わり。さて、次に向かったのは・・・。

パンのミイラ・・・!。
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by hyblaheraia | 2008-03-21 02:14 | イタリア他の町 | Comments(8)
Commented by sicilia_trapani at 2008-03-21 02:36
こんにちわ。トリノにエジプト博物館なんてあるのですね!3回も行っているのに、知りませんでした、、、(汗)
古い道具好きな私としては、↑の写真の数々、興味深く拝見させていただきました。こんな生活が紀元前から営まれていたのか、、、と思うと、文明の偉大さに頭が下がるばかり。

トリノに再び行く機会があったら、是非、エジプト博物館に行きます。
Commented by hyblaheraia at 2008-03-21 09:26
>sicilia_trapaniさん、古い道具って見ていると心が温まりますよね。全然時代は違うのに、どこか懐かしいような感覚が生まれて。気になるものを次々と写真に収めたので、すごい量になりました!厳選するのが大変で、さらに500kb以内にするのがまた一苦労でした。写真が小さくてすみません。
ナポレオンの時代にピエモンテ出身の軍曹がエジプトでフランス総督を務めていて、その時に集めたものが大半だそうです。本当に素晴らしいので、次回はぜひ行ってみてください。
Commented by taormina at 2008-03-21 12:51 x
こんにちわ。パンのミイラをシラクーサのカタコンベに、そっと置いてみたいですね。なんか合いそう?
Commented by hyblaheraia at 2008-03-21 17:55
>taorminaさん、うわぁ・・・!合いそうだけれど、となるとガイコツがパンのミイラをガチガチいいながら食べるわけですね。キョーーーー!
Commented by P405 at 2008-03-21 23:29 x
久しぶりにBlogを拝見したらびっくり!私もつい一週間前にトリノを通って、この美術館に立ち寄ったんですよー!
エジプト美術館、良かったですよね。たくさんの像のギャラリーは圧巻でした。随分状態が良かったけど、あれは修復された物だったのかしら?他にも細々とした収蔵品も多く、やっぱり生きている間に一度はエジプトを訪れてみたい・・・と改めて思いました。
Commented by hyblaheraia at 2008-03-22 04:45
>P405さん、ええ!そうだったんですか?!何という偶然。ちなみに私たちは14日のお昼頃に見ていました。お会いしていたら面白かったでしょうね。
あの神々の像の間は、ハリウッドの映画ディレクターが監修していて、壁を鏡にすることで像の背後に回り込まなくても見えるようにしたそうです。ライティングや、縦に細長い空間の使い方も見事でした。あの中で、Hathorという女神の像がとても美しく、恋に落ちそうになりました。
エジプト、中国、トルコ、ギリシャには生きている間に行ってみたいです。
Commented by maco at 2008-03-23 00:09 x
一番上の写真、パレオをまいた女性がブリッジしている絵。
なんだかとっても好きな絵です。
トリノにエジプト美術館って全く知りませんでした。
こういうものを見ると、昔の人って現代のような機械や道具がないのに
すごいなーと感心します。
こうやってブログなどで紹介して頂くと、自分も行った気分!
いつかトリノに行けたら、是非行ってみたいなぁ。
Commented by hyblaheraia at 2008-03-23 05:58
>macoさん、この絵は不思議な魅力を持っていました。どうしても紹介したくて載せました。気に入っていただけて嬉しいです。
大きな美術館や博物館に行くといつも思うのですが、膨大な展示の中から、自分の波長とふっと合うようなものとの出会いってあるんですね。
macoさんのおっしゃる通り、昔の人々の生活には知恵がみなぎっていて脱帽です。どうして何でもできちゃったんでしょうね。ラグーザにもとてもいい考古学博物館があるんですよ。ほとんど誰もいなくて、ゆっくり見られます。お勧めスポットです。
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