早朝のサン・ジョルジョ広場で

 やってしまった。朝6時半に起き、8時半のバスでイブラに向かったと言うのに、今日は授業の日ではなかった。明日だった。手帳に書き違えてしまっていたのだ。
 大学の係員に気の毒そうに見られながら、せっかく早起きしたのでイブラの散歩でもしてきます、と笑顔で出てきた。こんな日があっても良いではないか。即興のメロディーを頭で歌いながらドゥオーモ広場へと向かう。今日はどんなドゥオーモが見られるだろうか。

f0133814_6121353.jpg ああ、こういう表情もあるのか。
 ヴェールのようにそよぐ筋雲の向こうに青空が透け、薄オレンジ色の母体が優美に浮かび上がっている。柔らかな朝陽を浴びて、いつになく優しい色合いを感じる。
 今日もこの間も、きっと今度もずっとこのまま美しいサン・ジョルジョ教会(Chiesa di S. Giorgio)。イブラに来るたび、その姿を見るのが楽しみなのだ。

 坂の上に建つこの教会、ファサードとクーポラは敢えて斜めに配置されている。坂の下から登って来たときに二つの建築物が見えるように意図されたからだ。さらに坂の上にあることで実際よりも雄大に見える。そういうドラマティックな演出は、やはりバロックの精神の現れ。ちなみにクーポラの高さは43メートル

f0133814_6124632.jpg これは真正面から見たサン・ジョルジョ教会。
 教会前のバール近くにゴミ箱が置いてある。その辺りに立つと、こうしてドゥオーモが覆い被さりそうな迫力で目の前にそびえ立つ。
 物議を醸したあのピエトラ・ペーチェ(pietra peceこの地域特有の黒い石)の修復も、なかなか上手くいったのではないか。最初はあまりに黒くて見るのが怖かったが、少しずつ馴染んできている。でも、色落ちが早すぎる気もするが。
 もしかすると今が一番いい時期かもしれない。フェンスのグレーとファサードの黒い部分はほぼ同じ色合いだ。

f0133814_6141647.jpgf0133814_6132169.jpg
 このフェンスは本当に美しい。鉄であることを感じさせない繊細さと軽やかなリズムがある。こうしてフェンス越しに見るドゥオーモもまた美しい。透かして見るものは、どうして直接見る時よりもはっとさせられるのだろう。
 そんなことを考えながら、17世紀の手書き楽譜の透かし調査をしていた頃を思い出していた。紙の製造地と製造年代からカンタータの作曲年代を推定しようと、数え切れないほどの楽譜と透かしを調査した。手紙と歌詞の筆跡比較もしたし、あらゆる方法を試みた。そうして12年も打ち込んだ研究なのだから、もう一度見直して自分の糧にしてみたい、と最近は考える。
 今までやってきたことが思い出され、その発想が何かにつながったとき、頑張っていることは何でも無駄にならない、といつも思う。あるピアニストも言っていた。努力は裏切らない、と。
 今日も天を仰ぐサン・ジョルジョ。一緒に仰いでみた。きっと、そんなことを教えてくれたのかもしれない。

f0133814_615275.jpg 振り向くと周りはこの通り。誰もいない。
 まだ9時前。薄い朝靄の中でゆっくり一人でドゥオーモと対話する時間。このバロック的な大舞台が私一人のものに。こんなのことは初めてだ。
 意外と皆さん朝が遅いのデスネ。なーんて偉そうに。

f0133814_617857.jpg ドゥオーモに入ろうと横の階段を登りながら見上げていると、こんなものに気がついた。
 いや、前から知っていたこのアングルだが、今日はいつもと全く違って見える。実にきっちりと四角が連続している。正面から見る湾曲と丸みをすっかり忘れさせるほどの角ばり。鏡の中に永遠に連続する鏡にように、ただただ四角の連鎖が天に向かって伸びている。

f0133814_6183013.jpg 少し下がってみると、天を突くようなフェンスの棘の連続。
 ほんの少しの角度の違いで、こうも印象が変わるとは。また新たなドゥオーモの楽しみが増えてしまった。
 ちょこちょこ立ち位置を変えては好きなポジションを探し、ここに決定。槍の先の硬さと風にそよぐ雲の柔らかさ、空の水色と教会の薄黄色、渦巻きのオブジェと四角い切り込み、こうした有機的なコントラストがこの教会の奥深い魅力を作っているのだろう。

f0133814_6193112.jpg ドゥオーモは朝早すぎて入れなかったので、ベンチに座ってその姿を見上げ、広場を見つめ、これからの生き方を何となく考えたり。
 
 イブラの懐に深く包まれ、サン・ジョルジョ教会から忘れかけていた大事なことを教えられた今朝。私の授業はなかったけれど、聖人の授業の日だったのかな。

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by hyblaheraia | 2007-10-27 09:06 | 生活 | Comments(7)
Commented by grappa-tei at 2007-10-27 11:24
授業はなくてもいい自習が出来ましたね。違ったアングルで撮ったドゥオーモ、確かに不思議な光景だ。
Commented by modicana at 2007-10-28 01:06 x
素敵な時間を過ごせたのも、hyblaheraiaさんがそういう気持ちを持ってたからですね。私なら・・・「アーもっと眠れたのに・・・」とか、「早く帰って洗濯物干そう!」とか、思ってしまいそう・・・だめだめ、すっかり、日常の雑事にまぎれてしまってる・・・反省です。もっと心も、目も開いて、いいことさがし に励みます。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-28 06:35
>grappa-teiさん、そうですね、いろいろ考えることができた良い朝でした。家ではつい他のことに気をとられ、ゆっくり考えるべきことも忘れてしまいがちですが、こういう開放された空間にいると、なぜか考えもまとまるものなんですね。
カクカクのドゥオーモ、かなり気に入っています。この目線で近所の教会を見たら、同じようにカクっていました。しばらくはまりそうです。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-28 06:44
>modicanaさん、いえいえ、ただぼーっとしていただけですよ。何もせずにいることは得意なので。もちろん授業がないと分かった時点で、ああもっと寝ていられたのに!、と思いましたよ。朝はめっぽう弱いので。
ラグーザに来てからデジカメはいつも持ち歩いているし、散歩が好きなので、ぶらぶら歩いて写真を撮っているうちにいろいろと発見があって楽しかったです。今度は一緒にお散歩しましょう!寒くなる前にね。
Commented at 2007-10-29 19:11
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by fumieve at 2007-10-29 19:43
最初の写真を見て、Cefalu`を思い出しました。全然違う教会なのに、ヤシの木効果でしょうか。ヤシの木は北イタリアから行くと、異国情緒を味あわせてくれる筆頭アイテムです。あとはもちろん、レモンとかサボテンとかあるわけですが・・・ヤシは、空港についたときとか、あとこういう風にドォーモの脇とかにあったりするんですよね。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-30 07:59
>fumieveさん、ヤシの木はシチリアになくてはならないものですね。最初来た頃は、ヤシの木のお陰で冬でも寒くないような錯覚に陥りました。あくまでも錯覚ですけれど。ここは山なのでやっぱり寒いです。隣町モディカはずっと低いところにあって、ラグーザから戻ると暖かく感じるとモディカの友人がよく言っています。
ヴェネツィアはもうコートとブーツでしょうね。冬のヴェネツィアは大好きです。
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