心を癒す

 1時間に1本しかない旧市街イブラへ降りるバス。いつもより早めに家を出たため、あと20分は待たねばならない。天気も良いし、のんびり歩いてイブラに降りることにした。

f0133814_22434292.jpg 10分ほど坂を下ると、いつものイブラの絶景ポストに辿り着く。
 一気に広がる視界に悦びの溜息、谷の深さに身も心も吸い込まれ、鳥になって飛んでいるような心地になる。
 もうすぐここに来て4年になるが、何度見てもこの感動は変わらない。周りの丘は、最近の雨で少しずつ緑が濃くなってきた。青空に浮かぶこんな丸々と太った雲も夏にはなかった。確実に秋が深まっている。

f0133814_22445767.jpgf0133814_22452173.jpgf0133814_22454729.jpg
 イブラへの道は、急な坂道と階段の連続。天気が良ければ歩いて下る人もちらほら。
 こんな景色を眺めながらの通勤なんて、この上ない幸せだ。地元の人は車に頼り過ぎだといつも思う。生粋のラグーザ人である友人は、イブラに歩いて降りたことは一度もないと言っていた。もったいない。

f0133814_2256233.jpg イブラの入り口、プルガトーリオ教会付近に到着すると、驚いたことに信号が。
 イブラには信号など一つもないし、新市街にも数えるほどしかない。どうしたのだ、ラグーザよ。
f0133814_22563395.jpg そんな悪い胸騒ぎも束の間、何ということはない。工事のため、臨時に設置されたものだった。細い道路に工事の足場が張り出しているため、こうして時間差で一方通行にしているのだ。


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 反対側にもこのように信号が。電気コードとキャスター付きというところがかわいらしい。工事が終わったらコロコロ転がされて、取り外されるのだろう。お疲れ様と言ってあげたくなるな。

 ところで、世界初の交通信号は1868年にイギリスのウェストミンスターに設置された赤と緑の2灯式のものだそうだ。その後、1918年にニューヨークで手動式3色式が用いられ、次第に世界に広まっていく。現在では、交差点を単独に制御する単独制御、複数の交差点を同時に制御する系統式制御、面的に広がる街路網を同時に統括する面式制御、の3つの方式があるとのこと。町の構造の複雑化と交通手段の増加に従って、円滑な交通を図るために信号は不可欠な存在となっていったのだ。

f0133814_2346651.jpg しかし世界初の信号機誕生から約140年も経った現在でさえ、イブラには信号がない。いや、必要がないとも言えるかもしれない。そしてそれは素晴らしいことだ。
 信号に頼らずとも譲り合って運転できる心のゆとりが人々にはある。中世の渦巻型の町並みは、道が狭く坂とカーヴの連続で運転は決して容易ではない。それにも関わらず、交通パニックに陥ることなどほとんどないのだ。さらに中世とバロックの息吹が溶け込んだこの美観が、現代の利器によって無造作に壊されることもないのである。
 高度に発達した大都市にはない、人間の本性に頼る生活。それこそイブラが誇るべき美しき魂の現れの一つだろう。

 などと考えながら、谷底の畑で育つ冬のブロッコリーやたわわに実るオリーヴを眺め、たどってきた谷と丘を振り返りつつ、ああ、こんなに歩いてきた、と得も言われぬ充実感に満ちていた。肌で季節を感じ、心が開放されている自分に気が付いた。


f0133814_2352288.jpgf0133814_23525524.jpg
 利便性を追求して生まれた信号と車。たまには現代生活のリズムから離れて、自分の足と心で町を歩いてみるのもいいものだ。名も知れぬ木の種が、秋空高く舞っていくのを眺めながら、そんな生活が人の心をいかに豊かに癒すのか、身体で実感したある朝の通勤だった。

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by hyblaheraia | 2007-10-26 00:09 | 生活 | Comments(12)
Commented by taormina at 2007-10-26 07:11 x
イブラいいですね、深夜に歩いたことがあったのですが、街灯で影ができて小道がその暗闇の中にある。まさにhyblaheraiaのおっしゃるとおりおとぎの国か、迷宮かって感じでした。ドゥオモに向かって歩いているはずなのになかなかたどり着けず困りました。(笑)おかしの研究はこの地方のものですか?私はナポリのババやガイオディン(正しい発音がわかりません)チョコラートも好きです。
Commented by けえこ at 2007-10-26 17:58 x
S.Maria delle scale なんていい眺め!
(この景色を見たらコメントせずにはいられません)

ほー・・・ 冬を前に緑が濃くなるのですか。雲も丸々!
四季があって日本とも似ているのかなと思っていましたが、これが地中海性気候なのですね。こちらは秋、空気が澄んで雲も高く薄くなり、木々の葉も乾いたグリーンから次第に黄や赤をまといつつありますよ。

そうだナポリといえば、さくさくパイ生地の焼菓子で、縁が切りっ放しになっていて、ぱらぱらとめくる本のペイジのようになっているお菓子。とっても美味しかったのですが、あれ、、何ていう名前でしたっけ。先生?
Commented by 森田学 at 2007-10-26 20:15 x
イブラほどではありませんが私の階段と坂の街ジェノヴァに住んでいたので階段を下っての散歩を兼ねて目的地まで歩いていたのを思いだしました。そういえは、あのことはもっと自然や季節に敏感で、時間や音の感覚も繊細だったような・・・。息子を連れて一度、遊びに行かねば!そのときはお勧めスポット教えてくださいね。
Commented by ナポリに住んでいた人 at 2007-10-26 20:42 x
さくさくパイ生地の焼菓子で、縁が切りっ放しになっていて、ぱらぱらとめくる本のペイジのようになっているお菓子。
Sfogliatella (スフォッヤテッラ)かな。。。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-27 02:04
>taorminaさん、夜のイブラはまた別世界になりますね、確かに。あのオレンジ色の街灯が懐かしいような安心感をもたらせてくれて、過去に戻っていくような、不思議な感覚になります。そしてどこを歩いても、突然ドゥオーモがボーンと現れて、あれなんでここに?と笑っちゃったり。時間と空間の迷路に身を預け、ぐるぐる迷わされるのもまた楽しいんですよね。
お菓子は主に地元のものを紹介していますが、我々の生活にお菓子は不可欠なので、創作ものなども取り上げてみたいと思っています。ナポリのババはラグーザにもありますが、やっぱりラムの味が本場とは違いますね。チョコレートはゲイ・オーディンですね。ナポリではそう呼んでいました。あのコーヒー粒の入ったチョコ、大好きです!
Commented by hyblaheraia at 2007-10-27 02:15
>けえこさん、本当にいつ見ても素晴らしい眺めです。ここの夏はからからに乾燥するので草類はほとんど焼けてしまいますが、涼しさと雨が戻る秋から緑がうわーっと丘を覆い始めます。我が家の前の石畳の隙間にも、ちびちびと草が出ていました。でも紅葉はしないんですよ。ここの木は松やイナゴマメだからかな。トスカーナでも黄色は見たけれど赤くはなっていなかった気がします。オレンジは赤くなるのにね。
スフォイヤテッラね!ラグーザにもありますが、お菓子屋さんのおばさんが、ウ・スフォイヤティッドゥ・ナポリターヌと言っていました。ルカともども大喜びで真似しています!ラグーザ弁大好き!
Commented by hyblaheraia at 2007-10-27 02:27
>森田学さん、ジェノヴァも階段と坂の町なんですね。でも階段と高低さがあるところは、平坦な道よりお散歩が楽しくなるのはどうしてでしょうね。忙しいとついつい、移動時間にも次の仕事を考えて頭が一杯になってしまいますが、スズメのチョンチョンした歩き方を愛でたり、あるお宅の植木や花、お店の古い看板などに目を向けて、思考を中断させるのも良いですね。根津にはそういう要素がたくさんあり、12年間とても心を癒されました。
ラグーザの素晴らしさを一人でも多くの人と分かち合いたいです。ぜひご家族で来てください!スニーカーを忘れずにね。ジョヴァンニおじいさんと一緒に、ディープな案内しちゃいますよ。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-27 02:33
>ナポリに住んでいた人さん、今はどちらにお住まいですかねー。
ナポリのババとスフォッヤテッラはシチリアにもあるし、シチリアのカンノーリとカッサータはナポリにもありますね。やはり両シチリア王国の名残でしょうか。でも美味しいピッツァだけは、ナポリ王国に行かないとだめなのでしょうね、いつもおっしゃる通り・・・。
Commented by けえこ at 2007-10-27 13:18 x
ウ スフォイヤティッドゥ~ というのですか!ありがとうございます。
港で買い込んで、ナポリからパレルモに渡る夜行フェリーで食べたのが忘れられずにいました。次はラグーザで食べます!
お二人ならずとも、ナポリとシチリアは意外やご縁があるのですね。いかにも、いかにも・・・
Commented by hyblaheraia at 2007-10-28 06:58
>けえこさん、だめですよー、ラグーザ弁で覚えたら!!スフォイヤテッラですからね。基本をきちんときちんと。
アゴが弱い私は、食い気とアゴの疲労と戦いながらこの種のお菓子を食べています。似たようなもので巨大なコーダ・ディ・アラゴスタ(coda di aragosta、伊勢えびの尻尾の意)というのもあります。でもコディーノ・ディ・アラゴスタという小さい版もあるそうです。コーダ・ディ~とスフォイヤテッラの違いはどうなっているのでしょうね。今度ナポリに行ったら食べてしっかり理解してきます!
Commented by P405 at 2007-10-30 20:17 x
hyblaheraiaさん、こんにちは。この絶景ポイント、上の街から降りてくるとカーブで急に現れて、本当に息を飲みますよね。何度でもあの場所に立ちたいです。羨ましい限りです。
Commented by hyblaheraia at 2007-10-31 02:52
>P405さん、そうですね。あの突然現れるところが凄いですよね。四季によって表情も変化して、晴れでも曇りでも雨でも、朝も夜も、一年中ずっと秒刻みに美しいです。あれがあるからこそ、歩いて降りようという気分になるんですね。
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