人気ブログランキング | 話題のタグを見る

オリーガノの香り

 鼻腔を突き抜ける野生的な青い香り。深く吸い込む度に、シチリアの夏の乾いた空気と草土の香り、そして静かに流れる時間を思い出す。

オリーガノの香り_f0133814_1365663.jpg シチリアの野生オリーガノorigano(origano selvatico siciliano)、つまりオレガノは、毎年、6月初旬頃に束で売られ始める。触ればまだ柔らかく、摘み取られたばかりのエメラルド・グリーンの花が、瑞々しさと柔らかな芳香を放っている。これを新聞紙にくるみ、日陰に置いて2週間ほど乾燥させ、手もみで保存用の乾燥オリーガノを作る。

 シチリアではどこの家庭でも行われているこの作業を、ここに来て見よう見真似で始めた。
 1年目はオリーガノの存在に気付いたのが既に6月中旬。花が黒く枯れて小さなテントウムシが着き始めていた。2年目は行商の八百屋ラッファエーレに5月から予約し、初物を入手した。日本茶で言うと、一番茶に相当する最高品質のもの。彼が来る度に乾燥具合を確かめてもらい、今日こそ、という日に手もみした。3年目もそうして素晴らしい出来となった。
 しかし4年目の今年は、そろそろ予約をと思っていた5月末に、既に初物が売り切れ。暑さのためオリーガノが急激に成長し、出荷が早かったのだそうだ。手に入れたのは言わば「二番茶」。既に花が白く開いて残念だったが、質はなかなか良い。
 

オリーガノの香り_f0133814_1374466.jpgオリーガノの香り_f0133814_1381473.jpg
 美しい緑色を保つには室内干しが良いとラッファエーレに勧められ、挑戦した。その出来はこの通り。緑が一切褪せていない!
 本来ならば夏の乾燥時に手もみするべきだが、来客続きで10月まで持ち越してしまった。数日前に雨が降り、夜の湿気も出てきたので、この日は洗濯物ロープに干して朝陽に数時間当てておいた。ちゃんとできるか不安・・・。

オリーガノの香り_f0133814_1401473.jpg 一本一本の枝はこうなっている。
 枝の下の方に、からまるように付いているのが葉。上のこんもりした部分が花。オリーガノはこの花だけを使う

 手もみ作業に必要なもの:
新聞紙、
大型カレンダー1枚、
紙皿、
ろうと、
巨大ビニール袋。

 こういう道具も、3年の反省結果に拠る。毎年進化する手もみ作業、なかなか楽しいものなのだ。

オリーガノの香り_f0133814_1404971.jpgオリーガノの香り_f0133814_1412948.jpgオリーガノの香り_f0133814_142085.jpg
 作業第一段階:まずは枝下部分の葉を全て取り除く。枝がなめらかになったら半分程度に折り、手もみし易い長さに揃える。この時、ポキッと言わなければまだ乾燥が不十分な証拠。

オリーガノの香り_f0133814_1424489.jpg 葉も枝も惜しげなく捨て、手もみサイズの枝を次々作る。
 この下準備があると、後の作業が効率よくできるのだ。

左:束の状態
中央:折って捨てる部分の枝
右:手もみする花の部分


オリーガノの香り_f0133814_1435155.jpg 第二段階:いよいよ、手もみ開始。
 短く折った枝を両手の平でそっと包み込み、軽くこすり合わせる。
 その際、花を擦り潰しては香りが飛んでしまうし、力を入れすぎると細い枝も一緒に落ちてしまう。力加減と手もみのリズムを得るのがコツだ。
 落ちた花は紙のトレイで受ける。

 サリサリッとオリーガノの花が自然に落ちてくる、この乾いた軽い感覚が気持ち良い。キッチンに野の草の香りが一杯に広がり、オリーガノ畑はこんな感じかと想像したりする。つい歌も歌ったり。


オリーガノの香り_f0133814_1443346.jpg 第二段階・上級技:花の近くにも葉が付いていることがあるので、爪楊枝を使ってとり除く。

 葉は小さいわりに硬く尖っていて、舌を刺したり、葉の隙間に入ったりと厄介なので、面倒がらずに丁寧に丁寧に。途中で見つけたゴミや小さな繭なども取り除いて・・・。

 市販ものは機械で磨り潰して生産されているので、ガの幼虫ニョキニョキ虫など、何が混入していてもおかしくない。
 誠実に、心を込めて、丁寧に。手もみオリーガノの精神がそこにある。

オリーガノの香り_f0133814_1454579.jpg 第二段階・緊急事態:爪楊枝を使っても小さな葉が取りきれない場合は、手もみせずに、指もみをする。
 指先を使って花だけを少しずつ落として行けば、葉が入ることはない。指でひねり潰さず、あくまでも軽く、自然に落とす感じで。

 こうして葉をなるべく混入させず、緑の花の部分のみを使うのが私の理想。茶色に乾燥した花も、爪楊枝を使って根気良く取り除く。全ては、美しいエメラルド・グリーンのオリーガノのため。

 15分に1回鳴る近所の教会の鐘を聞きながら、のんびりとあせらず、理想のオリーガノを目指してちくちくと・・・。普段は鳴り過ぎだと感じるこの鐘も、こういう時は良いテンポを作ってくれる。

オリーガノの香り_f0133814_1511674.jpg 第三段階:ろうとを使ってトレイに集めたオリーガノを保存用の瓶に入れる。ろうとがない時はきれいな紙を丸く巻いて代用すべし。

 地味な作業が続くと、早く瓶に入れて成果を眺めたい気になるものだ。が、慌てるとトレイから一気にこぼれ落ち、捨てるべき枝や葉と混じって涙ぐましい努力も水の泡となる。
 そんな幾度かの失敗を経て学んだのが、このろうと使い。一手間を面倒がらず、道具を使って、効率良く。

オリーガノの香り_f0133814_1531114.jpg 最終段階:全ての手もみオリーガノを瓶につめ、しっかり蓋をする。そして眺める。

 今年は二束で瓶一杯ができた。二人の生活なら来年まで十分にもつ。
 去年のものと色や臭いを比べながら、どんな料理に使おうかと、まだ力強い香りに酔いながら、想像を膨らませる。長い地味な作業の後の、充実感に浸る幸せな一時である。

 手間をかけて丁寧に、急がず、心を込めて。手もみオリーガノにはシチリアの手仕事の精神と、雄大な大地の香りが封じ込められている。 

人気blogランキングに参加中 手間をかけて、ゆっくりと・・・。


追伸:オリーガノは、指でひねり潰しながら、香りをつまみ出すように振り掛けて使う。
 サラダ、トマトのスライス、茹で野菜、きのこ料理、トマトソース、パスタ・アッラ・ノルマ、ピッツァ、ファッチャ・ディ・ヴェッチャ(老女の顔、の意。良質オリーヴオイルとオリーガノ、塩だけのブルスケッタ)、野菜や白身魚のグリルなどが、この一振りで新たな命を得る!
by hyblaheraia | 2007-10-15 02:37 | 料理


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


by hyblaheraia

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

掲示板

最近は・・・
このブログ、細く長~く続いてます!
24 Mag. 2019


迷惑コメント対策で承認制にしております。
::::: ::::: :::::

自己紹介に代えて


ご連絡等はコメント欄にお願いいたします

::::: ::::: :::::


2013年11月、共著出版



2009年4月、共著出版



1999年3月、共著出版


ラグーザ ホテル

カテゴリ

全体
自然
生活
歴史
祭り
伝統・技術
料理
菓子
変わった野菜と果物
野鳥・昆虫・動物
大学・研究
政治・社会
音の絵:写真と音楽のコラボ
シチリア他の町
イタリア他の町
ナポリの実家
一時帰国
ブログ・・・周年とゲーム
未分類

タグ

(60)
(50)
(46)
(42)
(41)
(38)
(36)
(35)
(35)
(34)
(31)
(27)
(22)
(21)
(20)
(15)
(14)
(11)
(11)
(11)
(10)
(10)
(10)
(9)
(8)
(8)
(8)
(8)
(7)
(6)
(6)
(5)
(4)
(3)
(2)
(2)

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

以前の記事

2019年 05月
2018年 02月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 05月
more...

画像一覧

ブログジャンル

海外生活
音楽

検索

記事ランキング

ライフログ











お気に入りブログ

生きる詩
gyuのバルセロナ便り ...
ルーマニアへ行こう! L...
写真でイスラーム  
エミリアからの便り
アフガニスタン/パキスタ...
イスラムアート紀行
夫婦でバードウォッチング
La Vita Tosc...
パリ近郊のカントリーライフ
トルコ~スパイシーライフ♪
now and then
Vivere in To...
シチリア時間Blog
フィレンツェ田舎生活便り2
ふりつもる線
ぐらっぱ亭の遊々素適
ヴェネツィア ときどき ...
石のコトバ
ボローニャに暮らす
フランスと日本の衣食住
cippalippaの冒...
スペインのかけら
Berlin Bohem...
VINO! VINO! ...
::: au fil d...
sizannet
イタリア料理スローフード生活
ペルー と ワタシ と ...
しの的エッセンinドイツ
PoroとHirviのとおり道
料理サロン La cuc...
カッラーラ日記 大理石の...
イタリアの台所から
オルガニスト愛のイタリア...
Animal Skin ...
しのび足
道草ギャラリー
白と黒で
ちまもの読書日和
andante-desse
il paese - p...
やせっぽちソプラノのキッチン
坂を降りれば
A Year of Me...
お義母さんはシチリア人
Espresso!えすぷ...
シチリア時間BLOG 2
London Scene
hatanomutsum...
小鳥と船
Cucina , sof...
ローマ、ヴェネツィア と...
やせっぽちソプラノのキッチン2

外部リンク

その他のジャンル