ジョヴァンニおじいさんが語るイブラ

f0133814_19482279.jpg ラグーザに来た日本人が必ず会ってしまう人、それがジョヴァンニおじいさんだ。
 大の親日家、ジョヴァンニ・ノービレ氏(Sig. Giovanni Nobile)は旧市街イブラで生まれ育ち、イブラをこよなく愛し、結婚して新市街に移り住んでからも、毎朝、イブラに下りて散歩するのが日課。古い友人とおしゃべりや散歩をして12時25分もしくは55分のバスで新市街の自宅に帰る。ランチに帰らないと奥さんに怒られますからね、とお尻を叩かれるしぐさで茶目っ気たっぷりに帰る言い訳をするのがおかしい。
 おじいさんは冬はバスで行き来するが、夏は茶色の皮のサンダルを履いて、階段でイブラまで下りていく。暑いから無理はしないでください、と我々はいつも言うのだが、おじいさんにとってイブラに行くことが健康の秘訣。よほどの悪天候で無い限り、一年中、毎日イブラに行き、ゆったりと時間を過ごす。
 しかしツーリストを見つけると、さぁ大変!ジョヴァンニおじいさんのスイッチが入る。そそそと近付き、彼らが見ている景色や教会について説明し始め、あちらの教会には・・・と言いながらいつの間にかガイドが始まり、聖人のレリーフから、丘に刻まれた遺跡、町の歴史、植物の名前、所々で見られる家々の古い習慣、井戸、石や壁の素材など、目に見える物を次から次へと間髪入れずに説明してくれる。

f0133814_20383565.jpg ふむふむ、と聞きながら写真を撮ろうとすると、いや、そこではなくこちらへいらっしゃい、と撮影のベスト・ポジションまで案内してくれる。はい、ここから撮って、と言われるままにそこに立つと、まずはため息。何と美しいプロポーションで教会や町並みが見えることか。イブラの坂の上に、視覚的な効果を狙って少々左向きに建てられたサン・ジョルジョ大聖堂は、ジョヴァンニおじいさんの指定場所に立つと、真正面から見ることができる。あの堂々たるファサードが目の前に自分と一対一の関係でそびえ立ち、圧倒されそうになるのだ。
 とにかくイブラについて隅から隅まで知っているこのジョヴァンニおじいさん。彼と遭遇し、一緒に散歩することこそ、ラグーザ旅行の醍醐味と言えるだろう。この日も友人とイブラへ下りていく途中、おじいさんと遭遇し、気がついたらイブラ・ツアーが始まっていた。(イブラの大パノラマの撮影場所を指定される友人。)
 ジョヴァンニおじいさんは、若い頃は仕立て屋を営んでいたが不景気で廃業し、地中海クラブClub Medに転職した。そこで知り合った札幌出身の同僚のお陰ですっかり日本が好きになり、以来、ラグーザを訪れる外国人、とりわけ日本人を見つけては声をかけ、イブラを案内しているのだ。
 おじいさんの胸ポケットから出てくる青い「千代紙手帳」(と私が名付けた)には、これまで案内した世界中の旅行者の住所氏名がずらりと書かれている。初めて見せてもらったとき、なぜかルカの名前もあったのには笑った!

f0133814_20313622.jpg ちなみにこれはイブラへの階段の途中で教えてもらった野生のケッパーCapperi。岩の隙間のあちらこちらに白と紫の妖艶な花が咲き、枝垂れる爽やかな緑には、良く見ると小さな実が成っていた。
 ケッパーの生を見るのはこれが初めて。本当にケッパーだ!とあまりに驚く私におじいさんは自信をなくしたのか、ベランダで涼んでいた老夫婦に、これはケッパーですよね、と尋ねていた。老夫婦曰く、今が収穫の時期なのでその辺りからよく取るそうだ。
 シチリアではこれを塩漬けにして長期保存し、魚料理やパスタのソースに良く使う。地元では皿の端にケッパーを残す人もいるが、はやり塩味のアクセントとして使われているのだろうか。いやいや、そんなことはない、全て食べ切る人もいる。もしかすると、日本で言う所のシジミ汁の身を食べるか否かという論争と同じなのかな。


f0133814_2049456.jpgf0133814_20494243.jpg
 ジョヴァンニおじいさんと歩いていると、イブラの豊かな歴史の一ページを静かにめくっていくような気分になる。左の建物は、階段途中でうっかり見過ごしてしまう廃屋だが、昔、この奥には男爵Baroneが住んでいて、夕方になると階段で誰かがアコーディオンを弾き、その音につられて人々が集まりワインを飲んだり、踊ったりしたそうだ。そういう話を聞くと、セピア色の景色に一瞬にして色が付き、風が吹き、楽しそうなな音が聴こえてくるような気がする。
 さらに階段を下がり、本道からそれた細道に案内された。右の写真はかつての男爵家で、奥さんが浮気をして逃げてしまい、一人娘が80歳になるまでここに住んでいたという。イブラには旧貴族が今でも多数住んでいるが、エレガントな身なりで不思議なオーラを持つ老女たちを見ていると、貴族の歴史を背負う切なさのようなものが感じられる。
 男爵家向かいの民家のドアは黒く焼け焦げていた。それを見るなり、こっちは奥さんが浮気された家で、火事が起きたけれど誰が火をつけたのかは未だに不明、気が触れた奥さんの仕業という噂があるなどなど、いろいろな物語を聞かせてくれた。
 ジョヴァンニおじいさんの生家の横にも男爵の家があった。昔は貴族に会うと、手に接吻し「私たちをお守りください」と挨拶し、貴族は人々の頭を撫でて「良し良し」としたのだそうだ。貴族も平民も一つの町の中で共に生きていたのだな、と思わせるエピソードだ。


f0133814_21113074.jpg 細い道を曲がってさらに奥へ。そしてこの日、私の心を捉えたのがこの家。
 誰が住んでいたのか、今となっては分からなくなってしまった廃屋の民家。その窓の上部両脇に石の装飾のようなものがある。ジョヴァンニおじいさんは懐かしそうに、昔はあの石の穴に棒を通し、そこに布を巻きつけてカーテンにしていたと説明してくれた。
 窓の真ん中辺りにも石の台が左右に2つある。ここには植木鉢を置いて窓辺を飾ったのだそうだ。きっとシチリア人の好きな赤や赤紫の花が飾られ、夕焼け色の壁に白いカーテンが風に揺れていたことだろう。こんな素敵な話を聞くと、ますますラグーザの魅力に取り付かれてしまう。


 ジョヴァンニおじいさんは言う。毎日イブラに散歩に行くのは、今もイブラに暮らしているようにしていたいからだと。
 小さい頃からの思い出の詰まったイブラを、まるで子供に絵本を読み聞かせるような優しい語り口。ジョヴァンニおじいさんの語るイブラは、旅行者の心にいつまでも残ることだろう。

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by hyblaheraia | 2007-07-11 23:13 | 生活 | Comments(4)
Commented by Gina at 2007-07-11 23:53 x
こんばんは。
以前ラグーサを訪れた時は、ジョヴァンニおじいさんに会うことが
できませんでした。(シェスタの時間にウロウロしていたからかもしれません)

ヨーロッパに暮す年配の方っておしゃべり好きで、外国人(ツーリスト)を見ると、声かけたい!というオーラをぎんぎんにあらわにし、我慢しきれず話し掛けてくる方って結構いらっしゃいますよね。ひょっこりやってきた私のような観光客は、そういう方につかまって、のんびりお話を聞きたいな、といつも思っています。

が、言葉ができないので、限界があるのですけどね。
Commented by hyblaheraia at 2007-07-12 00:44
>Ginaさん、ラグーザにいらしたことがあるんですか?びっくりです。こんな山奥まで?ご旅行に慣れていらっしゃるんですね。
ジョヴァンニおじいさんは、他のお世話好きな老人とは一線を画していて、世界遺産の教会の説明だけでなく、子供の頃の思い出や、伝統文化やラグーザの歴史の説明もあって、話を聞くとこの町を見る目がぐんと変わります。できれば1週間くらい、毎日おじいさんとお散歩してイブラの秘密をたくさん知りたいところですが・・・。
言葉はもちろん大事ですが、ジェスチャーで「ここ、ここ!」と言われて、ああ、ここは大事な場所なんだな、と感じながら一緒にお散歩するだけでも楽しいですね。ちなみにおじいさんは英語はだめですが、フランス語ができるそうです。
Commented by minimau at 2007-11-04 07:42
旧市街へ行く階段をとことこと降りる時、この4枚目左の写真に見えるような窓から犬が吠えていたのを思い出しました。
ああラグーザ。ほんと、そこにhyblaheraiaさんが住んでいるなんて。私にとっては(ずいぶん前だし。。)なんだか夢だったような感じでした。
Commented by hyblaheraia at 2007-11-04 19:50
>minimauさん、こんな昔の記事まで丁寧に読んでくださって本当に本当に嬉しいです!!私にとっては、どれもラグーザ生活の大事な一瞬一瞬なので、ブログという媒体の性格で書いた記事が日々古くなって忘れられていくのがちょっと寂しくて。
犬が吠えていた風景、よく分かります。猫なんかもニャオ~って顔を出したりしますしね。ここに住んでいても、イブラはちょっと夢のような世界なのですから、minimauさんにとってはなおさらかもしれませんね。
でもイブラも実在し、私もいます。お化けじゃないですよ!
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