気温46度と自然火災
ラグーザから地中海を挟んだ500キロほど南に、アフリカのリビアがある。500キロと言えば、東京と青森程の距離である。先週、このリビアからの熱風がシチリア南東部に吹き込み、カターニアでは4日連続45度~48度にまで気温が上がった。ルカの妹の結婚式のためナポリにいた我々は、まさにこの暑さの最中にカターニア空港に戻ってきた。(下:新しくなったカターニア空港)
機内から一歩出ると、立ち込めてくる熱風に息が詰まった。オーブンを開けた瞬間に、熱い空気に一瞬ひるむ様な感覚である。空港の外では、カラカラに乾いた砂が巻き上がり、熱風が容赦なく体を火照らせた。呼吸の度に熱い空気が体内に流れ込み、サンダルでむき出しの肌はアスファルトの照り返しでぴりぴりと痛みを伴った。
異常な暑さに危険を感じた我々は交代でトイレに行き、頭と手足(特に手首や足首、首筋)を水で冷やし、さらに濡れタオルを用意した。2人とも海で泳いだ後の軽い日焼けのように頬が赤らんでいた。前日の天気予報で覚悟はできていたが、46度は想像を越える暑さだった。
この状況で20分待ち、ラグーザ行きの長距離バスに乗った。車内の冷房はゆるかったがそれなりに効いていて、扇子を仰ぎ、景色を見ながら気持ちにも余裕が出てきた。半ば冗談で、この暑さでタイヤが溶けたりして?!などとルカに言ったのだが、それが実現することになろうとは・・・。
カターニアから走り始めて30分程した頃から、車内に焦げ臭いにおいがするようになった。この日、沿道では黒煙が濛々と上がり、4ヶ所で自然火災が起きていたため、その臭いだと誰もが思っていた。しかし1時間経っても臭さは消えない。周囲はのどかな牧草地帯で自然火災はどこにも見えない。しばらくすると対向車がパッシングをしたり、運転手に何か合図をしているのに乗客が気付き始めた。運転集も手でOKの合図を返す。何か起きたに違いない。最後尾の若者たちと、我々の真後ろにいたシニョーラがざわめき出す。
しかしここは山奥の国道、停車する場所もない。1時間ほど慎重に走り続け、最も近いコッファCoffaという停留所に着いた時、黒い煙が私の横を流れた。「あ、煙が出ている!」と思わず叫ぶと、乗客も身を乗り出して事態を見つめる。バスから降りると、後方のタイヤから煙が出ており、運転手が水をかけて懸命に冷やしていた。
運転手によると、レンティーニLentiniという町近くのカーブでブレーキをかけた時に、ブレーキパッドが暑さと摩擦で溶け、その時から他のブレーキもあまり効かなくなっていたのだそうだ。発車後30分、あの自然火災が起きていた地域で、既にこのバスでも問題が発生していたとは。考えただけでも恐ろしい。
結局、1時間後のバスがこの停留所を通るのを待って、乗客はみな無事ラグーザに帰った。
地中海の夏の乾燥した空気と強烈な暑さの下では、草が擦れあうことで生じる摩擦熱などで、しばしば自然発火が起きる。一端引火すると、辺り一面が牧草地や山である地域では、瞬く間に炎が広がり、大規模な山火事に至る危険がある。そのため山間地の道路脇には「SOS BOSCO 1515(山火事通報1515)」という青い看板が随所に立てられ、火事を発見したドライバーが即座に通報できるシステムになっている。
以前、タクシーに乗っていた時に我々は火災を発見し、運転手が携帯で通報したのを覚えている。ラグーザ人には、こういう迅速な行動が身に付いているのだと感心した。
火災後の大地は、このように無残にも黒く焼け残っている。
この土地が新たな植物で覆われるのにどれだけ時間がかかるのだろうか…と考えていると、焦げた幹から新芽がちらほらと出てきているのを発見した。光り輝く緑は、自然の生命力の底知れぬ強さを物語っている。人為的な破壊がない限りシチリアの自然は永遠だろう。
この日、ラグーザの我が家の近くでも自然火災が発生し、空が薄灰色になるほど木々が燃え尽きてしまった。
しかし焼ける丘を見つめる老人たちは、慌てることもなく、まぁいつもの事だと云わんばかりに大らかに構えていた。それは諦めでも落胆でもなかった。きっと、燃えてもまた新たな緑が再生することを経験的に知っているのだろう。
1日で6ヶ所の自然火災を見たのはこれが始めてだ。暑さと自然火災、それと共生していくシチリアの生活は何とも雄雄しい。
人気blogランキングに参加中 シチリアの暑さはただものではない!
機内から一歩出ると、立ち込めてくる熱風に息が詰まった。オーブンを開けた瞬間に、熱い空気に一瞬ひるむ様な感覚である。空港の外では、カラカラに乾いた砂が巻き上がり、熱風が容赦なく体を火照らせた。呼吸の度に熱い空気が体内に流れ込み、サンダルでむき出しの肌はアスファルトの照り返しでぴりぴりと痛みを伴った。
異常な暑さに危険を感じた我々は交代でトイレに行き、頭と手足(特に手首や足首、首筋)を水で冷やし、さらに濡れタオルを用意した。2人とも海で泳いだ後の軽い日焼けのように頬が赤らんでいた。前日の天気予報で覚悟はできていたが、46度は想像を越える暑さだった。
この状況で20分待ち、ラグーザ行きの長距離バスに乗った。車内の冷房はゆるかったがそれなりに効いていて、扇子を仰ぎ、景色を見ながら気持ちにも余裕が出てきた。半ば冗談で、この暑さでタイヤが溶けたりして?!などとルカに言ったのだが、それが実現することになろうとは・・・。
カターニアから走り始めて30分程した頃から、車内に焦げ臭いにおいがするようになった。この日、沿道では黒煙が濛々と上がり、4ヶ所で自然火災が起きていたため、その臭いだと誰もが思っていた。しかし1時間経っても臭さは消えない。周囲はのどかな牧草地帯で自然火災はどこにも見えない。しばらくすると対向車がパッシングをしたり、運転手に何か合図をしているのに乗客が気付き始めた。運転集も手でOKの合図を返す。何か起きたに違いない。最後尾の若者たちと、我々の真後ろにいたシニョーラがざわめき出す。
しかしここは山奥の国道、停車する場所もない。1時間ほど慎重に走り続け、最も近いコッファCoffaという停留所に着いた時、黒い煙が私の横を流れた。「あ、煙が出ている!」と思わず叫ぶと、乗客も身を乗り出して事態を見つめる。バスから降りると、後方のタイヤから煙が出ており、運転手が水をかけて懸命に冷やしていた。
運転手によると、レンティーニLentiniという町近くのカーブでブレーキをかけた時に、ブレーキパッドが暑さと摩擦で溶け、その時から他のブレーキもあまり効かなくなっていたのだそうだ。発車後30分、あの自然火災が起きていた地域で、既にこのバスでも問題が発生していたとは。考えただけでも恐ろしい。
結局、1時間後のバスがこの停留所を通るのを待って、乗客はみな無事ラグーザに帰った。
地中海の夏の乾燥した空気と強烈な暑さの下では、草が擦れあうことで生じる摩擦熱などで、しばしば自然発火が起きる。一端引火すると、辺り一面が牧草地や山である地域では、瞬く間に炎が広がり、大規模な山火事に至る危険がある。そのため山間地の道路脇には「SOS BOSCO 1515(山火事通報1515)」という青い看板が随所に立てられ、火事を発見したドライバーが即座に通報できるシステムになっている。
以前、タクシーに乗っていた時に我々は火災を発見し、運転手が携帯で通報したのを覚えている。ラグーザ人には、こういう迅速な行動が身に付いているのだと感心した。
火災後の大地は、このように無残にも黒く焼け残っている。
この土地が新たな植物で覆われるのにどれだけ時間がかかるのだろうか…と考えていると、焦げた幹から新芽がちらほらと出てきているのを発見した。光り輝く緑は、自然の生命力の底知れぬ強さを物語っている。人為的な破壊がない限りシチリアの自然は永遠だろう。
この日、ラグーザの我が家の近くでも自然火災が発生し、空が薄灰色になるほど木々が燃え尽きてしまった。
しかし焼ける丘を見つめる老人たちは、慌てることもなく、まぁいつもの事だと云わんばかりに大らかに構えていた。それは諦めでも落胆でもなかった。きっと、燃えてもまた新たな緑が再生することを経験的に知っているのだろう。
1日で6ヶ所の自然火災を見たのはこれが始めてだ。暑さと自然火災、それと共生していくシチリアの生活は何とも雄雄しい。
人気blogランキングに参加中 シチリアの暑さはただものではない!
by hyblaheraia
| 2007-07-03 19:22
| 自然
シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。
by hyblaheraia
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 |