移民、そして移民局という所

 最近、毎週のように移民局Ufficio Immigrazione(英Immigration Office)に通っている。日本では入国管理局Immigration Breau of Japanと呼ばれる同機関が、イタリアではその名の通り移民局である。「難民」という言葉は、国連の「難民条約」(1954年の条約、1967年の議定書を合わせたもの)によって定義され、国連難民高等弁務官事務所でも「難民認定基準ハンドブック」を出しているそうだ。一方「移民」については曖昧で、国籍のない国に労働などの理由で移り住む外国人は一般的にそう呼ばれるようだ。
 日本に住む外国人が外国人登録を義務付けられているように、イタリアでも外国人=移民は滞在許可証を取得しなければならない。入国目的は労働、就学、結婚、伝道、難民、亡命など様々だが、その目的に合った正しい許可証を申請・取得する必要がある。
 その取得についてネットに多くの情報があるように、日本人には考えられないほど時間を要すと悪評高い。しかしそんなことはどうでもいい。スーパーのレジも郵便局も銀行も、何をするにも列ができスムーズに行かないのがこの国の日常。ここでは、移民を同じ人間として扱わない差別意識について、一言述べたい。

f0133814_150345.jpg 3月末に滞在許可証の申請をし、移民局から「5月16日9時06分」と召集時間が明記された手紙が届いた。それを持って早めに着いたが、既に長蛇の列が道路にまで続いている。手紙を見せて「予約があるんですが」と列の一人に言うと、「俺たちもだよ!」とみな手に手に同じ召集状を持っていた。「06分」という微妙な数字は個人の予約と勘違いさせ、あまりに馬鹿にしている。
 とにかく列の最後尾に並んだが、まずは冷風に震えながら道路で2時間、次はアーチ型のプラスティックパネルに囲まれた蒸し上がる通路で2時間、合計4時間待たされた。
 昼頃から突如晴れ、太陽が頭上が照りつけたこの日、パネルで覆われたオフィスへの通路はビニールハウスのように蒸した。ただ待つだけならまだしも、「質問するだけだから」と列を無視してオフィスに入る人や、子供を抱えて優先を主張する人、どさくさ紛れに列の先頭に横入りする人が後を絶たず、さらには「私はカラビニエーリ(警察)だ」と職権をかざして同伴した女性を列の先頭に付けるイタリア人もいて、その度に「列に並べよ!」、「ズルするなよ!」と叫ぶ男たちがぎゅうぎゅう押してくる。憤りと体臭と暑さとで蒸した通路で、人々は譲り合いや礼儀など微塵も持たなくなっていくのだ。

 こんな状況では、忍耐にも限界がある。一人の男性が列を外れてオフィスの進捗状況を伺っていた。すると、窓口で執務に当たっていた警官が彼に気付き、凄い形相で飛び出してきた。「ここに人がいるのを見たくないんだ!ちゃんと並べ。言うことを聞けないのなら、よそへ行け!分かったか!」と警官は怒号を上げ、人員整理のロープとコーンを激しく蹴り飛ばした。
 水を打ったような静けさが続いた。我々は家畜か。法律を遵守し、この劣悪な条件で4時間も待っているというのに、その態度はなんだ。きっと誰もが同じ気持ちだっただろう。
 しばらくするとまた横入りの人々が現れ、「おい、お前!」、「このズル!」と男達が一触即発の状態になる。小さな子供もいるこの狭い通路で喧嘩が起きては危険だ。たまりかねた夫が窓口に向かって、「すみません、誰か来て下さい!」と応援を呼び、「落ち着いて、落ち着いて、待つのはみんな一緒ですよ」とパニック状態の人々に呼びかける。
 10分くらい後に、ようやくオフィスの奥から3人警官が出てきて人員整理を始めた。手紙に書かれたた召集日を確認しながら、「あなたはだめです、今日はだめです。外に出てください。」と最初は丁寧だったが、ある人が「でも質問したいだけなんですが」と言うと、「だめだ!だめだと言っているだろ、出て行け!」と怒鳴り散らす有様。「出て行け!Fuori!」という言い方には、人の尊厳など露ほどもない。
 夫が言った。「人は動物のように扱われると動物になってしまうんだね。」 

 この季節、シチリアの沿岸にはアフリカからのボート難民が頻繁に漂着する。粗末な釣り船に溢れるほどの人が乗り込み、海を越えてシチリアまでやってくる。一説には、乗船には1人2000ドルかかるらしい。その資金を貯めるために、いったいどれほど辛い労働に耐えたのだろうか。ボートには女性も子供もいる。無事、シチリアに着いても極度の脱水症状で瀕死の人もいる。途中で力尽きた人も、転覆して亡くなった人もいる。
 だが命がけの入国に先進国は容赦ない。難民申請が却下された人々が手錠され、飛行機に乗せられるシーンが報道された時は、「彼らは犯罪者ではない」と世論も動いた。が、その後はどうだろうか。難民も移民もみな動物のように見下され、入国が許可された人でさえ、左右の指10本と、左右の手の平の指紋を採取され、あたかも未来の犯罪者であるかのように扱われている。

 移民局での手続きはまだ終わらず、この国に絶望を感じつつある。しかし、コネを使わず外国人とともに何時間も並び、ズルを見逃す警官に恐れず物申せる夫ルカを、私は心から誇りに思う。

写真:滞在許可証の申請用紙
(他にパスポートの全頁コピー、収入証明、無犯罪証明、戸籍証明、結婚証明、夫との同居証明、写真を添付し、指紋採取を2度行った)

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by hyblaheraia | 2007-05-31 02:24 | 生活 | Comments(4)
Commented by manu at 2007-06-11 22:11 x
ごくろうさま、というかなんともことばがありません。
わたしも同じような経験を何度もしました。ボローニャでは、滞在許可の目的(労働、勉強(大学、音楽・美術学校、語学学校など教育機関別)の区別あり)により並ぶ列が違い、もし正しいイタリア語を話そうとする意志と努力を見せて話せば、それなりの対応をしてくれました、とはいえ10年近く前ですが。
「あなたは、警察で列を作るためではなく、研究のためにここにきているのだから、こちらにいらっしゃい」と人間的な扱いを1度受けたことがあります。本当にありがたかったです。
しかし、多くの場合、「人権」などということばが存在するのは地球上の一部なのだな、わたしたちは恵まれた地域で生まれ育ったのだな、ということを思い知らされました。
同時多発テロのころからでしょうか、長期の滞在許可申請の際に指紋採取が義務付けられました。それも、墨を使って・・・
大好きなイタリアで、どうにも納得のいかなかった問題です。。。
Commented by hyblaheraia at 2007-06-12 09:06
>manuさん、ボローニャでもそうでしたか。確かに「人権」という概念はなさそうです、移民局には。墨を使った指紋採取、3年前に私もやりました。なのにその後、2度もやらされたんですよ。
今朝も移民局に行ってきましたが、こんなに並んだのに申請を最初からやり直すことになり、この国に対する怒りと絶望でどうかなりそうです!
どうしてこうなんだろう。素晴らしい文化と歴史を誇る国なのに。
Commented by yajima at 2007-06-12 17:44 x
はじめまして。この文章を読んで思ったことがあるので、一言書かせてもらいますね。

私の考えるに、このような問題はイタリアだけの問題ではないと思うんです。自国にいる間は気がつかないというか、入国管理局にいく必要がないので、自国内の入管の現状を理解していないのではないでしょうか。実際、日本でも似たような感じです。以前、日本語を理解できない方を、犬を追い払うようにしていた職員をみたことがあります。たしかに、日本の入管ではイタリアほど悪い環境で待たされることは少ないかもしれません。でも、「マイノリティ」であることだけで、肩身の狭い思いをするのは、どこへ行っても同じような気がします。どうすれば、もっとうまく共存できるようになるんだろうな、と常に考えています。でも、いつも一方的な考えになってしまうのですよね。客観性を持つというのはとても難しいです。私もイタリア好きなので、少し悲しくなりました。

でも、そういう経験をしたことがあるのは、財産だと思いますよ。経験してみないと、理解できないことって山ほどありますから。

それでは失礼します。
Commented by hyblaheraia at 2007-06-12 20:16
>yajimaさん、おっしゃる通りですね。私も日本にいたときはこの問題について特に考える機会はありませんでした。日本人として、当然のこととして日本に住んでいたわけですから。国籍のある国で様々なことが守られていたんだな、と思います。「マイノリティ」、「マジョリティ」そんな区別のない社会があれば、世界中から憎しみや紛争が消えるのかもしれませんね。この経験は確かに貴重な「財産」となっていると思います。
ちょっと熱くなっていたので、客観的な記述ができませんでした。ご意見ありがとうございました。
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