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幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-

 カターニアとラグーザを結ぶおよそ103キロの山道。そのほぼ中間地点からラグーザに至る道のりは、いかなる季節であろうと、いかなる天候や時間であろうと、その雄大な景色が心を打つ。

幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_5373926.jpg それはモンティ・イブレーイmonti iblei(イブレオ高原、イブレオ丘陵)と呼ばれるこの地域一帯が、自然保護地域に指定されていることと無関係ではないだろう。


幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_6405234.jpg モンティ・イブレーイの中程にひっそりとたたずむ町、リコディーア・エウベーア。その周辺の崖と丘のダイナミックな連なりを超えると、次第に葡萄の栽培が目に付くようになる。そして大きくカーヴするユーカリ並木を通り過ぎた瞬間に、手が届きそうなそこから遠くの丘の切れ目まで、そこかしこに葡萄畑が広がり始める。見も心も一気に全てその景色に吸い寄せられ、ただ感嘆の声をあげる一時。おそらく、こんなに多くの葡萄の木を一度に目にする場所は他にないだろう。

幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_6472041.jpg ここはマッヅァッローネMazzarrone、シチリア屈指の葡萄産地である。食卓用果物としての葡萄が大半だが、もちろんシチリア・ワインの代表格、ネーロ・ダーヴォラNero d'avola種も栽培している。
 とろみのあるような濃厚さと、葡萄の果実そのものの率直な味、それに負けないアルコール度を感じさせるこのワイン。強い衝撃に襲われ何であるか初めは理解できないが、飲み続けるうちにそれが葡萄の果実味だけではなく、葡萄を育む大地の土臭さをも包含する独特の風味によるものだと気付くだろう。
 ここを通る度に、今年のネーロ・ダーヴォラはどうだろうかと心が躍る。もはや私にとってこれらは葡萄の木ではなく、「ワインの木」として見えているのだ。このワインなくしてシチリア伝統料理は語れまい。


幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_5403652.jpg こうして葡萄畑を愛でつつ、再び丘をいくつも越えていくと、ここにはまだ春の足跡が残っていた。
 東京の路傍に咲いていた薄オレンジ色の上品なポピーとは違い、野生の燃えるように赤いポピーがキク科の黄色い花々とともに、丘を沿うように咲き乱れている。あの中に身を横たえ、青空と花々が創り出す色彩の泉に溺れてみたい。そうすれば啄木が「不来方の お城の草に寝転びて 空にすわれし 十五のこころ」と歌ったときの心境が分かるかもしれない。たとえ年は大分違っても。
 そして忘れずに見て欲しい、ここにも私の心を離さない廃墟の納屋が。まさに、このシチリアの田園風景に私はやられたのだ。


幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_544769.jpg あの山の向こうにラグーザがある。でも早く越えたいとは思わない。むしろ山の遠さから、心洗われるこの景色がまだしばらく終わらないことに安堵する。そして辺りの海抜がまだ低いことを確認しつつ、最後の絶景を迎える気持ちの準備を整える。
 ラグーザは実は海抜600mの高地にある。そのため11月から3月までは東京の冬と同じような冷え込みを体験することになる。とは言え、ここはシチリア。もちろん海だってある。ラグーザの中心からおよそ21キロ、ラグーザ市特有のカッルーバ(carruba、イナゴ豆の木)が群生する大地をひたすら下る一本道を、車かバスで20分走る。すると、どこまでも透き通るクリスタルブルーの水平線が、我々の目線よりも高いところに突如現れる。

 マリーナ・ディ・ラグーザ(ラグーザ海岸)。紺碧の海、白い砂浜、椰子の木、ジャスミンとブーゲンビリア、このシチリアを語る上でなくてはならない色彩を備えた海がここにある。だがラグーザの町自体は、海よりもにずっと近い所にそびえているのである。
 旧市街イブラは、新市街よりも下の谷にあるため、雲だけでなく朝靄や霧に隠れて町全体が何も見えなくなることもある。また逆に、イブラよりも下の谷から見れば、雲の中に浮かぶ小さな古都に見える時もあるらしい。その幻想的な姿の一部始終を、霧が消えるまで見続けたいものだ。

幾重もの山を越え 中編 -リコディーア・エウベーア~マッヅァッローネ-_f0133814_5465544.jpg ゆるやかな丘陵をじわりじわりと登りつつ、気が付くとかなり高い所まで来ている。特に、この辺りから急勾配が始まり、バスのスピードもぐっと落ちる。山肩の傾れ具合で、その傾斜が想像できるだろう。
 ここから先、山の頂上へ向かうわずか10分ほどの時間に、ラグーザの美しさの全てが凝縮されている。

ラグーザまであと一山超えて・・・。


人気blogランキングに参加中 おーい、ラグーザはまだかー!
by hyblaheraia | 2007-05-19 09:22 | 自然


シチリアのラグーザ(ラグーサRagusa)より、時に音楽を交えて。ナポリ人の夫ルカと娘リディアも度々登場。リンクフリー。


by hyblaheraia

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2013年11月、共著出版



2009年4月、共著出版



1999年3月、共著出版


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