100歳の女性科学者

 5年前、その女性を初めてテレビで観た時、普通の人ではない物凄いオーラを感じた。古色蒼然としたドレス姿には、重い歴史が覆い被さっているような異様な空気があり、白髪と皺深い皮膚、細い腕と手、その話し方には、身体の隅々まで刻み込まれた強烈な知性を感じた。
 この人どなた?失礼ながら思わずルカに聞いた。

f0133814_563361.jpg リタ・レヴィ=モンタルチーニ Rita Levi-Montalcini。1986年、神経成長因子および上皮細胞成長因子の発見の功績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者。

 1909年4月22日、双子の姉妹としてトリノのユダヤ人家庭に生まれ、今日100歳の誕生日を迎える。双子のパオラ・レヴィ=モンタルチーニは画家として活躍した。


f0133814_581595.jpgf0133814_57874.jpg ムッソリーニ政権下では、人種迫害政策により研究活動の場を失うが、自宅に粗末な研究質を作り活動を続けた。戦後はアメリカに招聘され重要な研究成果を生み出し、ノーベル賞受賞に至る。

 2003年にはイタリアの終身上院議員Senatore a vitaに任命され、現在も国会審議に参加している。
 
 分野は違っても、理科系研究の紆余曲折から様々なヒントを得ることがある。彼女の場合は、人生そのものからも学ぶことが多い。
(写真はWikipediaより)


f0133814_572972.jpgf0133814_574836.jpg 活動の幅は研究と政治だけではなく、1992年にはリタ・レヴィ=モンタルチーニ財団Fondazione Rita Levi-Montalciniを設立し、主にアフリカの貧困問題と女性のための教育に力を入れている。

 先日、マルタとイタリアの政治的問題により、海上で4日も救助を待ち続けたアフリカ難民船の問題が起きた直後だけに、アフリカの貧困問題に取り組むその姿勢に、とても100歳とは思えない精神力を感じている。
(写真は同財団より)



 ところで、2008年のイタリア総選挙の時、彼女に関するあるニュースが走った(写真はその日のレプッブリカ紙)。

f0133814_5141430.jpg 99歳で歩行困難の彼女を投票会場に連れて行った付添い人は、長蛇の列を見て先に通してもらえないかと人々に尋ねた。ところが、
 「他の人と一緒に列に並びなさい」、「だめです、私だって急いでいるんですから」、「順を譲る理由がない」、と口々に拒否の答えが返ってきたという。

 騒ぎを聞いた投票所の責任者が、「よろしければ私たちが先にお通ししましょうか」と尋ねたものの、「他の人と同じように列に並ぶ方が良いです。」と答え、差し出された椅子も断り、「本当に結構ですから。立っている方がいいのです。」と、毅然とした態度で30分並んだという。

 身体の不自由な人、怪我人、病人、子供、妊婦、老人に思いやりを持てない社会に対して、多くの人が何とも言えないやるせなさを感じただろう。
 しかしつい数か月前、その時のことをテレビで質問された彼女は、当たり前のこと、何も気にしていないとさっぱり言い切った。その清々しい態度に、インタビュアーがタジタジだったのが面白かった。


 リタ・レヴィ=モンタルチーニのことを知れば知るほど、もっと知りたくなる。
 彼女の研究スケッチをこちらのサイトで見つけ、ふむふむと。

f0133814_5143669.jpgf0133814_5165810.jpg
 左(彼女):NGF(神経成長因子)の効果説明のために描いた図。
 右(私):17世紀イタリア・カンタータにおけるレチタティーヴォとアリアの変化と均質性の概念図(論文『音楽学』より)。
 
 お絵描しながら考えているモヤモヤしたことを表現するのは同じかな。
 将来のノーベル音楽学賞の受賞目指して、頑張ろう!
 (現在、この分野にはありませんけれど・・・) 
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by hyblaheraia | 2009-04-22 07:03 | 政治・社会 | Comments(11)
Commented by gabbyna at 2009-04-22 13:25
素晴らしい女性学者がいるんですね、今も尚、毅然としているような気品が漂う、素晴らしい女性だと思います。
しかし、イタリア社会、本当に病んでますね、流石にこちらだと弱者、高年齢とか妊婦とかには、優しいものです。
長生きしてもっと頑張っていただきたいですね。そして未来のノーベル賞を目指して、頑張ってくださいね、hyblaheraiaさん!
Commented by fumieve at 2009-04-22 18:57
一度だけ、ナマでお会いしたことあります。・・・といっても、広い会場で、少し近寄って見た、くらいですが(笑)。そのころは、「すごい人だ」と聞いてもふーん、というかんじでしたが、最近のますますのご活躍をテレビなどで拝見して、あらためておそれいっているところでした。
イタリアには実は、こういう、かっこいい女性がいますね。hyblaさんもノーベル音楽賞を創設させる勢いでぜひがんばってください。

それにしても、ここ数日の移民のニュースはますますつらいものがありますね。
ちょうどhyblaさんにお知らせしようと思っていたのですが、先週木曜日のCorriere Magazine(Corriere della Seraに強制的についてくる)に、現在はVerona郊外のエマウスに迎えられているソマリアから逃げてきた2人兄弟の話が載っていました。今は仕事と衣食住を得ているというだけでも、おそらくものすごく幸運な例なのでしょうけど(それでも、奥さんと子供たちを国に残してきています)、イタリアにたどりつくまでの2年間は想像を絶することばかり。こういうところの報道がまだまだ足りませんね。
Commented by ONDA at 2009-04-22 22:05 x
イタリアにこんなすごい科学者がいらしたこと、知りませんでした。しかも女性! 彼女が研究生活をしていた当時の南イタリアは女性は若い頃は父親の全ていいなりで、結婚相手も父親が決め、1人での外出も許されなかったと聞いています。北イタリアの状況は詳しく知りませんがきっと女性が科学者として生きていくには障害も色々あったことと思います。でもどんなに厳しい時代でも実力・気力のある人は活躍するのですね。
Commented by ONDA at 2009-04-22 22:07 x
それにしても行列の話、びっくり、残念です。こういうシーンではむしろ日本よりイタリアの方が親切な人に出会うことが多かったので。レジで並んでいた時に「わたしは品物が多いからお先にどうぞ」と先に譲っていただいたことも何度かありますし、高齢の方が小銭をゆ~っくりゆ~っくり数えてお会計していても長蛇の列に並んでいる誰一人文句も言いません・・・日本では後ろに並んでいた男性が「グズグズしてんじゃねーよ!」と支払いをしているおばあさんに向かって叫んでいるのをきいてびっくりしたことがあるんです。わたしが東京育ちだからなのかもしれませんが日本では忙しそうな雰囲気がプンプン漂っている人が多くて「先に通してもらえませんか?」ときける雰囲気すらないことも多いですし・・・。
Commented by 薬作り職人 at 2009-04-22 22:55 x
あ、このブログでモンタルチーニさんの話が出るとは思いませんでした〜。NGF、実験で使ってましたよ!スケッチのように、本当に神経からにょきにょき繊維が伸びてくるんですよね。最初に見たときには、驚き、生命の不思議さに感動したもんです。
モンタルチーニさんって、人間的にもすばらしい方なんですね。科学者のお手本、、見習いたいです。
Commented by organvita at 2009-04-23 04:58
先日テレビで彼女がちらっと写っていて、その応対の賢さと機敏な姿に、どういう人なんだろう?!と丁度思っていたところでした。(科学者だとは紹介していましたが)
ここで詳しく載せていただき、良くわかりました。ありがとうございます。
ああ、こういう風にカッコよく年をとりたいものです!(すでに時遅しですけど^^;)
Commented by hyblaheraia at 2009-04-25 16:33
~gabbynaさん~
モンタルチーニさんの風格と気品と、現在のイタリアの政治に対する明確な姿勢に深く賛同しています。例の教育費大削減に対してもテレビではっきりと反対していました。
この選挙の時の話はみながびっくりしました。偶然、その列にいた人々が心無い人たちだったのか、有名人だから特別扱いするなという態度だったのか・・・、まったく理解できません。
うちは研究に関わる者が3人いるのですが、全員ノーベル賞とは無縁の分野です。地道に行きます。
Commented by hyblaheraia at 2009-04-25 16:39
~fumieveさん~
うわぁ、羨ましい。実際にお会いしたことがあるんですね!遠くからでもいいからお姿を拝見して、あのオーラを浴びてみたいです。100歳のニュースを聞いてから、慌てて自叙伝を古本屋さんで買いました。届くのが楽しみです。ノーベル音楽賞、できるといいですね~。ルカが文学賞を取る確率よりも低いでしょうけれど、気持が大事ですね!
ヴェローナの難民のお話、教えてくださってありがとうございます。ネットでもちょっと探してみますね。イタリアに辿りつくのに2年もかかったとは・・・。同じ人間で、同じ外国人だからこそ、何かしたいと思うのですが、まだまだ模索中で、もがいています。
Commented by hyblaheraia at 2009-04-25 16:47
~ONDAさん~
そうなんですよ、こんなすごい人がいるんです。彼女の場合も、父親が昔風の厳しい人で本来は大学に行かれなかったそうですが、説得したようです。ナチズム下での逃亡、研究生活はどんなに不安だったことかと思いますが、信念を貫き通し、見事に成果を出し、世界の貧困問題に立ち向かっているところが素晴らしいです。100歳なのに、ですよ。
そんなイタリアが誇るべき人のことを、選挙の時にあんな風に接するなんて、私には信じられなくて、新聞のそのページをずっと保管しておいたんです。タイミングを逸して記事にできなかったことをこうして書けてよかったです。
東京のレジの殺気立った風景が目に見え、男の人の声が聞こえたようでした。私はこちらで人に順番を譲ることはあっても、譲ってもらえたことはないです。いつも買い過ぎだからかな?
Commented by hyblaheraia at 2009-04-25 16:51
~薬作り職人さん~
あ、やっぱりご存知でしたよね。NGFとはそういうものなのですか?!自分のスケッチなんかと並べてしまって、失礼千万でした!でも私がこうやって彼女の研究から力をもらっているのは良いことですよね。と、自己撤回・・・。
そうなんです、こんなに素晴らし人なのです。すっかりファンになってしまって、自叙伝を古本屋さんから買ってしまいました。届いたらまた紹介しますね。
こんな地味な分野ですけれど、科学研究からもらうインスピレーションは計り知れません。これからもいろいろ教えてください。
Commented by hyblaheraia at 2009-04-25 16:54
~ogranvitaさん~
いやいや、まだ遅くないですよ、我々は!!私は300歳まで生きると豪語して、頑張っております。音楽というのは具体的なデータや数字で何か答えが見えるものではないから、ただひたすら向き合って、感覚を研ぎ澄まして、自分を投影していくしかないのですよね。演奏者の方のそういう努力に、いつも美しいものを見ています。
CD録音、お疲れ様でした(こっそり読んでます、スミマセン)。完成したらぜひ聴かせてくださいね。
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